【動画あり】衝撃!メルセデス・ベンツ新型Aクラスに乗る(前編)
走りはCクラスを超えた!?
「マジ!? 凄い…」
そういって、僕は助手席に座る試乗パートナーの同業者と思わず顔を見合わせた。6年ぶりにフルモデルチェンジして4代目となったメルセデス・ベンツ新型Aクラスの国際試乗会は、そうして幕を開けた。
冒頭の言葉を口にしたのは、走り始めてわずか数分のこと。クロアチアのスプリトという街の、海辺のホテルを起点としたこの試乗会で、試乗車を受け取って石畳の取り付け道路を経て、一般道にアクセスして間もなく、我々は顔を見合わせたのだった。
初日に受け取った試乗車は、A250エディション1というモデル。これはメルセデス・ベンツが最近新型車を送り出す場合に必ず設定する限定モデルだ。要はベスト・オブ・ベスト的な1台で、今回も現時点での最上級モデルであるA250をベースとして、考えられうる装備をほぼ全て与えた、いわゆる“全部付き”の1台である。
新型Aクラスに関しては、既にこの試乗会の前にジュネーヴショーの会場でチェックするなどして、かなり好印象を抱いていた。それだけに当然、高い期待をもって試乗に望んだわけだが、実際このA250エディション1は僕の期待の遥か上を行く走りを見せつけた。事実、最初の言葉に続いて口をついたのは、
「Cクラスを超えたかも?」
という言葉。それほどに強烈なインパクトを与える走りだったのだ。
なぜそこまで驚いたかといえば、このA250エディション1は19インチサイズのタイヤ&アルミホイールが与えられていたから。欧州Cセグメントの車格に19インチの組み合わせは、正直見た目重視でトゥーマッチだろうというのが試乗前の予測である。実際タイヤ&ホイールは大径になるほど、乗り心地には厳しくなる。
しかしながら走り出してすぐに、Cクラスを超えたかと思えるような滑らかさで我々を驚かせたのだった。
その印象は、まるで路面を平らに踏みならしたところを走っているような感覚。路面の荒れや段差がごくわずかにしか感じられず、なめらかな感触だけが届けられる。一方で高速道路ではしっかりとフラットな姿勢を維持して安心感の高い巡航を行う辺り、さすがのバランスの良さといえるだろう。
今回、新型Aクラスは先代で用いたMFAと呼ばれるアーキテクチャを進化させた、MFA2というアーキテクチャを採用する。これによって先代よりも軽量高剛性となっているが、一方でボディサイズは全長4419mm×全幅1796mm×全高1440mm、ホイールベースは2730mm(欧州仕様数値)と、以前より一回り大きくなり、欧州Cセグメントの中でもプレミアム志向なモデルに分類されることになる。
新たなアーキテクチャに加え、サスペンションは今回フロントはマクファーソンストラットだが、リアはマルチリンクとトーションビームの2種類が用意されている。この使い分けは、16〜17インチがトーションビーム、18〜19インチがマルチリンク。つまり上級モデルやハイパフォーマンスモデルにはマルチリンクを与えたということである。
そこからすると今回試乗したA250エディション1は19インチとなるのでマルチリンクを採用している。加えてオプションで用意される電子制御の可変ダンピングシステムが装着された仕様だった。そう考えるとやはりこのA250は今回のAクラスの走りに関しては最上級なわけで、その装備に相応しい乗り味走り味を生み出していたことに納得がいくわけだ。
そして走行していると室内の静粛性の高さも驚かされた。A250の場合、エンジンと室内の間に設けられる隔壁(バルクヘッド)の前に、さらにもう一枚遮音のためのカバーが設けられており、エンジンのノイズがキッチリとカットされている。合わせてボディの空力特性を磨き込みCd値0.25という優秀な数値を実現すると同時に、風切り音等も従来比ー30%と大幅に低減したことも静粛性の高さに大きく貢献している。結果その静粛性の高さは、クラストップといえるレベルに達していたわけだ。
一方でエンジンの印象は、相変わらずのメルセデス・ベンツらしさを感じる。つまり官能性には欠けるものの極めて実直な印象だ。A250に搭載される2.0Lターボは、先代に搭載されていた2.0Lターボをベースに進化したエンジンで、最高出力は224ps、最大トルクは350Nmを発生する。そして7速DCTを介して前輪を駆動し、0−100km/h加速タイムは6.2秒を叩き出す。
例えばこの数値をライバルのVWゴルフのGTIと比べると、あちらは6.4秒となり、GTIを凌駕する性能を有する。しかしながら、体感的にGTIほどの迫力は感じない。いかにも効率よく速い、という印象である。それだけに情感はGTIほどでないのだが、こんな具合で涼しい顔をして実は速いという辺りもまた、メルセデス・ベンツらしいといえる部分だろう。
ルノーとの共同開発による1.4Lエンジンも搭載
