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年間1000人以上死亡する熱中症の真の恐怖! 「水をこまめに飲む」だけでなく、直後の対応が大切

中澤幸介危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

わかったつもりでも、その対処方法までは、十分に理解されていないのが熱中症だ。

連日の猛暑で、熱中症で救急搬送される人は急増しており、命を落とす人も少なくない。厚生労働省人口動態統計によると、近年の熱中症による死亡数は、毎年1000人近くにのぼる。記録的な猛暑で熱中症による死亡者が最も多かった2010年は1731人が死亡。翌2011年は948人、2012年727人、2013年1077人、2014年529人、2015年968人と推移している。65歳以上が8割近く占めるが40~50代も多い。今年は例年を上回るペースで救急搬送件数が増えており、再び、1000人を超す可能性は十分ある。

厚生労働省 熱中症の死亡数の年次推移
厚生労働省 熱中症の死亡数の年次推移

国や自治体、医療機関などで注意を呼びかけながら、なぜ、これほど多くの人が亡くなってしまうのか? 

問題として考えられるのが、熱中症を甘く見て、十分な対策をとっていない本人の問題に加え、周辺にいる人たちの初動対応だ。

熱中症の対策は、「水をこまめに飲む」「塩分をほどよくとる」「日常的に睡眠や栄養をしっかりとる」など、一見、誰でも簡単にできそうなことばかり。あえて特別な対策をしなくてもいいと、甘く考えがちだ。確かに、熱中症に関するニュースを聞いていると、「こまめに水分補給をするように」と繰り返されているだけで、周囲に重症者が出た際の対応までは意識が回らない。

いざ、目の前に熱中症患者が現れた時には、それが熱中症によるものなのか、どう対応していいのかもわからず、まず水分補給をさせようと思っても、すでに患者は自分では水も飲めない状況となっていて、救急車が到着したときには手遅れになってしまう。

軽度・中度・重度によって対応は異なる

厚生労働省によれば、「熱中症」とは、高温多湿な環境に長くいることで、徐々に体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指す。その症状に応じて、軽度、中度、重度と分類されるが、それぞれの症状によって取るべき行動は異なる。

総務省消防庁では、症状に応じた対処方法や医療機関への受診の判断基準をパンフレットにまとめている。

それによると、症状が軽度の場合、症状が改善すれば医療機関の受診は必要ないが、中度以上の状態なら医療機関の受診を推奨している。判断基準となるのが自分で水が飲めない場合や、症状が改善されない場合だ。さらに、意識障害やけいれんが起きて重度が疑われるときには、救急車を要請することとしている。具体的な応急手当についてもイラスト付きで紹介されているので分かりやすい。

総務省消防庁 熱中症対策リーフレット
総務省消防庁 熱中症対策リーフレット
総務省消防庁 熱中症対策リーフレット
総務省消防庁 熱中症対策リーフレット

呼びかけへの反応がわるい場合は、無理に水を飲ませてはいけない

 

こうした初動対応の手順をわかりやすく示しているのが、環境省がまとめた「熱中症環境保健マニュアル 2018」だ。

周囲に熱中症が疑われる人が発生した場合の基本的な流れを解説。まず、呼びかけに応えないときには、すぐ救急車を要請する。

その際の注意点として、救急車が来るまでの間、呼びかけへの反応がわるい場合は無理に水を飲ませてはいけないことや、氷のうなどがあれば、首、わきの下、太ももの付け根を集中的に冷やすことも盛り込んでいる。

環境省 熱中症環境保健マニュアル 2018
環境省 熱中症環境保健マニュアル 2018

いかに早く体温を下げるか。氷の水風呂に患者を浸す

一方、救急科専門医の鶴和幹浩氏(株式会社 指導医.com代表取締役)は、熱中症は、発症初期には重症かどうかがわかりにくく、後で悪化することがあると指摘する。さらに、合併症率や死亡率は高体温の時間によるため、いかに早く体温を下げるか、まず必要になるのが冷却だと強調する。

http://www.risktaisaku.com/articles/-/1562

体温が高いままだと救急搬送を依頼している間にもどんどん病状は悪化していくため、とにかく、冷却を遅らせるようなことがあってはいけないとする。もっとも効果的な冷却方法は「氷の水風呂に患者を浸す」という治療法だという。鶴和氏によれば、水温15℃以下の水風呂に入れると、3~5分ごとに体温が1℃下がるので、それでも患者を10~15分間浸す必要があるという。

実は、アメリカでも米疾病予防管理センターが熱中症患者に対して、冷水や氷風呂(ice bath)で可能な限り早く冷やすことを推奨している。

日本では、具合が悪くなっている人を氷水の中に入れるという対処方法は考えつきにくいし、仮にそれができる環境であったとしても、受け入れられ難いが、今後、熱中症の被害を軽減させていくためには、こうした方法も含め、どのような応急処置をどの程度続けることで、どの程度の効果があるのか、論的根拠を示していくことが必要だろう。

また、急病人など窮地の人を救うために善意の行動をとった場合、たとえ失敗してもその結果につき責任を問われない 「善きソマリア人の法」なども併せて考えていく必要あがるように思う。

緊急提言 すべての学校・組織で行うべきこと (7月19日加筆)

1、熱中症患者がでることを前提とした準備を整える(氷・水の準備、救急要請の判断基準の明確化、救急車が来るまでの応急措置の知識習得等)

2、熱中症が疑われた患者が出た際の正しい措置(声をかけ、意識がもうろうとしていたら直ちに救急車。救急車がくるまでの間、可能な限り冷やす。服をゆるめ、氷水で首や脇下を冷やし扇風機やエアコンでも冷やす)

3、外気温何度以上、あるいは高温注意報が出ていたら、外でのイベントや作業を禁止するなど明確で判断しやすいルールを定める

4、熱中症が非常に危険なものであることを改めて周知する

5、こまめな水や、適度な塩分の摂取、エアコンによる冷房、十分な栄養、睡眠の確保など従来通りの対策

危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長

平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。国内外500を超えるBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー、平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー、平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」「LIFE~命を守る教科書」等がある。

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