宮野真守 エンターテイナーとしての矜持と対峙した、初のオーケストラコンサートは「かけがえのない瞬間」
15周年の締めくくりの初フルオーケストラコンサート
声優・俳優、そしてシンガーとしてマルチな才能で活躍する宮野真守が、アーティスト活動15周年の締めくくりの舞台に選んだのが、6月に東京と京都で行なった初のオーケストラコンサート『billboard classics 宮野真守 Premium Symphonic Concert 2024~AUTHENTICA~』だ。3公演で1万人を動員し、“AUTHENTICA”=本物、というタイトルに込めた思いが伝わってくるステージだった。そして挑戦し続ける姿勢を貫く宮野真守というアーティストの現在地を、ファンに明確にし、その先の未来を提示した時間でもあった。このコンサートから少し時間が経った今、改めて振り返ってもらい、どんな想いであのステージに立っていったのかを聞かせてもらった。
「素晴らしい出会いの連続の15年。恵まれています」
「15周年というタイミングで、チームとしても何かチャレンジしようということを何年か前から計画していました。キャリアとしても熟した頃にフルオーケストラコンサートという、今までやったことがない大きなチャレンジができたということは、アーティストとしてステップアップにつながったのではと思っています」。
自身でも大きな挑戦となった、初のフルオーケストラコンサートを成功させた素直な想いをそう語ってくれた。フルオーケストラをバックに歌うということは、シンガーにとっては実力と共に覚悟が求められるが、宮野は15年というキャリアを積んできて、自身の中に蓄積された経験が、実のあるものという実感があったからこそ大舞台に挑むことができた。
「自分がアーティストとしてまだ右も左もわからないところから今まで、本当に素晴らしい出会いの連続で、恵まれています。作詞をやってみたり、歌う音楽のジャンルを増やしてきたり、音楽の知識をたくさん教えてもらったり、それによってボーカルの技術も向上してきた15年間だったなって思います。ちゃんと音楽に向き合った結果、素晴らしい人たちが周りにいてくれて、それがありがたいです」。
「これまでやってきたことが、きちんと経験値として蓄積できていたことが大きかったと実感できたので、少しは自分を褒めてあげてもいいかなと思えました」
自身が置かれた環境に感謝し、15年間の積み重ねが成就したコンサートだった。宮野はコンサート後にブログで「普段は自分に厳しいけど、今回は少し褒めてあげたい」と発信。今回のチャレンジの成功はこれまでとは違うと教えてくれた。
「長年一緒にやっているチームではない“場所”で作ったものを、評価していただけたことで、それは声優やミュージカルを始め、これまでやってきたことがきちんと経験値として蓄積できていたことが大きかったと実感できたので、少しは自分を褒めてあげてもいいかなと思えました。初めてお会いするマエストロの中田延亮さんはもちろん、オーケストラの方々、サウンドプロデューサーとして入っていただいたJin Nakamuraさんは、僕のアーティスト活動のなかで初期からクリエイターとしては携わっていただいていますが、コンサートに携わっていただくのは初めてで、初めて尽くしの座組ということで僕自身すごくドキドキしました。ファンのみなさんやビルボードさん、コンサート制作のスタッフさんから『すごくよかったよ』という評価をいただけて、それが僕の中で一番の収穫だったし、15年間アーティスト活動をやってきたからこそ戦えたことでもあると思ったので、少し自信になりました」。
これまで歌ってきた曲がオーケストラアレンジを施されたことで、ガラッと表情が変わり、それを最初に聴いた時はどう感じたのだろうか。
「最初にアレンジをいただいて聴いた時は、すごく感動して、オーケストラで表現するとこうなるんだという世界観が広がって、すごくわくわくしました。ホールでオーケストラのみなさんとリハをやった時、実際に生の音を聴くと生きもののようで、そこで戸惑いました。マエストロのタクト次第でテンポ感が変わって、実際の音とイヤモニから聴こえてくる音が、どういうバランスで自分の体に入ってくるのかが想像できなかったんです。想像できないから最初戸惑って、でも難しいと思ったからこそ自分の経験値にしたいという前向きな気持ちと、短いリハの中で自分が何を大切にしていけばいいか、集中力が求められましたが、そこで納得がいく表現ができたのは、キャリアの中で積み重ねてきたものがあったからこそだと思いました」。
