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中国61398サイバー部隊の正体――彼らは何ものなのか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

中国61398サイバー部隊の正体――彼らは何ものなのか?

7月9日から米中閣僚による「米中戦略経済対話」が北京で始まった。安全保障や経済など幅広い話し合いが対象となるが、中でも注目されるのは中国人民解放軍によるサイバー攻撃だ。

筆者は80年代初期から中国人留学生を始めとした、中国の人材養成に携わってきた。その立場から、今回は中国人民解放軍のサイバー部隊が、どこで、そしてどのように養成されているのかをえぐり出してみたい。

◆サイバー部隊を管轄する中国人民解放軍総参謀部三部

今年5月、アメリカの司法当局が、中国人民解放軍の将校5人をサイバー攻撃によりアメリカ企業に不正侵入し企業情報を盗み取ったとして起訴した。これに対して中国は事実無根の捏造だと猛烈に抗議し、中国は被害者であるとして、スノーデンが暴露したアメリカの諜報活動を逆に非難した。

米中どちらの国が攻撃側で、どちらの国が防衛側なのかは別として、少なくとも中国人民解放軍総参謀部三部が偵察技術を中心として諜報活動を管轄しているのは確かだ。IT技術が発達したこんにち、諜報偵察はサイバー空間で行われる。その意味で結果的にサイバー部隊を管轄していることになる。

中国人民解放軍には「総参謀部、総政治部、総后勤部、総装備部」という、4つの「総部」がある。

「総参謀部」(総参)の任務の中には「情報」「通信」「外事」などが含まれており、総参一部は「作戦」、総参二部は「情報」、総参三部は「技術偵察部61195」、総参四部は「電子部(電子対抗レーダー部)」である。

このほかにも「情報化部」などがあり、二部、三部とともに諜報活動を行っている。

中国人民政府「国務院」管轄下にも国家安全部という中央行政省庁があって、国内外の諜報活動を行っているが、ここは経済犯などに関する諜報活動も含まれており、協力関係はあっても、軍管轄とは系列が異なる。

中国人民解放軍は中共中央軍事委員会の直轄なので、中共中央軍事委員会主席である習近平が頂点にいると考えて考察すべきだ。

中でも総参三部である「技術偵察部61195」が全地球を覆うサイバー部隊の中心となっていると言っていいだろう。

このたびアメリカから提訴されたサイバー部隊は「61398」だが、これは「61195」の一部に過ぎない。

総参三部のサイバー部隊の先頭には必ず「61」というナンバーが統一して付いている。

これは中国人民解放軍の軍隊編制番号で、総参部隊はすべて「61***」と決まっているからである。

だから、「61***」という番号を見たら、それは総参謀部系列であるということが一瞬で分かる。

ちなみに総后勤部部隊の編制番号は「62***」で、総装備部部隊は「63***」だ。

総参三部の二局は、「61398」部隊と呼ばれ、専らアメリカやカナダなどの諜報活動を行う。したがって英語が堪能な者が、この任に当たる。所在地は上海市浦東高橋鎮にあるが、本部は北京にあり、上海は支部の一つ。そのほかに山東省の青島や広東省南部の珠海あるいは黒竜江省の哈爾浜(ハルビン)、四川省の成都市などに支部がある。

日本語や韓国語、ロシア語、スペイン語など、各言語に応じて局が異なる。たとえば、総参三部十二局「61486」は欧米を含みながらも、特に日本政府関係や、宇宙空間における衛星などの軍事産業に関わる業務を専門対象とする。

◆サイバー部隊の人材養成

それなら、これらサイバー部隊の人材は、どこで、どのようにして養成されているのだろうか?

中国の高等教育機関には概ね三種類の系列がある。

一つは国家教育部管轄で、これは日本の文部科学省系列とほぼ同じだ。そこには大学院、本科(学部)、専科(専門学校レベル)などの学習段階別分類と、「普通教育と成人教育」という、社会における活動状況に基づく分類がある。「成人教育」は就職した者が通う高等教育機関で、単純に学生を主たる活動としていない。

国家教育部以外に、中国科学院や中国社会科学院など、いわゆるアカデミーと呼ばれる研究機関があり、そこも大学院生のみを対象とした教育を行う。

もう一つが今回のテーマである中国人民解放軍管轄下の高等教育機関だ。

筆者が改革開放後初めて中国政府の中央教育行政(当時は国家教育委員会)と接触を持った1980年代、中国人民解放軍管轄下の高等教育機関は26校だった。軍事関係の専業(専門科目分類)にはわずかに「軍事工業」として「原子力エネルギー、ロケット・ミサイル、航空工学、艦船工学、通常兵器、無線電子工学」しかなかった。

ところが現在では中国人民解放軍管轄下の高等教育機関は36校に増え、軍事関係の専業は、陸海空以外に、ミサイルやサイバーと関係するものを入れると、200種類ほどに激増している。

中国人民解放軍管轄下の代表的な高等教育機関には、中国人民解放軍国防科学技術大学、中国人民解放軍理工大学、中国人民解放軍信息工程(情報工学)大学、中国人民解放軍空軍工程大学、中国人民解放軍海軍工程大学などの5大巨頭があるが、中でも中国人民解放軍信息工程大学は、サイバー部隊の人材を輩出するメッカだ。

それだけではない。

国家教育部管轄下の浙江大学(上海市に隣接)は、コンピュータ技術科学専攻修士課程の学生募集に際し、修了後の進路先として堂々と「61398」部隊を明示したことで有名だ。修士課程修了後、必ず「61398」部隊で仕事をすると誓約書を書いた者には奨学金も与えるという歓迎ぶりなのである。

浙江大学は江沢民肝いりの大学。

江沢民が90年代半ばに提唱した「211工程」(21世紀初頭までに100の世界に通用する優秀な大学を建設する)プロジェクトに基づいて、1998年にもともとの浙江大学と杭州大学、杭州農業大学および浙江医科大学の4大学が合併して、現在の浙江大学を創り上げた。

「211工程」大学としてはトップに決まった大学で、江沢民は国家主席として、その設立大会に駆けつけ祝辞を述べたほどだ。

中国人民解放軍信息工程大学は、この翌年の1999年に、やはり江沢民肝いりで設立された大学で、総参の直属下にある。

こうして輩出されるサイバー部隊の先鋭たちが、総参三部の各局で活躍しているのである。エリートは10万人ほどだが、裾野にはその何倍もの「人材」が控えていると思った方がいい。

特に江沢民が推奨した産学連携の中で生まれたこれらの大学は、軍事産業と深く関わりながら動いていることに注目したい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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