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制作者が「ドラマの方程式が変わった」と言う「おっさんずラブ」「きのう何食べた?」の大ヒット

篠田博之月刊『創』編集長
大ヒットしたドラマ「おっさんずラブ」(テレビ朝日提供)

 発売中の月刊『創』(つくる)1月号はテレビ局の特集だ。キー局全局の現場を取材するのは大変だが、各局を比較することができて興味深いことがいろいろわかる。

 テレビはこの何年か、かつてドラマをよく見ていたという20代女性が「テレビ離れ」しているなど、視聴者構造の変化に見舞われているのだが、これはテレビというメディアがひとつの時代を終えつつあることの反映でもある。ただそんな変化の中でも、メディアは時代を映し出す面を持っているからこれがまた興味深い。

 

 それを端的に示すのは、フジテレビの看板ドラマ「月9」をめぐる変化や、その一方でテレビ朝日の「おっさんずラブ」とテレビ東京の「きのう何食べた?」がヒットしたという出来事だろう。いずれの番組もプロデューサー自身が「ドラマの方程式が変わった」と語っており、この変化が何を意味しているのか分析するのは大変大事なことのように思える。

 そこでこのふたつの番組のプロデューサーと、フジテレビのドラマ部門の責任者、それにNHKや日本テレビのドラマについても『創』1月号から紹介しよう。10月クールのドラマは12月に終了しているものも多いが、個々のドラマの作品紹介がこの記事の目的ではないのでご承知いただきたい。

最初は1話だけのつもりだった「おっさんずラブ」

 テレビ朝日のドラマは2019年秋、「ドクターX」「相棒」「科捜研の女」と鉄壁の3本が快走して絶好調なのだが、そこに前年からの深夜ドラマ「おっさんずラブ」がシリーズとして加わった。しかも前者の3本と違って「おっさんずラブ」のヒットは、ドラマ制作部のベテランプロデューサーにとっても、ちょっとした驚きだったようなのだ。

 テレビ朝日総合編成局ドラマ制作部の三輪祐見子部長兼ゼネラルプロデューサーの話を紹介しよう。

 「『おっさんずラブ』は2017年10月から始まった土曜ナイトドラマという深夜枠です。最初は2016年年末に1時間の単発で放送し、好評だったので2018年4月期に土曜ナイトドラマ枠で放送、そして映画を公開し、今回の連ドラでシーズン2になります。

 視聴率は第1回が5・8%、その後4話までの平均が4・6%ですが、昨年のシーズン1の第1話は2・9%でしたからほぼ倍増です。映画によって全国的に知られるようになったことが大きかったのだと思います。配信で見られた数も『ドクターX』に次ぐ勢いです。

 2018年の連ドラも、開始後のSNSの反応が非常に大きく、連ドラ後半戦になって一気に火が付いたという感じでした。DVDも大変売れました。

 主な視聴者はF2F3の女性層です。男性はちょっと抵抗感がある人もいるみたいですが、かつてトレンディドラマを見ていた女性層に刺さっていると思います。貴島彩理らプロデューサー4人もその世代の女性で、胸キュンポイントの作り方とか、かつての恋愛ドラマにならって作っています。違うのは、たまたまドラマの主役が男性同士だったということだけです(笑)。

 もともとこの企画は、若手に好きに作っていいよという枠が2016年の年末に3枠ありまして、その1つに上がってきたものでした。最初から吉田鋼太郎さんと田中圭さんというキャストは決まっていたのですが、1話だけだったので思い切ってやってみようという感じでした。お二人とも1回だけのつもりだったと思います(笑)」

 若手の制作者に思い切ってやらせるために1回だけのつもりでやってみたというのだ。でもそれが大ヒットしたことで、大事なことに気付かされた。三輪ゼネラルプロデューサーの話を続けよう。

 「最近の視聴率や反響などをみているとこれまでのセオリーが通じないなと思うこともあります。番組の視聴率自体は最初低くて多少心配に思っても若手に思い切って任せるというのが、番組の勢いにつながっていると思います。『おっさんずラブ』は、映画の興収が26億円超で、予想を大きく超えるヒットになり、応援上映の会場などまさにライブ会場の雰囲気です。制作者の勢いが伝わったんだと思います」

