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他人のものを盗る事なかれ!デジタル編 〜動画サイトに無断投稿 著作権法違反容疑で16人摘発〜

森井昌克神戸大学 名誉教授

幼児、児童にも著作権法を身につける必要があるのです?!。それは現在のネット社会に取って、それ以前の「他人のものを盗らない」、「他人を傷つけない」等と同様、社会生活の基本となっているのですから。

警視庁と大阪府警などは25日までに、インターネットの動画投稿サイト「FC2動画」にNHKや民放のテレビドラマなどを無断で投稿した行為を一斉摘発し、著作権法違反(公衆送信権侵害)の疑いで、(中略)4人を逮捕、12人を書類送検した。

出典:日本経済新聞(2014年9月25日付)

テレビ放送している番組を録画し、無断でインターネット上に投稿、公開する犯罪行為が後を絶ちません。以前は共有ファイルソフトを用いて、CDやDVDあるいはBlu-rayでの音楽や映画等をインターネット上で事実上で公開し、やはり著作権法違反に問われて、場合によっては多額の賠償金を請求される事件が多発しました。その動機はほとんどの場合、ネットでの注目を浴びることでした。しかし最近では動機が異なってきました。動画投稿サイトにコンテンツを投稿する事によって、そのコンテンツへの興味から視聴を誘い、その閲覧数に応じて現金が得られる仕組みを利用するのです。主にその現金は動画投稿サイトに入る広告料の分配です。つまり独自のコンテンツを創造する事なく、安易にテレビ番組等を録画し、それを投稿することによって注目を浴び、閲覧数を稼ぎ、現金を得るのです。容易に現金を得られる事が一つの原因ですが、最大の原因はテレビ番組という放送によって公開された映像が著作物として保護されており、それを断りなく再度公開することの犯罪性の意識が希薄なのです。

インターネットが一般化されるまで、著作権法という法律は一般の人にとってほとんど無縁でした。当時のレコード、それにCD、さらにテレビやラジオの番組を録音、録画し友人等に聞かせる、見せる行為でさえ、厳密には著作権法に抵触するものの事実上問題にされてきませんでした。しかし現在では異なります。個人がネットで公開する事は、昔で言うところの海賊版を大量に複製し、全世界中に売りさばく事と同等となり、本人の意識に関わらず、著作権法違反という重い罪に処されるのです。

[著作権法第119条]著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第30条第1項(第102条第1項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第113条第3項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第120条の2第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第113条第5項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

[刑法第235条]他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

「他人を傷つけてはいけない」、「他人のものを盗ってはいけない」等は社会生活の常識として家庭や学校でまず教えるべき事です。それぞれ、法律としては傷害罪や窃盗罪として規定されています。情報に対する傷害罪や窃盗罪に相当する罪が著作権法侵害に対する罪なのです。ネットを利用する人すべてに対して著作権法は身近な法律であり、成人に対しても改めて学ぶ必要があるとともに、特に小学生以下の幼児、児童にも身につけるべき社会的常識なのです。著作権を侵害する事、つまりテレビ番組を無断でネットを利用して再放映、あるいは動画投稿サイトに投稿することは、他人のものを盗む事以上の罪になるのです。

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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