金融庁が調査中。2025年は保険を見直そう。あなたの保険は過剰な便宜供与結果かもしれません。
保険会社と保険代理店に金融庁が調査に入ったと報道されましたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。一部の保険会社と保険代理店がやり玉に挙がっていますが、ことの本質はどこにあるのでしょうか。あなたが加入している保険の選定プロセスは適切だったのでしょうか。保険業界の実態と今後やるべきことを考えます。
■生命保険業界の便宜供与ってどんなこと?
生命保険会社が、自社商品の取扱いのある保険代理店に対して「広告料の提供」「出向者の派遣」などによる便宜供与の度が過ぎるということであり、金融庁が生命保険各社に調査を実施、保険会社の商品を取り扱う保険代理店に対しても調査を実施しているという報道があります。
来店型の保険代理店では、店頭に掲示する広告に保険会社が出稿し、一般的な広告料からかけ離れて高額の広告料を支払っていました。保険会社から保険代理店への出向については、保険会社が出向者の給与を負担していれば過度な便宜供与とされるでしょう。
このような便宜供与は、多店舗展開していない中小零細保険代理店にはまったく縁のない話です。筆者も報道を見て「こんなに優遇されていたの?」と驚きました。
■便宜供与は当たり前では?何が問題なの?
保険業界では、相談者に提案する保険商品は取扱い保険商品の中から、何種類かを選定することが多いです。そして、提案した理由を明示する必要があります。
提案された保険商品が、代理店による説明では「当社比較推奨基準による」とされた場合、相談者には保険代理店の比較推奨基準は開示されません。何らかのシステムによる明確なロジックを用いて選定するのであれば、明示される可能性はあります。そのため、現状ではよくわからないまま提案を受けることになります。
保険業界では多くの保険代理店が「手数料」の高い保険商品および保険会社を推奨する傾向にあると考えられます。※ビジネスとしては利益率の高い商品を販売するのは当然のため。
保険業界では推奨する理由が「手数料」である場合は、顧客にその旨を明示する必要があります。ただ、そのような理由で提案された商品を購入した人はほとんどいないのではないでしょうか。せっかく数1社の取扱いがあると謳われているのに、手数料の高い商品であったと知ったら、加入した保険商品を見直したくならないでしょうか。
今回の事案は、保険業界のルールをゆがめる行為を、どちらが発案したかは別として、保険会社が実際に手を染めた点にあります。大手保険会社や全国展開している保険代理店にとって便宜供与は日常的な商習慣だったのかもしれません。
■保険代理店ビジネスの実態である販売額に応じた手数料率という闇
生命保険代理店のみならず損害保険代理店でも、年間、半期、四半期など一定期間の保険料が多いほど手数料のテーブルが増え、少ないと減る仕組みになっています。※一部良識のある保険会社は、販売額によらず一定の手数料率です。
例えば、筆者のように数名で運営されている保険代理店の場合、「手数料ランク」と呼ばれる手数料テーブルは最下層に位置することが多く、その場合最も低い手数料率が適用になります。一方で全国展開しているような保険代理店であれば、販売額が大きいため、最上層の手数料テーブルとなっている保険会社が多いでしょう。実際に保険募集人(保険外務員)の募集においては、自社の手数料率の高さを誇示するケースは一般的です。同じ保険を販売したときに、手数料率が高い方が自分の成績や実入りが増えるのですから当然です。
大規模な保険代理店は手数料率が実質100%(年間の保険料が全額初年度手数料となる、但し2年目以降は数%の継続手数料となり、数年で継続手数料の支払いはなくなる)であることもあります。過去には新商品の販売促進として、手数料率200%のようなキャンペーンを展開していた保険会社もあったようです。※別件で手数料詐欺と称されるトラブルに巻き込まれているようです。
FPの立場で相談を受ける際、●●保険を「ものすごく」勧められたという話を聞きます。保険商品や保険会社を聞いただけで「手数料が高いから」とわかります。ただ提案された保険代理店から手数料率を開示されず、手数料の高低にかかわらず保険料は同じため、「こんなに勧められるのだから、きっといい商品なのだろう」と感じる人もいるでしょう。
保険代理店が大規模化すると、保険会社に対する影響力が高まるので、良いこともありますが、今回のように過剰な便宜を求めるようになると、業界の信頼が落ちます。
■金融庁から天下りがあれば防げたのか?
保険会社からの過度な便宜供与は、もしかすると保険代理店自体が、金融庁などから人を迎え入れていれば未然に防げたのかもしれません。
ただ、現状で金融庁を退官した有力者が保険代理店に再就職や役員として迎え入れられるかどうかは疑問です。なぜなら、保険代理店は保険会社にとって販売会社の一部でしかなく、不都合があればいつでも切り捨てられる存在です。保険会社の監督組織として君臨する金融庁の元職員が、保険会社の下位に属する保険代理店の役員に就任するということは、よほど高潔の士でない限り、しばらく無さそうです。
■代理店業務品質評価は意味があるのか?
最近、保険業界の管理体制の均一化等を目指し、代理店業務品質評価というものが定められ、大手の保険代理店を中心に品質の確認と登録を目指す動きが活発になっています。
既に多くの保険代理店が認証され、認証審査中の保険代理店もたくさんあります。しかし、一度仕組みを作ると形骸化してしまう可能性があります。
制度ができて間もないにもかかわらず、不祥事案が発生しており、制度の適格性、整合性が求められることとなるでしょう。
■今後保険業界が採るべき方策
まずは、過度な乗合を規制すべきだと思います。そもそも、比較推奨販売で明示される保険商品は2~3社程度。ということは、死亡保障、医療・がん・介護保障、個人年金や貯蓄性のある商品など、一桁の取扱い保険会社で足ります。
取扱い保険会社が多ければ多いほど、各保険会社の代理店維持基準や代理店手数料テーブルを死守するためだけの保険販売の必要があり、比較推奨「外」の保険商品を販売せざるを得ません。一部、保険代理店の影響力が強いと、販売しなくても「交渉力」を発揮することで、販売せずとも代理店を継続できるとする保険会社もあるように聞いたことがあります。
次に、保険会社と保険商品を比較できるような、業界標準の仕組みと比較軸を作ることです。従来保険商品は比較が禁止されていました。それが実態に見合わないとして比較できるようになったのですが、投資信託のように「手数料と運用実績」などで一律比較できる仕組みがありません。一部有料の保険比較システムがありますが、システムに情報を出さない保険会社もありますし、情報を載せない保険商品もあります。導入していない保険代理店もたくさんあります。
この2点が解消されるだけで、消費者のデメリットが大きく解消されるでしょう。メリットは納得感くらいかもしれません。
2025年は保険業界のコンプライアンス体制が、金融庁から始まり、保険会社、保険代理店へと落とし込まれる1年になるでしょう。
あなたの加入している保険は、どのような理由で提案されたか思い出してみましょう。