テレビ東京「ドラマ24」のヒット「きのう何食べた?」

 次に紹介するのはテレビ東京の制作局ドラマ室の阿部真士プロデューサーの話だ。阿部さんは、テレビ東京が金曜深夜に放送している「ドラマ24」という枠全体を見ている。

 「きのう何食べた?」は2019年春に放送して大きな反響を巻き起こしたドラマで、主演が西島秀俊、内野聖陽の2人。西島さんがテレビ東京のドラマに出演するのはこれが初めてという。原作は人気漫画家よしながふみさんの『モーニング』連載作品で、2019年に講談社漫画賞を受賞している。2人の同性カップルが「きのう何食べた?」といった日常会話を交わすのだが、料理にこだわっているのも特徴だ。

ヒットした「きのうアニ食べた?」(テレビ東京提供)
ヒットした「きのうアニ食べた?」(テレビ東京提供)

 「内容自体はホームドラマなんですが、主人公の2人が男性の同性カップルという点が時代にマッチしたんでしょうか。連ドラの時は4人のプロデューサーが携わっていたんですが、そのうち2人が女性なんです。この女性目線ということも大きな意味を持っていたと思います。共感ポイントが男性とは異なります。原作のよしながふみさんも、脚本の安達奈緒子さんも女性です。ドラマ24の枠はもともと40~50代男性がメインターゲットなのですが、このドラマに限っては視聴者の男女比が逆転しているのです。

 ドラマ24の枠では『孤独のグルメ』という人気シリーズがあって、10月期のシーズン8では久々に深夜で4%の視聴率を叩き出したりしているのですが、それは料理を食べる番組なんです。でも『きのう何食べた?』は料理を作るドラマなんですね。そこがたぶん女性ファンが多い一つの要因だと思います」

 テレビ東京はいま、深夜にドラマ枠を5つも持っているのだが、その中でもドラマ24はある種のブランド的価値を持っている。映画化されて大ヒットした「モテキ」もこの枠だったし、大根仁、白石和彌といった何人ものクリエイターがこのドラマの演出を行ってきた。ゴールデンのドラマと異なり、エッジの効いたドラマができると、この枠でドラマを制作することを希望する監督もいる。

「きのう何食べた?」は、初回放送直後からネットで話題になり、ツイッター世界トレンド1位。ドラマ再生回数が全話で100万回を超えた。原作に忠実な主役2人のビジュアルのインパクトもファンに刺さったらしい。その後もザテレビジョンドラマアカデミー賞を受賞するなど評価されている。

 この1年ほど、テレビ朝日の連続ドラマ「おっさんずラブ」も大ブレイクしたが、ゲイのドラマが期せずして2つの局でブームになったわけだ。

 「やはり時代が変化したのではないでしょうか。同性カップルに対して個人の意識レベルでも、社会全体でも許容されてきたということだと思います」(阿部プロデューサー)

 ちなみにテレビ東京では年末年始に「美食晩餐会」と銘打って、グルメ関連のドラマを3本、スペシャル版で放送する。12月31日が『孤独のグルメ』、1月1日が『きのう何食べた?』、1月2日が『忘却のサチコ』だ。『きのう何食べた?』は何と元日の夜という良い時間帯に、満を持してスペシャル版が放送されるわけだ。

「連続ドラマの時から3人の監督で撮影していたのですが、元日の90分番組は3章だてにして3人の監督がそれぞれ制作する形にしました。“誰のために時間とお金を使いたいか”というのが番組全体のテーマで、1章から3章まで違う形でアプローチするというものです」(同)

「月9」視聴率の回復は流れが変わる兆しなのか

 月曜夜9時台のフジテレビのドラマは「月9」については、同局の編成制作局制作センターの牧野正第一制作室長に聞いた。

 「月9」は言うまでもなく、かつてフジテレビに勢いがあった時代を象徴するドラマ枠で、一時は一世を風靡した感があった。その後、スマホの普及とともにテレビをめぐる視聴環境が激変し、若い女性がリアルタイムでドラマを見る習慣自体が少なくなり、「月9」もかつての勢いを失っていった。同時にそれは、民放トップを独走していたフジテレビの失速を象徴することでもあった。

