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「終活」の仕上げは「遺言」で!~「宣言」や「ノート」だけでは「争族」の元凶になるので要注意

竹内豊行政書士
「遺言書」を残すのは、生前の希望を死後に実現するための有力な手段です。(ペイレスイメージズ/アフロ)

女優の泉ピン子さんが、2月14日のフジテレビ系「ノンストップ!」で最近始められた終活について言及されました。

ディリ―スポーツによると、着物は演歌歌手の坂本冬美さんに「全部あげてって言ってある」と渡す相手を決めてあるそうです。また、「嫌いなやつにはやらないでって書いておく」と、大好きな人、お世話になった人へ遺品は残すと明言されているそうです。

ピン子さんのように、終活に勤しんでいる方は大勢いいらっしゃると思います。ただ、終活が「争族」を招くこともあります。

死後に希望を実現するには

ピン子さんのように生前の希望を死後に実現するには、「遺言」が必要になります。

たとえば、坂本冬美さんは相続人ではないので(ただし、養子縁組をすれば相続人になります)、ピン子さんの遺産を引き継ぐ権利はありません。

したがって、「私が所有しているすべての着物を坂本冬美さんへ遺贈する」と民法で定められている形式に則って遺言を残す必要があります。

民法で定めている自筆証書遺言の成立要件は次のとおりです。

民法968条 

自筆証書遺言によって遺言をするときには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

●「形見分け」で分けられるのではないか

「形見分け」として引き継ぐことができるのではないかとお考えのかたもいるかもしれません。

しかし、ピン子さんがお持ちの着物は「経済的価値」が相当に高いものでしょう。したがって、「形見分け」として簡単に分けられるものとは考えにくい。

想いを死後に確実に実現するためにも、「あげる」という意思を遺言に明確に残しておくべきでしょう。

エンディングノートが「争族」の引き金に

「エンディングノートを残せばよいのではないか」とお考えの方。

しかし、私が知る限り、「エンディングノート」といわれるもので、民法が定める「遺言成立の要件」を満たしているものはほとんどないようです。

そのため、エンディングノートでは死後、意思を実現することが困難です。そればかりでなく、「エンディングノートのとおりに遺産分けをすべきだ!」「いや、これは法的には効力が無いのだから協議できめるべきだ!」といったように相続人の間で意見が対立してしまうといった、「争族」の火種を残すことにもなりかねません。

実際、遺産分けの相談で、「(亡くなった)父が残したエンディングノートです」とご遺族から提示されることがままあります。

しかし、民法の遺言の成立要件を満たしているものはほとんどお目にかからないというのが実際のところです。当然、遺産の不動産登記や銀行預金の払戻しなど相続手続は行うことができません。

この場合は、遺族が承諾すればエンディングノートの内容を忖度して、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。ただし、「エンディングノートはただのメモ書きだ」などとエンディングノートに基づいて遺産分けをするのに反対をする者が一人でもいれば、「まっさらな状態」で相続人全員による遺産分けの協議を行うことになってしまいます。

このように、死後に自分の意思を確実に実現するには民法の要件を満たした「遺言書」を残す必要があります。だたし、いきなり遺言を残すことに抵抗を覚える方もいるでしょう。

そこで、「エンディングノート」を「遺言の下書き」と位置付けてみてはいかがでしょうか。そして、書き上げたエンディングノートを基に遺言を仕上げてみる。そうすれば、生前の希望を死後に実現できる可能性がグッと高くります。

ちなみに、「〇〇には不動産を残す」「□□には、銀行預金を残す」などと「宣言」だけして遺言を残さないのも「争族」を招く典型的なパターンの一つです。

「口は災いの元」。くれぐれもお気を付けください。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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