マエストロの中田延亮とはどのように話をしながらコンサートを作っていったのだろうか。
「音的な細かい部分は、中田さんとJin Nakamuraさんで構築していって、僕はテンポ感や、こういう風に歌いたいですということを相談しました。どうすると歌いやすくなるか、中田さんは歌にすごく寄り添ってくださいました。僕が中田さんの紡ぐ音のひとつ一つに入っていく感覚というか、中田さんの指揮の中にどう入っていくのかということを主にお話させていただいたと思います」。
これまで宮野とJin Nakamuraが作ってきた楽曲には、どの曲にもメロディの美しさが貫かれていた。その曲達が編曲監修の山下康介や萩森英明など、これまでbillboard classicsで数々のアーティストの曲をアレンジしてきた編曲家たちのアレンジによって、改めてどの楽曲もそのメロディの美しさが際立っていた。
「自分の歌声だけでコーラスも入っていないし、デジタルな何かが上乗せされていない生の楽器の音だからこそ、そのメロディが際立つというか、音が際立つという感覚は確かにありました」。
「音に揺さぶられて嬉し泣きしそうになったあの感覚は忘れられない」
MCで「緊張した」と語っていたが、50人の人間とその音を背負い、緊張感が漂う客席を目の前にし、その真ん中に立った瞬間はどんな気持ちだったのだろうか。
「序盤はバラードが多かったこともあって、音に包まれた時に泣きたいわけではないのにその音が琴線に触れる感じがあって、こんな感覚は初めてでした。感情とは関係なく、音に揺さぶられて嬉し泣きしそうになったあの感覚は忘れられません」。
「お客さんにも普通のコンサートとは違うあの空気感、緊張感を楽しんで欲しかった」
オーケストラコンサートに初めて足を運ぶファンの緊張感と、“初”に挑む宮野の緊張感が重なり、開演前の客席にはただならぬ緊張感が漂っていた。しかしこれも宮野からファンへの“プレゼント”だった。そして最初に演奏された「Overture」から客席では涙を流している人が多かった。
「玉置浩二さんのオーケストラコンサートを観に行かせていただいた時に、席に座った瞬間、すごく緊張したんです。最初にクラシックアレンジされた玉置さんの曲を演奏して、とにかく緊張感があって。でもそれがとても素敵だったんです。僕はちょっと意地悪なところがあるので(笑)、あの緊張感をファンのみなさんにも味わってほしい、普段のコンサートとは違うあの空気はなかなか味わえないので、楽しんでほしいと思いました。ファンの方は、ステージにはオーケストラのみなさんしかいないし、特に説明もなく『Overture』が始まって、何が起こるんだろうって思いながら聴いていると、『Overture』に『Beautiful Life』という曲が含まれていることに気づいてくれたはずです。この曲は東日本大震災の後に作った、僕にとって特別な意味を持つ楽曲なんです。みなさんはそこからどんどん音に包まれていって感動して、冒頭から空気感が作られていたと思います」。
「今までのライブでは“見せる”ことをすごく大切にしてきて、でも今回は“見せない”で“聴いてもらう”ことを目的としていたので、その難しさがありました」
1部はMCがなく、ステージを真っすぐ見て一曲一曲、ひと言を美しい音と共に届ける宮野の姿が印象的だった。時々見せる胸に手を当てる仕草や、小さなガッツポーズが印象的だった。
「【~AUTHENTICA~】というタイトルで、自分の歌だけでどれだけ届けられるか、感動してもらえるか、それこそがアーティストの神髄じゃないですか。ライブ活動を始めた時から、自分はシンガー・ソングライターではないので、いかにパフォーマンスで見せるかにこだわってやってきました。でも一方で、歌だけで本当に感動させられるようなアーティストになれたらいいなという思いは、デビュー当時からずっとありました。そこにチャレンジするという意味もタイトルには込めています。今までのライブでは“見せる”ことをすごく大切にしてきて、でも今回は“見せない”で“聴いてもらう”ことを目的としていたので、その難しさがありました。その中で歌に集中するために、胸に手を当てたり、ガッツボーズが思わず出たのだと思います」。
2部では一転、選曲もロックナンバー、ダンサブルなノリのいい曲が多かった。いつもの“マモライ”の雰囲気で笑顔の客席と宮野もコミュニケ―ションを楽しんでいた。1部とのコントラストに引きつけられた。
