物価上昇の懸念はなお強いが…2022年9月景気ウォッチャー調査
現状は上昇、先行きは下落
内閣府は2022年10月11日付で2022年9月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIは下落した。結果報告書によると基調判断は「景気は、持ち直しの動きがみられる。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、持ち直しへの期待がみられる」と示された。
2022年9月分の調査結果をまとめると次の通り。
・現状判断DIは前回月比プラス2.9ポイントの48.4。
→原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」が増加、「変わらない」「やや悪くなっている」「悪くなっている」が減少。原数値DIは49.6。
→詳細項目は「製造業」「非製造業」が下落。「製造業」のマイナス2.9ポイントが最大の下げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。
・先行き判断DIは前回月比でマイナス0.2ポイントの49.2。
→原数値では「よくなる」「ややよくなる」「悪くなる」が増加、「変わらない」「やや悪くなる」が減少。原数値DIは49.3。
→詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「非製造業」が上昇。「飲食関連」のプラス5.5ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」。
現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。
現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2022年9月では人の動きが活発化するに連れて各種ビジネスの流れもスムーズさを見せ始め、景況感はいくぶんの持ち直しを示している。
先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。
直近の2022年9月では現状判断同様に人の動きの活発化への期待が強い一方で、原油価格の高騰、半導体をはじめとする原材料や部品の供給不足、ロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安があり、景況感はわずかだが後退の動きを示している。
DIの動きの中身
次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。
昨今では新型コロナウイルスの再流行が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。その後、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の影響による新規感染者数がワクチン接種の進展などで減少を示していることで、景況感の回復の動きが見られた。しかし7月に入るとロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の影響による新規感染者数の急増が景況感の足を引っ張り、大きな下落。今回月の9月はその大幅下落からいくぶんの持ち直しを見せる程度の結果となっている。
なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」。
続いて先行き判断DI。
今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「飲食関連」「サービス関連」。新型コロナウイルスのBA.4およびBA.5変異株の猛威に対する不安はピークを過ぎ、人の流れの活性化への期待はあるものの、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っており、わずかだが下落してしまっている。
人の動きの回復への期待と、コスト高への不安
報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。
■現状
・来客の1組当たりの人数が増えており、団体予約も若干ではあるものの、増えてきている。1~2人で席が埋まるのと、4~5人で席が埋まるのとでは、店のにぎわいや雰囲気が違う(一般レストラン[居酒屋])。
・富裕層向けラグジュアリーブランドの期間限定販売や食品物産催事など、客が興味のある企画や商品には反応があり、大きく売上を伸ばしている。また、限定的ではあるが、アパレル部門では旅行やセレモニー需要により、新型コロナウイルス感染症発生前の2019年の実績を超えるブランドが出始めている(百貨店)。
・口頭での値引きが多発している。客も見積りの細分化など、少しでも価格が安くなるような要望が増えている(家電量販店)。
・大型台風の影響で、売上が今一つであるが、今後も続く値上げの影響が消費意欲減退の原因となっている。商品単価が上がっているため、それに伴い買上点数や来客数が大幅に減少している状態で、客は家計を節約している(スーパー)。
■先行き
・来月から全国旅行支援が開始することと、海外の個人旅行のインバウンドについても自由化が進むということで、期待している。また、秋の修学旅行については堅調に推移している。プラス材料が多々あるので、よくなる(旅行代理店)。
・年末年始に掛けてさまざまなイベントが3年ぶりに新型コロナウイルス感染症発生前と同規模で開催される予定となっていることから、消費マインドがますます高まることになる。また、カレンダーマーケットに対する期待も前年以上に高まっており、経済が活発に動くことが期待できる(百貨店)。
・年末にかけて、値上げが更に幅広く実施される。円安の影響もこれから出てくるため、輸入に頼る生鮮品を含め、食料品価格の上昇は止まらない。客の低価格志向は更に強まるため、オーバーストアの影響も加わり、厳しい状況が続く(スーパー)。
・10月から多くの酒類が値上がりすることに伴い、客が9月中に買いだめをする傾向にあり、当分の間は売上が減少すると思う(一般小売店[酒])。
人の流れが活性化しつつあることによるポジティブな影響が複数確認できる。他方、物価高による消費者の買い渋りの動きも見受けられる。
企業動向でも物価上昇・原材料不足・コスト上昇への影響が多々見受けられる。
■現状
・新型コロナウイルス感染症の影響等で遅れていた仕事や、部品が海外から入るようになった通常の仕事と、年度末に向けての仕事が重なって仕事量が増えてきたため、比較的景気はよくなっている(建設業)。
・金属価格は高値で推移しているが、エネルギーコストなど原材料の価格高騰が収益を圧迫している(非鉄金属製造業)。
■先行き
・徐々にイベントが再開され始めているため、広告や印刷物にも期待している(出版・印刷・同関連産業)。
・製造業の事業者からは、「せっかく受注が回復しても、価格高騰や原材料不足により生産が納期に間に合わない」との声が聞かれる。原材料価格の高騰やゼロゼロ融資の終了など、経営環境の不透明さが増すなか、各事業者は価格交渉や販路拡大など、今できる対策に注力している(金融業)。
物価高・原材料不足・コスト上昇が大きなマイナス要素となっている状況。
雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。
■現状
・新規求人数は、飲食、宿泊業を中心に前年比で大幅に改善している。一方、給与水準などの見直しは進んでおらず、求職者側の希望条件とのミスマッチが継続しており、求人数の増加が景気回復に直結していない(職業安定所)。
■先行き
・各事業所の間で、資材価格や物価の上昇による悪影響が徐々に広がっており、今後の採用計画には不安がある(民間職業紹介機関)。
回復基調にある業種を中心に、求人数が増えている、つまり今後の経済の復調を期待できるとの判断が企業側で示されているのが分かる。他方、求人の際に給与水準などが従来のままで行われており、求人側と求職側との意見が合わない事例が多々あるような説明が行われている。
リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。
さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。
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※景気ウォッチャー調査
※DI
内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。
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(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。
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