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【五輪サッカー】日本U-24代表 「+α」を楽しむための「勝手に日韓戦」

(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

東京五輪の男子サッカーがきょう7月31日から決勝トーナメントに突入する。

1回戦(準々決勝)での日韓戦は実現しなかった。日本がA組、韓国がB組に所属したグループリーグにて1位か2位で順位が”クロス”すれば対戦があったのだが、双方が1位で突破を決めたのだ。

日韓サッカーシーンのウォッチャーとしては、”韓国戦を待つ”というところはあった。場外戦で散々揉めているが、この人気種目のピッチ上でバチっと決着をつければよかったのだ。

両国が対戦するとすれば、決勝戦か3位決定戦ということになった。対戦の確率は…うーん、かなり低いように感じる。そこで「日韓戦を想定して出そうとしていた情報」を。うっすらと頭の中に入れておいていただければ、この先、森保一監督率いるU-24日本代表をちょっとだけ深く楽しめるようになる。

兼任監督の成果”中間テスト”

まずは、ここ3年間の短いスパンでの話だ。

「過程は大きく変わるが、なんだかんかんだでW杯では似た成績となる」という日本と韓国は、2018年のロシアW後に大きく違う道を選択した。

日本=五輪代表とA代表の兼任監督

韓国=別の監督

これがどんな結果をもたらすのか。東京オリンピックは「中間考査」としての意味合いが相対的に大きくなる。コンフェデレーションズカップが廃止となり、かつ両国ともに国際Aマッチデーで欧州強豪との対戦が難しくなっているためだ。

2018年秋以降、ここまでは韓国の「別個」のやり方に軍配が上がっていた。2019年12月にA代表がE-1選手権で優勝。U-23代表が翌2020年東京五輪アジア最終予選(AFC U-23選手権タイ2020でも同じく王者となった。A代表のパウロ・ベント監督とU-23代表のキム・ハクボム監督はこの期間中「棲み分けをしっかりする」と話し合ったという。

いっぽうの日本は2019年の年11月19日のベネズエラ戦(@吹田/●1-4)あたりから森保一監督の評価が急降下。その後行われたこの2つの大会で期待に背く姿がさらなる批判を呼んだ。2020年12月のE-1では最終節で韓国に敗れ優勝を逃したが、欧州組招集が叶わないなか「五輪世代の新戦力」までがA代表に呼ばれ、何をしているのかさっぱり分からなかった。現地で取材していたが、12月の韓国・釜山の寒さも手伝いかなりの徒労感に見舞われた。

ところがどうだろう。東京五輪では森保一監督評が”落ち着いている”ように感じないだろうか。

オーバーエイジに守備的なポジションの3選手を加えた。A代表との連動もあり、これが非常にスムーズだと感じる。

なぜなら、韓国がこの点で少々”しくった”からだ。

今大会初戦のニュージーランド戦でまさかの0-1の敗北を喫した。原因の一つが攻撃陣に2人オーバーエイジを加えたがために起きたハレーションだった。はっきり言って、監督の秘蔵っ子、ファン・ウィジョ(ボルドー)を1トップに置いたシステムが機能せず。動き回るタイプのファンと、A代表経験者の多い自慢の2列めが”混戦”を起こした。韓国メディアでは、大会直前の7月に入って「はじめてメンバーがそろっての試合」で親善試合が行われると報じられていた。

さて、この先のトーナメントではどんな結果が出るだろうか。

ここまでは「グループリーグ3連勝」の日本のほうがよく見えるが、まだまだ結果は出ていない。韓国とて「大会中にチームが成長」というモデルを見せるかもしれない。

一発で”答え”が決まる点が、トーナメントの怖さであり、醍醐味だ。

「韓国を克服」の試合から”22周年”

次に長いスパンの話を。ここ20年来の話だ。

この2021年という時が、日韓の五輪代表にとってどういう時なのかというと、ある出来事から”およそ20年経った年”ということになる。

1999年の秋にシドニー五輪アジア最終予選の壮行試合として日韓戦がH&Aで行われた。「今は昔」の感、凄し。当時は「02年W杯共同開催に向け、なんとかやっていきましょう」という雰囲気があったのだ。

第1戦の結果が大事件だった。

9月7日@国立競技場

U-22日本代表 4-1 U-22韓国代表

(日本の得点者 福田健二、平瀬智之2、遠藤保仁)

「もはや韓国は克服した」

今思えばその感情の頂点だったのではないか。

アメリカW杯予選ではA代表が勝ち、その年の4月に行われたナイジェリアワールドユースで日本は準優勝、韓国はグループリーグ敗退を喫していたのだ。

その後の20年の流れを感じつつ、日本と韓国のことを見てみよう。

韓国の育成環境の変化

韓国内ではこの試合の結果について、TVニュースで速報が打たれるほどの衝撃があった。そして、何が言われていたのかというと「日本はほぼ全員がプロだったが、韓国は大学生。そりゃ勝てない」。

今も昔もそうだが、日本も韓国も”サッカー近代化”の過程にある。両国ともに「トップ選手の多くが大学まで進み、22歳までアマチュアでプレーする」という課題を抱えていた。世界のトップでは10代からプロで活躍する選手が当たり前のように存在していたのだ。

