熱中症で1カ月に765人も死亡? 正しい数字の認識が重要
先日、総務省消防庁が7月9日から15日までの1週間に搬送された熱中症患者数について、全国で約1万人、このうち死者が12人となったことを発表し、報道各社ともこの数字を取り上げ話題になった。おそらく、来週頭に発表される7月16日~22日までの救急搬送人数は、これをさらに上回ることは間違いない。1週間で10人以上が亡くなるとは、どれほど大変な状況かと思われるかもしれないが、前記事「年間1000人以上死亡する熱中症の真の恐怖!」で書いた通り、近年、熱中症での死亡は年間1000人を超える年もある。平成22年には死者1731人を記録。その翌々年の2015年にも1077人に上った。
ここまで読んだだけで、すでにお気付きの方もいるだろうが、これらの数字は明らかに違和感がある。仮に毎週10人ずつ亡くなったとして、1カ月間の死者数は40人強。これでも、恐ろしいほど大きな数字だが、熱中症のピークは7月、8月で、年間の死亡者が1000人を超える年があることが事実だとすれば、明らかに計算が合わない。
実は、前者の数は、総務省消防庁が発表している熱中症による救急搬送状況(日別)速報値。後者は厚生労働省が発表している人口動態統計による熱中症の死亡者数で、その数は驚くほど異なる。
前者は、救急搬送された人、つまり119番通報を受けて救急車で搬送された人が対象で、その中でも「初診時において熱中症による死亡が確認され人」だけを速報として出した数値である。一方、後者は、最終的に死亡が確定した段階で、医師が死亡診断書に、死因を熱中症と記載した人の数になる<ICD-10(国際疾病分類第10版)におけるX30(自然の過度の高温への曝露)を死因とするもの>。
死亡診断書の作成には時間がかかり厚生労働省から概算が発表されるまでには半年程度がかかるため、この数字がメディアを通じて一般に知られることはあまりない。あるいは、この数字が発表される頃には、すでに冬直前になっていて、発表されたとしても人々からは関心すら持たれない。
では、実際、ひと月あたりの熱中症による死亡者はどのくらいになるのか?
厚生労働省が発表している人口動態統計における月別の熱中症の死者と、総務省消防庁が発表する熱中症による救急搬送の死者数を並べてみると、例えば、年間1731人が死亡した2010年(平成22年)には、7月に657人、8月に765人が熱中症で死亡していたことがわかる。ちなみに、同年同月に、総務省消防庁が速報として発表した熱中症による死亡者は7月が95人で8月が62人と10分の1程度の数にとどまる。
それ以降を見ても、10倍以上、数が違っている月が多い。こうした事実が人々に伝えられていないことも、現状の熱中症対策が遅れていることの大きな要因に思えてならない。
熱中症による死亡者数の比較(厚生労働省発表と総務省消防庁発表)
もう1つ、熱中症で誤解しがちなのが、熱中症による死者の発生場所である。学校での事故が報道で注目されていることから、主に学校で子供が多く亡くなっているように思われる方もいるかもしれないが、熱中症による死亡数の発生場所は圧倒的に住居が多い。年齢的には、特に65歳以上の方の比率が高いが、45歳~65歳も20%近くを占める。
前項でも書いたことだが、これほど猛暑日が続くことはもはや平時対応ではなく、災害時と同じ認識を持たねばならない。
各家庭でも、熱中症予防に努めるとともに、家族が熱中症になった時の対応を考え準備しておくべきだ。