伝統的なマスメディアから開放された視聴者が向かう先は、文法、様式、強い忠誠心を共有する「超マス」か。
4月の25日、26日に、ニコニコ超会議が開催された。いわずとしれた、ニコニコ動画を擁するドワンゴが提供するオフラインとオンラインを横断したイベントで、今回が4回目の開催になる。
【速報】“ニコニコ超会議2015”会場総来場者数は15万1115人! “超会議2016”&“町会議2015”も開催決定- ファミ通.com
http://www.famitsu.com/news/201504/26077584.html
すでに上記のような速報が出ているように、15万1115人を動員し、大成功だったようだ。以前から超会議の存在は知っていたが、あらゆる行列と人が密集している空間が苦手なので、あまり足が向かなかった。ところが、今年、ドワンゴはプロモーションの一環として、ブロガーらにもチケットを相当配っていたようである。その一環として、知己の担当者からプレスチケットを手配してもらえたので、また並行してニワンゴの杉本誠司社長が招待券を送って下さっていたこともあって、さすがにネットやメディアを論じる身としてはそろそろ行く他あるまいということで、はじめて足を運んでみた。いや、だいぶお膳立てしていただいてやっとなので、足を運ばせていただいたというのが正解かもしれない。
…とはいえ、「幕張メッセ遠いなあ」などと思っていたら、着くのが随分遅くなってしまい、14時頃だった。ときどき、千葉みなと駅まで通勤しているので、距離感はわかっているはずだったのだが、出遅れてしまった。2日目は、17時までなので到着する前に終わってしまうのではないかと焦ったが、まだまだ海浜幕張の駅から会場まで十分な人の列が続いていた。
なんでも後から聞いたところでは、入場まで随分時間がかかるらしく、ある意味ではこのくらいの時間の到着でよかったかもしれない。写真がボケているのは、タブレットとスマホで撮っていたからなので、ご容赦のほどを。会場は大変な人だった。取り敢えず勝手によくわからないので、会場の端から端まで、3、4往復したのちに、別会場で自衛隊等々の展示を見るというコースを辿った。
まず向かってみたのは、業界的に馴染みの深い(?)言論ブースだった。そこでは田原総一朗氏が司会になって香山リカ氏や池田信夫氏らが憲法談義を交わしていた。何というか、往年の活況を呈していた頃の朝ナマの熱気を再現したような雰囲気だった。その後ネットでは既に話題になったが、大塚英志氏が途中で退席して、奇しくもテッパンの朝ナマ名物が再現され、おおいに盛り上がったようだ。
田原総一朗氏が「ニコニコ超会議」で激怒 大塚英志氏が途中退席する事態
http://news.livedoor.com/article/detail/10051298/
相撲、(オンライン&アナログ)ゲーム実況、「踊ってみた」、ライブ、将棋、プロレス、コンテンツはなんでもありである。「日本の若者は元気がない」などといわれるが、とりあえず、この会場については余計なお世話というほかないだろう。会場の年齢層は、日本の人口構成に対して、圧倒的に若い。10代〜40代くらいが中心だった。従来の意味での「オタク」という狭い参加者ではなく、実に多岐にわたっている。カップルや仲間での参加も多い。10名程度の大集団や親子連れもいた。加えて、それぞれのイベントは、ネットの先にも視聴者がいるわけだから、凄まじい規模と熱気である。以下は、ざっと印象に残ったものを紹介したい。政治と社会に偏っているのは、仕事柄、仕方ないということでご容赦いただきたい。
警察もマスコットや、警察車用を持ち込んで大きくブースを展開していた。自衛隊などと同様、リクルーティングや若者への認知拡大をミッションとしているものと思われる。多くの人が集まっていた。
これまで何かと物議を醸していた政党だが、今回出展していたのは民主党だけだった。「人がいない」とツイートしていたら、Facebookに、民主くんの中の人から「いや、人はいた。印象操作ですか」とコメントをもらった。真実は知らない。取り敢えず、今のところ講演を除くと政治の仕事はしていないので、民主党にネガティブな印象操作するインセンティブはとくにない。過去のぼくの立場からすれば、むしろ頑張れ、というほうじゃないかと思うが・・・