日本はJリーグが出来て6年でこの問題を解決しつつあった(現在のように「特別指定選手制度」はないにせよ)。韓国はその時点でプロリーグ誕生後、16年が経っていたが旧態依然としたままだった。

では、そこから20年たった現在、韓国U-24代表のメンバー構成はどうなっているのか。

大学生 ゼロ。

また、多くの選手がKリーグクラブの下部組織出身であるなど、大きく変化した。

韓国にはU-20W杯 準優勝メンバーもほとんどいない

韓国の話をもう一つ。

韓国にはかつて「ユース世代から国際大会で結果を出すために、同じメンバーで戦い続ける」という傾向があったという。

2000年代後半に日本の年代別代表の指導者を取材した際に出てきた言葉だ。国際大会などで顔ぶれを見るたびに「韓国、いつもあまりメンバーが変わらないな~」と感じてきたのだという。そこには、地縁・学閥により偏った選手が選ばれ続けたという背景もある。

その「選手の循環」という意味でも韓国には大きな変化の傾向がある。韓国は2019年U-20W杯@ポーランドで準優勝の結果を残した。日本で言えば「ナイジェリアワールドユース準優勝」と同じものだ。その年代は、大会のU-24代表では22~23歳の「適齢期」だ。

しかし、今大会のメンバーには2人しか残っていない。そのポーランドでの大会の日韓戦で決勝ゴールを決めた190センチ台のFWオ・セフンも「監督の機動力重視のスタイルに合わない」という理由で選考外になった。

今の韓国U-24代表は、この20年来の変化の結晶という意味合いもある。

育成世代の選手輩出実績 日本のほうがはるかに”上”  ただし…

それがどうした、日本の方が育成も上手く行ってるぞという声が聞こえてきそうだ。

その通り。

トップ選手の育成環境整備については、20年前も韓国の先をはるか行っていたし、今もそうなのだ。

もはや誰がユース出身か、学校の部活出身かそれを問うまでもない。どんなルートを辿った選手であれ、海外組が主軸となる史上最大級の素晴らしい構成となっている。

さらにいうなら、大学サッカーからも素晴らしい素材が輩出され、欧州クラブからオファーを受けるという状態。

韓国で今回、メンバー入りした選手で欧州組はイ・ガンイン(バレンシア)とオーバーエイジのファン・ウィジョのみ。イは10歳になる年にスペインに渡ったため、”五輪世代”にあって韓国で育ち、欧州クラブからオファーを受けた選手は皆無なのだ。

その点から見ても、今の日本のU-24代表の選手構成は本当に素晴らしい。韓国も相手にならない。アジアでは無双。

ただし、この点には要注意。近年、こういった傾向もある。

「自分たちが韓国よりイケてると思っていても、国際大会の直接対決では韓国に負ける」

特に数少ない世界大会で、この傾向がある。2012年のロンドン五輪(3位決定戦)、前述のU-19W杯(決勝トーナメント1回戦)だ。また直接対決がない状況でも、「日本がイケてる」と思っていた状況での国際大会で、結果的に相手が上回るということは22年前にもあった。シドニー五輪までは日本のほうが結果が良かったが、02年W杯でそうなってしまった。これもまた93年アメリカW最終予選以降の日韓サッカーの関係性で興味深い点なのだが。

うっすらと韓国の情報を入れつつ、31日からの決勝トーナメントに備えよう。日本は18時からニュージーランドと対戦し、韓国は20時からメキシコと対戦する。

サッカーU-24韓国代表|東京五輪メンバー

GK

1. ソン・ボムグン(全北現代) **2017年 U-20W杯

18. アン・ジュンス(釜山アイパーク) **2017年 U-20W杯

22. アン・チャンギ(水原三星)

DF

2.イ・ユヒョン(全北現代)

3. キム・ジェウ(大邱FC)

4. パク・ジス(金泉尚武FC)*オーバーエイジ ***A代表経験者

5. チョン・テウク(大邱FC) **2017年 U-20W杯

12. ソル・ヨンウ(蔚山現代)

13. キム・ジニャ(FCソウル)

MF

6. チョン・スンウォン(大邱FC)

8. イ・ガンイン(バレンシア/スペイン)**2019年 U-20W杯 ***A代表経験者

10. イ・ドンギョン(蔚山現代)***A代表経験者

14. キム・ドンヒョン(江原FC)

15. ウォン・ドゥジェ(蔚山現代)***A代表経験者

19. カン・ユンソン(済州ユナイテッド)

20. イ・サンミン(ソウルイーランド)

21. キム・ジンギュ(釜山アイパーク)

FW

7. クォン・チャンフン(水原三星)*オーバーエイジ ***A代表経験者 

9. ソン・ミンギュ(浦項スティーラーズ)***A代表経験者 

11. イ・ドンジュン(蔚山現代) ***A代表経験者 

16. ファン・ウィジョ(ボルドー/フランス)*オーバーエイジ ***A代表経験者 

17. オム・ウォンサン(光州FC)**2019年 U-20W杯 ***A代表経験者 

※所属クラブ・招集メンバーは2021年7月2日時点のもの

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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