サザビーリーグが「アメリカンラグ シー」事業から撤退、セレクト業態が抱える構造的課題が浮き彫りに
サザビーリーグが「アメリカンラグ シー」事業から撤退することを決めた。8月末をメドに全5店舗を閉鎖し、9月に事業を終了する。「アメリカンラグ シー」の発祥は1984年、米インダストリーズ ワーツ社がロサンゼルスのラ・ブレア通りにオープンした米国西海岸発のセレクトショップだ。デニムやTシャツ、スニーカー、デザイナーズブランドからビンテージウエア、さらには「メゾン ミディ」のネーミングで食器やインテリア、アートまで幅広く扱い、カリフォルニアの空気感に地中海周辺諸国のカルチャーをミックスした、独特の世界観を有している。「フレッド シーガル」や「バーニーズ ニューヨーク」などと並び、今なお、バイヤーをはじめとしたファッション業界人の多くが定点観測する注目ストアであり続けてきた。なぜ日本では撤退の憂き目にあってしまったのか?
「アニエスベー」や「スターバックス」を日本で大ヒットさせた、海外ブランドインキュベーションの立役者
サザビー(当時)は、1983年に仏C.M.C社と合弁でアニエスベーサンライズを設立し、フレンチカジュアルの代表的ブランド「アニエスベー」を日本で大流行させることに成功(2005年に合弁を解消)。さらに、1995年には米国スターバックス コーヒー社と合弁でスターバックス コーヒー ジャパンを設立し、日本全国に1000店舗以上・売上高1256億円(2014年3月期)まで拡大させるなど、外資企業と組んで日本でブランドをインキュベーションすることを得意としてきた(その後、スターバックスはさらなる発展に向けて米本社の完全子会社化が最善と判断したため、2014年に約550億円で株式を売却している)。その後も、ロサンゼルス発のライフスタイルセレクトショップ「ロンハーマン」や、デンマーク発の低価格雑貨「フライングタイガー」、高級ハンバーガーの「シェイクシャック」などとも取り組みを進めてきた。
「アメリカンラグ シー」も、そのグローバルブランドアライアンスのノウハウを生かすべく、1998年にサザビー(当時)が80%、米インダストリーズ ワーツ社が20%を出資してアメリカンラグ シー ジャパンを設立。同年10月に開業した新宿フラッグスに1号店を出店。以来、本国の持つ世界観を生かしながら日本市場にマッチした品ぞろえやオリジナル商品の投入などを行いつつ、青山や渋谷などの路面店やファッションビルなどに多店舗化してきた。
けれども、2008年をピークに売り上げは失速。2013年秋冬に青山の路面店を閉店してから、17年1月にはルミネ横浜店・大丸神戸店・ナバアサナ大丸京都店、3月に天神ヴィオロ店、4月に渋谷路面店、5月になんばパークス店、7月に銀座マロニエゲート店と次々と店舗を閉鎖。現在は新宿フラッグス店、名古屋店、京都BAL店、ルクア大阪店、札幌ステラプレイス店の5店舗のみ営業している状態。8月末までに全店を閉鎖し、9月に事業を終了することになった。
セレクト業態、ファッション業界がさらされる構造的な課題
撤退を余儀なくされた理由は複数ある。しかも、「アメリカンラグ シー」だけの問題ではなく、ファッション業界全体がさらされている構造的な課題がそこには横たわっている。
一つは、セレクトショップ業態の競争力の低下だ。長らくインポートと呼ばれる海外ブランドやドメスティックと呼ぶ国内デザイナーズブランドなどを、自店のテイストに合わせて仕入れて編集して提案していたが、簡単に国内外のブランドを仕入れられるようになった今、品ぞろえで差別化を図ることは非常に難しくなっている。しかも、セレクトショップで販売されている商品は、EC上で簡単によりリーズナブルな価格で手に入れることが可能だ。例えばオンラインセレクトショップの「マッチズファッションドットコム(MATCHESFASHION.COM )」(イギリス)や「エイソス(ASOS)」(同)、「ザランド(ZALANDO)」(ドイツ)、ファッションECモールの「ファーフェッチ(FARFETCH)」(イギリス)や「アマゾン(AMAZON)」(アメリカ)、さらには、海外ブランドを個人間で売買するCtoC型の「バイマ(BUYMA)」(日本)や「ワジャ(WAJA)」改め「ワールドローブ(WORLDROBE)」(同)、そして、ブランドの自社ECもそれに当たる。ファッション好きであればあるほど積極的に世界のECサイトをチェックする人が多く、「日本のセレクトショップでインポート商品を買うのはお得ではない」という認識が定着してしまっている感は否めない。