 ところが、2018年頃から「月9」の視聴率が回復しつつある。そしてそれは、フジテレビの勢いが回復しつつある兆しではないかと受けとめられてもいる。

 「この10月から放送している『シャーロック』は第1話が視聴率12・8%で、11月までの平均が10・1%で推移しています。2018年7月期の『絶対零度』で平均視聴率が2桁になって以降、『月9』はずっとそれを維持しています。4月期の『ラジエーションハウス』が全話平均12・1%、7月期の『監察医朝顔』は12・6%でした。今、テレビを見ている人自体が減って総世帯視聴率が落ちていますから、そういうハードルがある中で一貫して2桁をとっているというのは健闘していると言ってよいと思います。

 その兆しが見え始めたのは2018年4月期の『コンフィデンスマンJP』からでした。平均視聴率は8・9%でしたが、このドラマで手応えを得て、次の『絶対零度』につながっていった。『コンフィデンスマンJP』はそういう手応えを感じた作品で、映画化もされました。『絶対零度』は続編が2020年1月期から放送されることになっています」

 10月期に放送されていた「シャーロック」は、シャーロック・ホームズのシリーズを原作にしたドラマだった。ただし「アントールドストーリーズ」(語られざる事件)とうたっているように、原作で言及されてはいるが詳しく語られていない事件をベースに、制作者や脚本家がストーリーを考えたオリジナル部分も多い。舞台もイギリスでなく東京である。そしてキャストは、シャーロック・ホームズに相当する主人公がディ―ン・フジオカ、相棒のワトソンに相当するのが岩田剛典というイケメンコンビ。このへんが「月9」ならではだ。牧野室長がこう語る。

「かつての『月9』は恋愛ドラマが中心で、主な視聴者がF1、F2と言われる若い女性でした。でも今、F1層(20~34歳女性)はそもそも毎週夜9時にリアルタイムでドラマを見るという習慣自体が少なくなってきています。ドラマというのは、その時間に見続ける習慣が一度なくなってしまうと、取り戻すのはなかなか大変なのです。 

 今の『月9』は、やはり女性がメインなのですが、中心的な視聴者はF2、F3と、年齢層が少し高くなっています。その層を中心に幅広い層にどうやって見てもらうか、オールターゲットという戦略ですね。題材も事件ものや医療ものが多くなっています。近年、他局も含めて、このジャンルのドラマが多くなっていますが、フジテレビはキャスティングや中身で、少しエッジを立たせようと意識しています。例えば『シャーロック』も主人公がディ―ン・フジオカさんなら、ワトソンには年配の個性派俳優をあてるのが普通ですが、そこに岩田剛典さんをキャスティングしました。上の層にも見てもらえるものにするけれど、上目になりすぎず、幅広い層の方に見てもらえるように意識しています。

 かつてのようなラブコメをやらないと決めているわけではありません。でも時代が変わってきたなかで、昔と同じ感覚ではいけない。何か工夫が必要なのです。『月9』は一時期、数字がとれない時期が続きました。このところ続けて2桁の視聴率を維持しているのは、そういう工夫の結果だと思いますが、月曜9時にドラマを見るという視聴習慣がここで根付いてほしいですね」

NHKも「よるドラ」「ドラマ10」など新たなチャレンジ

 NHKのドラマをめぐる新しい動きも紹介しよう。語るのはNHK編成局編成センターの大里智之センター長だ。ここ数年、NHKにとって大きな課題となっているのは、若い人たちに見てもらうテレビ局にするにはどうすればよいのか、ということだ。

 「局内でも20~30代の若いディレクターに企画を出してもらって若い人向けの番組を作っていこうとしており、その結果生まれたのが、例えばこの4月からスタートした土曜夜11時台の『よるドラ』です。

 1月から『ゾンビが来たから人生見つめなおした件』というドラマを放送し、その後4月からその枠を定時化しました。それが『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』です。続いて7月期には『だから私は推しました』、10月期には『決してマネしないでください。』を放送しています。そしてその連続ドラマの間に2話とか3話ですが、『ドラマ 聖☆おにいさん』も放送しました。

