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半導体のサプライチェーンとは何か

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

 米バイデン政権が半導体に520億ドルの投資計画を発表した後に、日本も経済産業省が「半導体・デジタル産業戦略」を発表した。これまでに計上されている予算として、グリーンイノベーション基金の2兆円と、ポスト5G関係の2000億円を当てにしているだけの報告書に見えた。新たに予算を付けたわけではない。

 米国が半導体に注目した主な理由は、国防と経済活性化のために半導体という成長産業を強化する必要を理解したからだ。国防、経済、共にサプライチェーンがグローバルな諸国と手を組まなくては半導体製品を手に入れることができなくなったことを認識した。半導体サプライチェーンという関係(図1)から、米国経済を強化する上で、半導体を強化する必要性を深く理解した。

図1 半導体のサプライチェーン 出典:筆者作成
図1 半導体のサプライチェーン 出典:筆者作成

 図1を見てほしい。米国が半導体でいかに強い国であるか、がわかる。しかし、この中で、米国の弱点も明白だ。明らかにファウンドリとOSATが弱い。OSATとは、半導体ウェーハからチップに切り出した後にプラスチックモールドに封止してテストまで終え、完成品を作る業者のことである。1980年代までは半導体メーカー自らが前工程の製造工場も後工程の工程も持っていたが、餅は餅屋の精神で世界各地の得意な国(日本政府は台湾を国として認めていないが、実質的には国であるので、敢えて国とした)へと展開してきた。

 米国の持つ危機感は、もし台湾を中国が侵略すると製造を専門に請け負うファウンドリが中国の手に渡ってしまうことである。香港が1997年の中国返還の時に50年間自由な民主主義を保証する、と英国との間で取り交わされていた約束を中国政府がすでに反故にした、という経緯がある。1997年までの香港は、英国が植民地として支配していたが、何でもできる自由な植民地だった(日本よりも自由だった)。それが言論の自由を奪われた、不自由な独立地域となってきた。最悪のシナリオだが、一度も支配したことのない台湾を中華人民共和国が侵略するという可能性が出てきたことから、米国はその事態が起きてもサプライチェーンを維持するために、米国内に製造拠点を強化しようとしているのである。IntelやGlobalFoundriesの製造強化を歓迎し、TSMCをアリゾナ州へ誘致してきた。

 米国は自国内に製造拠点を置くだけではなく、同盟国の中にも製造拠点を置いておきたいのだ。米国が中国の一帯一路を避け、同盟国だけのサプライチェーンを築くように先日のG7でも働きかけていた。だからこそ、日本のような同盟国内で半導体製造を専門とするファウンドリがあれば米国は大歓迎である。しかし、残念ながら日本はそのような意識がなく、製造装置が強い今のうちにファウンドリメーカーの台湾TSMCを誘致することに経産省は一所懸命になっているが、日本地場のファウンドリについては全く言及していない。おそらくアタマの隅っこにも入っていないのだろう。

日本が強化すべきはITと半導体ユーザー、ファブレス、ファウンドリ

 日本政府は、本当に半導体サプライチェーンを理解しているのだろうか。日本にTSMCを誘致したところで、製造装置メーカーは少しは喜ぶだろうが、すでに製造装置メーカーは日本の半導体メーカーよりも韓国と台湾、米国(Intel)に長い間売り込んできた。例えば半導体製造装置メーカー世界3位の東京エレクトロンの海外売上比率は85%前後であり、半導体テストメーカートップのアドバンテストは92%以上と高い。つまり日本での半導体メーカーを当てにせず海外での顧客に立派に売り込んでいるのだ(これで立派に日本政府に税金を納めている)。

 日本に足りないのは、図1からもわかるように、世界に通じるITサービスや電子機器メーカーであり、ファブレス半導体メーカー、そしてファウンドリである。半導体を買ってくれる客がいない日本でどうしてTSMCが来てくれると活性化するのだろうか。むしろ、ファウンドリからファブレス半導体、電子機器メーカー、ITサービスを支援して初めて、日本経済が活性化していくのである。もちろん、サプライチェーンの図1からOSATが抜けている点も強化すべきであろう。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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