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来季は3割打者になれる?!来季から採用予定のルール変更で大谷翔平の打撃がさらに効果的に

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
シフト守備禁止でさらに安打を増やすことが期待される大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【MLBが来シーズンからのルール変更を決定】

 MLBは現地時間の9月9日、機構内に設置された競技委員会(Competition Committee)により来シーズンからのルール変更が決議されたことを明らかにした。

 変更点は主に3点で、1)ピッチクロックの設置、2)シフト守備の禁止、3)ベースサイズの拡張──となっている。

 計15人で構成された競技委員会は、MLBによって任命された6人に加え、選手会の代表者4人、さらに審判1人というメンバーからなり、米メディアが報じたところでは、今回のルール変更のすべてが全会一致で決まったものではなかったようだ。

 実際選手会は今回の決定に対し声明を発表し、ピッチクロックの設置とシフト守備の禁止について選手会の代表者全員が反対していたことを明らかにしており、今後も現場の選手たちから不満の声が挙がりそうな情勢だ。

【ルール変更の詳細を徹底解剖】

 とりあえずルール変更の詳細について紹介しておきたい。

 まずピッチクロックの設置だが、すでにマイナーリーグで試験導入されているように、投球間の時間が計測され、それをオーバーすると自動的にボールが宣告されてしまうというものだ。

 この新ルールにより、投手は走者がいない場合で15秒以内、また走者を置いている場合でも20秒以内に投球動作を始めなくてはならなくなった。そして規定時間を超えてしまった時点で、即座にボールがカウントされてしまうわけだ。

 また打者に関しても、投手と同じ秒数内に打席内で打つ構えをしないと、こちらは自動的にストライクを宣告されてしまうことになる。

 次にシフト守備の禁止だ。これまでは打者の打球方向の特性に合わせ、極端なシフト守備を使うことができたが、今後内野手の守備位置は土の部分だけに限定され、しかも二塁ベースを挟んで両サイドに2人ずつ選手を配置しなければならなくなった。

 つまり守備位置が変更になるという例外を除き、三塁手と遊撃手は二塁ベースと三塁ベースの間に立ち、一塁手と二塁手は一塁ベースと二塁ベースの間に立つことが厳格に規定されたわけだ。

 最後にベースサイズの拡大だが、本塁ベースを除いた3つのベースが、現在の15平方インチから18平方インチに拡大されるというものだ。この変更に関しては選手会の代表者4人も賛成し、全会一致で決定した模様だ。

【シフト守備禁止で大谷選手の打率アップに期待】

 それではこれらのルール変更は、選手たちにどんな影響を及ぼすことになるのだろうか。身近なところで大谷翔平選手について考えてみたい。

 まずシフト守備の禁止により、より大谷選手の打撃が有効になりそうだ。これまでシーズン打率が3割を超えたことがなかったが、来シーズンは3割打者になれる可能性が高まったといっていい。

 すでに大谷選手の試合を観戦している人なら理解できると思うが、相手チームは大谷選手に対し、基本的に徹底的なシフト守備で対応している。一塁手と二塁手の間にもう1人内野手(三塁手か遊撃手)を置き、三塁手(もしくは遊撃手)もほぼ二塁ベース後方に配置している。もちろん来シーズンからこんなシフトができなくなり、確実に内野の間を抜ける打球が増えてくることになる。

 実際MLB公式サイトが公表しているところでは、今シーズンの大谷選手に対し、相手チームは全体の守備機会のうち87.5%でシフト守備を採用している。そしてシフト守備を採用した際の大谷選手のwOBA(「Weighted On-Base Percentage」…打者の攻撃力を測る指標)は.370なのだが、通常の守備位置の場合だと.413まで跳ね上がっている。

 つまり来シーズンは常にwOBAが高い打撃を期待できることになり、本塁打だけでなく大谷選手の俊足を生かした安打がさらに増えていきそうだ。

【日本人投手には不利に見えるピッチクロックの設置】

 次にピッチクロックの設置についてだが、これは大谷選手だけでなく日本人投手たちが対応に苦慮することになりそうだ。

 例えば大谷選手を見ていても、走者を置いた場面での捕手とのサイン交換で、なかなか球種が決まらずプレートから足を離す光景に度々遭遇する。今後走者を置いた際はどんな場合でも20秒以内に投球動作に入らなければならず、投球リズムを崩してしまうリスクが出てくるだろう。

 菊池雄星投手や有原航平投手も、以前から走者を置いてからの投球テンポが遅くなると指摘されており、彼らも対応が求められることになりそうだ(ただし有原投手は今シーズン3Aで経験済みのはずだ)。

 最後にベースサイズの拡大については、選手間によりスペースを生み出すことができ、不要な接触プレーが軽減されることになるので、これについては全選手が恩恵を受けることになるだろう。

 いずれにせよ、来シーズンからMLBの野球スタイルが大きく変わっていきそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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