また翌日には、ルノーとの共同開発によって生まれた1.4L(実際には1332cc)の直列4気筒直噴ターボを搭載したA200を試乗した。
メルセデス・ベンツの4気筒エンジンとしては初めて気筒休止機構を備えたこのエンジンは、最高出力163ps、最大トルク250Nmを発生する。組み合わせられるトランスミッションはやはり7速DCTだが、これは2.0Lに組み合わせられるものより小型軽量化された新開発のものである。
1.4Lも、やはり実直な印象は2.0Lと変わらず。そして数値的にはA250に劣るわけだが、それでも大人の男性3人で乗車しても力不足を感じることはなかった。また静粛性に関してもA200はA250と違い、エンジンルームと車室の隔壁は通常通り1枚のみとなる。それだけにA250よりはエンジンのノイズは車室に届くが、逆にいえば1枚の隔壁ながらしっかり遮音されていると感じたのだった。
そして実際に走るとエンジンの軽快な吹け上がりが気持ちよく、不満も極めて少ない。そう考えると、普通に選ぶならばこの1.4Lがベストだろう。
さらにこのA200では、A250エディション1と同じ19インチを履いた可変ダンピングシステムを備えた仕様と、18インチサイズのタイヤを履いた仕様の2種類を試すことができた。が、その印象はやはり最初のA250を超えるインパクトはなかった。特にA200の19インチ+可変ダンピング仕様は、A250と全く同じ足回り構成のはずだが、ボディが意外に揺すられフラット感が劣っていた。
一方で18インチ装着車は好印象。こちらはリアサスはやはりマルチリンクと同じだが、可変ダンピングシステムはついていない、より一般的な仕様だ。そしてもちろんA250ほどの乗り心地の良さは感じなかったが、それでもA200の19インチ+可変ダンピング仕様に比べると、フラット感もあり、乗り心地も軽快で好印象。シンプルな仕様ながらも味わい深い乗り味走り味を備えている。それだけに今回のAクラスは、例え可変ダンピングシステムを備えなくとも、このクラスで見てトップクラスの乗り心地とハンドリングのバランスを実現していたと報告できる。
コーナリングに関しては、A250はとても軽いハンドルの操作感ながらもしっかりと芯を感じるステアリング・フィールが心地良く伝わるのが印象的だった。そしてハンドル操作すると、ほとんどロールのない感覚でキレイに曲がって行く爽快感が味わえる。そう、気持ちよくというよりもキレイに曲がる、という表現が相応しい辺りがメルセデス・ベンツらしいところ。とにかく実直に高レベルなコーナリングを実現する。
一方でA200の18インチ装着車も負けておらず、こちらはA250よりも手応えのあるステアリング・フィールでより安定性を感じる味付けだ。そして身のこなしも可変ダンピングを備えてなくとも軽快であり、こちらもやはりキレイなコーナリングを披露してくれたのだった。
もっともこの辺りは、4年以上に渡って開発が行なわれ、その過程で4大陸をのべ1200万キロも走っただけある、といえる部分。圧倒的な走り込みから生まれた、走りの良さといえるだろう。
ADASも含めた安全装備はクラストップ
さらに“走る・曲がる・止まる”だけでなく、イマドキ重要なADAS(運転支援)を含んだ安全装備に関しては、間違いなくクラストップと言える内容となる。簡単にいってしまえばEクラスやSクラスと同じ内容をほぼ備えた、といえるのだ。
例えば前走車に追従しアクセル/ブレーキ/ハンドルを自動で操作するアクティブディスタンスアシスト・ディストロニックは当然のように装備。また後側方からの接近車両等があれば警告したり、ハンドル操作を規制する機能も備えるブラインドスポットアシストはさらに進化。車両を路肩に止めた際、エンジンを停止後も3分間有効で、これによりクルマから降りる際に、後側方から接近する車両や自転車に対しても反応して警告を発する。
またEクラスで初搭載されて話題となったウインカー操作で自動的に車線変更する“アクティブレーンチェンジアシスト”機能も採用。これは複数車線道路で80~180km/hで作動し、ウインカーを出すと10秒以内に、前方/側方/後方の隣車線に障害がないか自動で確認し、周辺車両の車速も把握しつつ安全ならば車線を変更する。
こうして安全装備に関しても、新型Aクラスはライバルを大きく引き離す内容を実現している。結果、ハードウェアとしては、欧州Cセグメントの中で見ても現時点で最も充実している1台といえるのである。
こんな具合で新型Aクラスはまず、従来のクルマの価値観である“走る・曲がる・止まる”の面でクラストップに立ち、最大のライバルであるVWゴルフに並び、一歩前に出たといえるだろう。
しかしながらこの新型Aクラスの価値はそれだけではないところが、今回最大のハイライトなのである。これは後編で記したい。