 従来、NHKでドラマというと、大河ドラマか朝ドラが代表的でした。でも、今は若い人がやる『よるドラ』のような枠もできたわけで、ドラマ部も盛り上がっています。『よるドラ』は20代から30代によく見られているのですが、なかには10代の視聴者もいます。

 例えば『だから私は推しました』の関連で、架空のアイドルのツイッターを立ち上げてみるという試みをしたのですが、2万ものフォロワーがついたのですね。NHKオンデマンドを利用して、スマホで見ている方も多いようです。プロデューサーはまだ20代の女性です。

 ドラマ制作については、『よるドラ』の最初の作品はNHKドラマ部で作りましたが、『決してマネしないでください。』は企画競争をしたうえで外部のプロダクションに制作をしていただいています。また『ドラマ 聖☆おにいさん』は、NHKが放送権を買って放送しているものです」

夜ドラ「決してマネしないでください。」NHK提供
夜ドラ「決してマネしないでください。」NHK提供

 この「よるドラ」のほかにもNHKが若い視聴者獲得を意識して取り組んでいるのは、金曜夜10時台の「ドラマ10」だ。この7月期に放送された『これは経費で落ちません!』は原作が集英社のオレンジ文庫。経理職の女性を主人公にしたドラマだが、NNKオンデマンドの視聴回数が圧倒的で、通常1位は朝ドラか大河ドラマなのだが、その両者を抜いてトップになった回もあったという。

「ヒットしたのは、多部未華子さんの演技が好評だったことと、経理部という身近な職場を舞台にして、日常的によくある話が出てくるドラマだったことが要因だと思います。

 注目すべきは、このドラマのスタート当初は50~60代の女性が主な視聴者だったのですが、回を追うにつれて30~40代の女性が増えていったことです。話題になったことで若い人に広がっていったのですね」(大里センター長)

 NHKにはBSなども含めてたくさんのドラマ枠があるのだが、「よるドラ」や「ドラマ10」は、若い視聴者開拓に力を発揮しているといえそうだ。

日本テレビはドラマをストックコンテンツと位置づけ

 日本テレビのドラマを統轄する情報・制作局の福士睦担当局次長にも話を聞いた。日本テレビは、ドラマをストックコンテンツと位置付けて、配信などと積極的に連動させているのが特徴だ。

 「日本テレビでは13~49歳の視聴者をコアターゲットと設定し、この層をどれだけ取れるかを重視していますが、それぞれのドラマがコア層をしっかりつかむために工夫を凝らしています。

 各枠でヒットドラマが生まれている理由の一つとして、枠ごとの曜日戦略をクリエイターがしっかり意識していることがあると思います。ちょっと深い時間の日曜枠は「話題性と中毒性を持つエッジの効いたエンタテイメント」、疲れがたまる週の真ん中の水曜は「女性が共感しハッピーな気分になれる良質なエンタテイメント」、そして土曜は「週末観たい痛快王道エンタテイメント」という位置づけです」

 

 Huluなどの配信との連動も積極的に行っている。

「あるドラマのディープなファンになった人は、さらに関連コンテンツに触れたい欲求が生まれます。例えば『あなたの番です』はマンション住民の間で行われる交換殺人の話なのですが、ドラマを見ながらSNSで誰が犯人かを考察していくというのが盛り上がり、『考察ブーム』が生まれました。そうやって生活者が可処分時間を使ってくれる、盛り上がる祭りの場を提供する、一種のイベント化ができました。Huluでも『扉の向こう』というオリジナルドラマを地上波放送にあわせて毎回配信しました。一話完結でない2クールドラマという挑戦でしたが、新しいドラマの見方を提示でき、『あな番』として流行語大賞にもノミネートされました」(福士局次長)

 ドラマというのは、元々「局の顔」というイメージがあって各局、力を入れてきたのだが、日本テレビに特徴的なように配信などとも連動など、コンテンツという位置づけで見直されつつある。『創』1月号のテレビ特集では、ここであげたほかにもTBS日曜の「グランメゾン東京」のプロデューサーのコメントも掲載しているし、ここでは割愛したが、テレビ朝日の「ドクターX」などについても、もちろん取り上げている。ぜひ特集の原文をご覧いただきたい。特集内容は下記を参照してほしい。

https://www.tsukuru.co.jp/gekkan/2019/12/20201.html 

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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