また、「アメリカンラグ シー」の日本事業がピークだった2008年は、「H&M」が日本に上陸(9月13日に銀座に1号店をオープン)したのをきっかけに、「ザラ」や「フォーエバー21」「GU」などのファストファッションブランドに対する興味関心が一気に高まった年だった。同時にリーマン・ショック(9月15日)による世界的な景気低迷によって、コストパフォーマンスに対する意識が高まるきっかけとなった。「アメリカンラグ シー」の場合、ロットも少なく、オリジナルで企画した商品でもスカートやブラウスが1万円台後半~、ワンピースが3万~6万円など、品質やテイストは良くても相対的な価格競争力が発揮できなかったという面もある。
現在、セレクトショップといわれる多くのブランド・ストアでも、オリジナル比率は50%近くまで高まっているところが多い。セレクトショップでもある程度の規模を確保し、価格競争力のある商品を企画・生産できるだけの調達プラットフォームが必要不可欠な時代に突入しているといえる。並行して、販売員不足や出店や店舗運営コストの増大にあたり、小規模なブランド・業態は廃止し、有力ブランド・業態へと事業の選択と集中を行うことも求められている。サザビーリーグでも2015年8月のセレクトショップ「アンドエー」に続き、2017年1月にはSPA型の「エルフォーブル」を事業終了している。その分、「エストネーション」や「ロンハーマン」のカジュアル業態「RHC」、好調な「カナダグース」、さらには食物販の「アコメヤ トーキョー」や「シェイクシャック」、EC事業など、成長分野に投資を傾注するとみられる。
「アメリカンラグ シー」については、規模の拡大を否定し、真にオリジナリティのあるセレクトストアとして、趣味性や希少性の高さを発揮することで新旧の顧客をつなぐ個店型ショップに原点回帰すべきだったという反省もあるかもしれない。そもそもロサンゼルスの本家「アメリカンラグ シー」は、一時は多店舗化もしたが、ラ・ブレア通りの大型店一つとECとを拠点にビジネスを展開しており、競合が増える中でも一定の存在感を発揮し続けている。生活雑貨やアート系のアイテムなども取り扱い、カフェを併設するなどライフスタイル提案力も高かった。一方で、日本では、ファッションに寄りすぎたうえ、多店舗化をしすぎて薄味になってしまった。しかも、オフィシャルウェブサイトやECなどが本格化したのは2016年からと立ち遅れが目立った。商品や店舗が同質化する時代において、また、SNSなどで多様な情報が飛び交う中で、モノ自体の価値以上に、そのモノや店を良いと認めて進めるキュレーターやインフルエンサーの存在感は日に日に大きくなっている。ベイクルーズやアーバンリサーチ、ビームス、さらには、「ゾゾタウン」の「WEAR」などでは、スタッフやインフルエンサーによる共感型購買にいち早く着手し、成果を上げている。セレクトショップ各社は規模が大きくなるにつれて味が薄くなるなどと揶揄されることもあるが、好調な企業は、いつでもどこからでもアクセスできる利便性に加え、顔の見える事業展開によって再び「マイストア化・マイブランド化」が進んでいると見ることができる。
米本国がECを中心に事業継続を検討、2019年に店舗も復活か!?
サザビーリーグによる事業展開は終わるが、「アメリカンラグ シー」自体は、米本国のインダストリーズ ワーツ社が、オンラインビジネスを中心に日本での事業の継続を検討している。さらに、2019年に改めて店舗を展開することについても現在検討中だという。日本ではビンテージブームが盛り上がっており、ストリートやユースカルチャーも台頭している。新たなパートナーを得るのか、あるいは、単独展開になるのかわからないが、独特のファッション&カルチャーを持った「アメリカンラグ シー」の日本での復活の道のりを見届けてみたい。