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子猫を殴りつけ死なせた男性に動物愛護法違反で罰金70万円 保護猫の譲渡の条件

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

動物好きの人なら、読みすすめることができない悲惨な事件が起こりました。

それは、子猫が虐待された事件です。沖縄県うるま市の自宅アパートで子猫2匹を繰り返し殴打するなど虐待して死傷させたとして、当時ホテル従業員の20代男性を動物愛護法違反と器物損壊の罪で略式起訴し、その後、男性は罰金70万円の略式命令を受けたとまいどなニュースが伝えています。

保護猫のトライアル期間中に虐待が

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イメージ写真写真:アフロ

この男性から被害を受けたのは保護猫でした。

ボランティアさんが、この人なら大丈夫と子猫2匹を譲渡しようと思いました。そうはいっても、人は会っただけでその人の本性を見抜くことはできません。それで、保護猫の譲渡にはトライアルというものがあります。

ペットショップなどで猫を購入する場合は、言い方が悪いかもしれませんが、お金さえ出せばいいわけです。一人暮らしでも留守番時間が長い場合でも、ペットショップなら問題なく自分の猫にできます。

一方で、保護猫の譲渡のときは、前述したトライアル期間というものがあります。

トライアルとは、保護猫を正式譲渡する前にお試しで猫と暮らしてみて、お互い終生飼育ができるかを見るものです。

まずは飼い主がその猫と暮らせるのかを観察します。いままで猫アレルギーを知らなかった飼い主が、猫と一緒に暮らすことで発症することもありますので、短期間、様子を見るのです。人の都合でだけではなく猫側からも見て、この人が猫を飼うのに適切かを観察します。

トライアル期間は保護施設によって違いますが、おおよそ2週間~1カ月です。一般的にトライアル期間に飼い主がすることは、LINEなどで状況報告(写真を添付することも)をすることです。

注意:このトライアル期間は、保護猫の所有権は飼い主ではなく、保護主や保護団体にあります。

猫と暮らすことが適切ではない人は、トライアルの時期にわかることが多いのです。今回の事件も、ボランティアさんが子猫たちの様子がおかしいのではと気が付いたのは、このトライアル中だったのです。

毎日、飼い主は子猫の様子を連絡するはずだったのですが、連絡をしなかったのです。翌日、送ってきた写真には、血が付いた子猫の姿があり、ボランティアさんは、子猫が危険な状況だと思いすぐにトライアルを終わらせて2匹の子猫を返してもらいました。

そこには、重篤な状態なチャムくんと脚を負傷しているヨリくんがいました。

虐待と訴えるためには証拠が必要

お尻から血を流していたチャムくんは、ボランティアさん宅でのたうち回りその夜に息を引き取ったそうです。ヨリくんは脚を粉砕骨折していて入院しました。

これだけ、読んでも十分に虐待です。しかし、これだけでは虐待で訴えるためには証拠がダメなのです。

まいどなニュースによりますと、近くの動物病院でレントゲン検査などをして、その上、虐待が疑われる際の解剖をしてくれるという日本獣医生命科学大学の研究室で検死解剖をしてもらえないかと、署の担当者にお願いし、その後遺体を引き取って大学に送ってもらうなどまでしないと、動物虐待の罪で訴えることは難しいと伝えています。

日本には、人のように動物を司法解剖しているところは、限られています。そのため、沖縄から東京に遺体を送ったのです。

子猫の譲渡の難しさ

動物の譲渡会で、実際に里親になってもらう割合が少ないと問題になっていました。里親になる条件が厳し過ぎるとも言われていますが、その点を見ていきましょう。

動物保護施設によって異なりますが、以下のような条件があるところが多いです。

・必ず不妊去勢手術を行うこと(希望しない繁殖を防ぐことと病気を予防するため)

・混合ワクチンの接種、健康管理を必ず行うこと

・必ず室内で飼育すること

・同居する家族全員の同意を得ること

・住まいがペット可であること(賃貸の場合)

・一人暮らしの方は譲渡会へ参加できません

・高齢者の方への譲渡はできない場合があります

これは、一般的なことで、そのうえ、留守番の時間が長くなるような場合も断られることもあります。

なぜ、譲渡条件が厳しくなるのか、それは今回のような子猫を虐待死させるような人が、世の中に残念ながら存在するからです。

まとめ

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イメージ写真写真:アフロ

弱い子猫を殴る、投げつけるなどをする行為は虐待になり、動物愛護法違反で犯罪です。子猫なら、そのようなことをして問題がないと思っている人がいるのかもしれません。

血を流しながら苦しんで息を引きとったチャムくんや脚を粉砕骨折しているヨリくんも動物愛護法で守られているのです。たとえ手のひらに乗るほどの小さな命でも子猫の命を奪う行為は犯罪です。

信じたくないですが、このような動物に対して虐待する人がいるので、保護猫の譲渡条件がますます厳しくなっていきます。譲渡が進まなくなると、保護猫施設はいまでも満杯なのに、さらに保護猫を抱えます。

聞きなれた言葉かもしれませんが、猫は繁殖能力が旺盛な動物なので、不妊去勢手術をして飼いましょう。チャムくんやヨリくんのような猫を出さないために。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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