「もし僕だけで構成を考えていたら、ずっとストイックに歌うことにチャレンジしていたかもしれません。でもJin Nakamuraさんが入ってくれたことで、お客さんの目線も非常に大切にしてくださって、さらに東京公演でのお客さんの反応を見て、京都ではもう少しお客さん、オケの方達ともコミュニケーションを取って空気を変えてみるのもいいかもしれないとか、客観的に見てアドバイスしてくださったので、結果的に温かいコンサートになったと思います」。
新曲「AUTHENTICA」に込めた想い
宮野はこのコンサートのために新曲を用意していた。Jin Nakamuraと共に作り上げたコンサートタイトルにもなっている「AUTHENTICA」だ。ドラマティックなイントロから、涙なしでは聴くことができない曲だと予感させてくれたバラードだ。宮野が「今思っていることを歌詞にしました」と語り、同時に宮野がJin Nakamuraからかけてもらった「宮野さんの人に寄り添う態度が素晴らしい」という言葉を紹介していたが、まさにこの曲には宮野の人を想う気持ちが色濃く出ていて、聴く人全てをやさしさで包んでくれる。
「自分が今何を歌うべきか、今の経験則で歌えることってなんだろうって考えました。その時Jin Nakamuraさんからあの言葉をいただいて、『聴き手に寄り添ってあげられる、共感性があってそっと背中を押してあげられるような曲がいいなと思って』と、デモをいただきました。こうしなければいけないとか、こうすべきという説教のような歌ではなく、自分も一緒だから大丈夫だよってことを伝えたくて歌詞を書きました」。
コンサートのラストに、ずっと歌い続けている大切なデビュー曲「Discovery」を「新しいキャリアのスタートにしたい」と歌ったシーンも印象的だった。オーケストラアレンジで彩られたデビュー曲は、豊潤な歌によって瑞々しさと叙情的な部分がさらに深くなっていた。
宮野のアーティストとしての矜持を強く感じさせてくれたこのコンサートは、再演希望の声が多い。
「やっぱりこのスタイルでコンサートができることは、自分にとってかけがえのないことだし、こういうコンサートができるアーティストという、キャリアの中でひとつの誇りになりました。また絶対チャレンジしたい」。
「これからの自分が新たにどんな表現を見つけることができるのか、自分自身に期待したい。そして皆さんに楽しい時間をもっともっと届けることができるようにしたい」
15周年を締めくくる場所と時間にもなったこのコンサート終え、宮野の目は既に“次”に向いていて「経験してないことがまだたくさんあるので、目標は尽きない」と力強く語ってくれた。コンサートのMCでも「これからの自分が新たにどんな表現を見つけることができるのか、自分自身に期待したい。自信を持って確実に一歩一歩進んで、皆さんに楽しい時間をもっともっと届けることができるようにしたい」と、アーティストとしての決意を新たにしていた宮野の全国ツアー『MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2024-2025 〜DRESSING!〜』が12月からスタートする。15周年のタイミングで実現したエポックメイキングなコンサートを経て、「自分の表現と向き合った後、ここから何が生まれるか。だから次のツアーは絶対観に来てほしい」と語る稀代のエンターテイナーの“次”は、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみだ。
2025年2月19日にLIVE Blu-ray&DVD『billboard classics 宮野真守 Premium Symphonic Concert 2024 ~AUTHENTICA~』が、ファンクラブ限定で発売されることが決定した。6月8日(土)東京ガーデンシアター公演の全曲が収録され、さらに映像特典としてリハーサルの様子や東京公演、京都公演を追いかけたメイキングも収録される。
『MAMORU MIYANO LIVE TOUR 2024-2025 〜DRESSING!〜』
■12/14(土)・15(日) 大阪:大阪国立会議場 グランキューブ大阪
■12/22(日)新潟・長岡市立劇場
■2025年1/12(日)・13(月・祝)宮城・仙台サンプラザホール
■1/18(土)・19(日)愛知・一宮市民会館
■1/25(土)・26(日)千葉・LaLa arena TOKYO BAY