今回も、高射砲やミサイルを持ち込み、陸海空すべての自衛隊がブースを出していた。また説明の人も多数貼り付けていて、大変な規模だった。完全にリクルーティングと認知拡大がミッションと思われるが、説明の担当者も、こういうイベントを好きな人を探してあてているのか、どことなく楽しそうな様子だった(これは警察ブースも同様だった)。確かに、地廻りのリクルーティングよりも、こういうイベントで自衛隊に親しんでもらったほうが、これからのリクルーティングには効きそうだ。
こちらは、自衛隊のパネル展示。
在日米陸軍も出展していた。規模は小さく、自衛隊ブースと隣り合っていて、おまけみたいな感じだった。
パトレイバー世代なので、なかなか見応えあるサイズだった。
このほかに、ニコニコ学会βもチラっと観たが、完全に写真を撮り損ねていた・・・
しかし、ニコニコ超会議にはじめて足を運んで感じたのは、それなりに、日本のネットの登場とともに慣れ親しんできたし、ネットでも仕事をしてきたと思うのだけれど、この新しいムーブメントにはついていけていないということだった。30代になって、だんだんスポーツ選手の年齢が自分より下になり、タレントの顔と名前が一致しなくなり、アイドルがすべて同じように見える現象と似ている。どうやら、Web2.0とソーシャルメディアあたりまでが、筆者が主観的に楽しむことができた「ネット」なのかもしれない。LINEもイマイチ肌にあわないので、家庭内連絡網と化している(その点、このYahoo!ニュース個人は、基本ルールが「古き良きブログ」で助かる)。
それほどに、幕張メッセというリアルな空間を、独特の文法、様式、そしてプラットフォームであるニコニコ動画的なものへの強い、しかし潜在的な忠誠心が覆い尽くしていた。考えてみれば、これはなかなか不思議なことである。各自が享受しているコンテンツは、バラバラであるにもかかわらず、この空間には明らかに共通点がある。うまく言語化できないが、盛り上がっているブースについて気づいた点を、取り敢えず3点並べてみると、次のようになるだろうか。
・ネットと現地の双方に、ちょっとした「参加感」があること
・共有できる「突っ込みどころ」が残されていること
・「定番もの」が各所で見られること
むろん、これらはあくまで、何の体系的な観察ではない。ぱっと、見渡して気づいた点というものだ。とはいえ、なかなか興味深かった。これまで、ネットメディアは、マスメディアと対立的な図式で語られることが多かった。つまり、マスメディアを介して(とくに日本のメディア環境においては)、数十万人〜数百万人単位の人が同時にひとつのコンテンツを消費していた。それに対して、ネットメディアの時代になると、もっと個人的な消費や、コンテンツ体験は個人的なものになるように思われていた。
ところが、ニコニコ超会議が見せるネットメディアの未来像は少し違う。リアルタイムであろうがなかろうが、大規模で、消費の対象こそ変われど、共通のプラットフォームを用いることで、個々人はあまり意識することなく、あるいは過剰に意識しながら、両者が表裏一体となて、超大規模な「マス」になっている。このマスは忠誠心も高い。オンラインにとどまらず、お金を払って、この、なかなか快適とは言い難い会場にまで足を運び、没入体験に興じるのだから。
そういえば、この辺りは、EDMのミュージックビデオに感じる印象と似ているかもしれない。伝統的なハウスやテクノは、ライブのみならず、アルバムで聴いても結構楽しめる。それに対して、EDMはどこか違和がある。YouTubeで1時間位ある公式ライブを流しているのが一番しっくり来る。このビデオも積極的に、楽しんでいるオーディエンスを撮影する。そしてEDMのアーティストは、もはやアルバム作成に対しては積極的ではなく、シングルをたくさんリリースしている。ビジネスモデルの変化なのかもしれない。ニコニコ超会議的なものの本質と関係があるかもしれないし、ないのかもしれない(下記は、最近良く聴いてるMartin Garrixのライブ)。
伝統的なマスメディアから開放された視聴者が向かう先は、どこか。文法、様式、強い忠誠心を共有する「超マス」か、それともまた別のあり方なのか。何か新しい説明図式が必要なのかもしれないし、それとも従来のメディア論で説明できるものなのかもしれない。考えてみるとなかなか楽しい。このような観察や思考を楽しんでいる時点で、もはやこの場にはふさわしくないかもしれないとも思ったが、先日81歳を迎えられた田原総一朗氏が、言論ブースでは主役を張っていた。まだまだ諦めたり、背を向けるのは早いだろう。いずれにせよ好奇心と思考を刺激される、良い機会だった。