アウシュビッツからの生還者で「Two Who Survived」作者ローザ・シンドラー氏93歳で死去
米国サンディエゴに住むホロコースト生存者のローザ・シンドラー氏が2023年2月に93歳で逝去された。ローザ・シンドラー氏は1929年にチェコで生まれた。14歳の時に両親、5人の姉妹と、2人の兄弟ともにアウシュビッツ絶滅収容所に移送されたが奇跡的に生き延びることができた。戦後はアメリカで生活をしていた。同じくアウシュビッツ絶滅収容所を生き延びることができたドイツ出身のマックス・シンドラーとともに「Two Who Survived」という本でホロコースト時代の経験や記憶を伝えていた。「Two Who Survived」はアメリカではホロコースト教育にもよく使用されている。
ローザ・シンドラー氏は自身のホロコースト時代の経験をインタビューや講演で語ってきた。死ぬ直前までカリフォルニア大学サンディエゴ校など地元で語っていた。コロナ禍で外出できなかった2020年にもWebを通じてTEDXに出演してホロコースト時代の経験と記憶を語っていた。
▼2020年のTEDXでホロコースト時代の経験を語るローザ・シンドラー氏
「記憶のデジタル化」に積極的だったローザ氏
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。
現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことをホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。だがホロコーストを経験した生存者は当時の悲惨な体験を子供たちや世間の人に語りたがらない人の方が多い。
ローザ・シンドラー氏は1950年代半ばに米国に移住してきてからホロコーストについて語ってきていた。当時はまだ動画の録画やデジタル化は容易ではなかった。1980年代頃からはビデオで撮影してテープで保存していたが、その頃からホロコーストの経験を語っていた。学校や博物館で語るのでは、目の前にいる人たちにしか話ができないが、ビデオに撮影しておけば何回でも誰でもいつでも視聴できて、自分の話を聞いてくれるということを理解していた。
南カリフォルニア大学(USC)にあるショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。過去に撮影された動画なども収集してデジタル化して世界中にオンラインで配信している。ローザ・シンドラー氏とマックス・シンドラー氏の過去の貴重な動画もデジタル化されて、YouTubeでも全世界に公開されている。
いずれホロコースト生存者が全員いなくなり、ホロコーストの経験や記憶を語り継ぐ人がいなくなることをロバート・クラリー氏は誰よりも理解していた。自分が死んだ後でもホロコースト時代の経験や記憶が語り継がれるために、インターネットもまだほとんど普及していなかった頃からホロコースト時代の経験や記憶を語っていた。
▼ローザ氏とマックス氏が若かった頃の動画(南カリフォルニア大学ショア財団)
▼2022年のホロコースト記念日のローザ氏
▼ローザ氏が死亡したことを伝えるサンディエゴのメディア