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今週が最終戦。未勝利でも7試合で16億円、途中棄権しても1800万円がもらえるリブゴルフは理想郷!?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 サウジアラビアの政府系ファンドの支援を受け、グレッグ・ノーマンが創設したリブゴルフは、今年、ゴルフ界を大揺れさせながら、いよいよ最終戦を米フロリダ州マイアミのトランプ・ナショナル・ドラールで28日から迎えようとしている。

 第8戦となるこの最終戦だけは、個人戦がなくチーム戦のみとなる。

 最大の目玉は、相変わらずビッグマネーだ。賞金総額5000万ドル(約74億円)、優勝チームには1600万ドル(約23億6900万円)が授けられる。

 「最大の目玉」と書いたが、燦然と輝くビッグマネーは、リブゴルフにおける「唯一の目玉」のようにさえ感じられる。

 今年6月に創設されたリブゴルフが費やしているお金は、この1年だけでも果てしない金額になる。

 まず、トッププレーヤーたちを勧誘するために事前に支払った契約金は、フィル・ミケルソンに2億ドル、ダスティン・ジョンソンに1.5億ドルなどと推定されており、その総額は推定で10億ドル(約1482億円)と言われている。

 8試合の賞金総額は2億2500万ドル(約333億5000万円)。

 そして、第7戦までのトップ3に授けたボーナスは合計3000万ドル(約44億4770万円)。その内訳は、1位のダスティン・ジョンソンが1800万ドル、2位のブランデン・グレースが800万ドル、3位のピーター・ユーラインが400万ドルだった。

【未勝利でも、わずか7試合で16億円超】

 こうした金額は、あまりにも巨額すぎて、何がどのぐらいすごいのかが、どうもピンと来ないのだが、こんな具体例を知ってしまうと、唖然とさせられる。

 ユーラインは、2011年以来、この10年超の間にPGAツアー(大半は下部ツアー)で稼いだ賞金総額が約400万ドル(約5億9200万円)だったそうだが、それとほぼ同額がリブゴルフからボーナスとして贈られ、彼が今年、リブゴルフの7試合で稼いだ賞金は1100万ドル(約16億2900万円)。

 過去10年かけてPGAツアーと下部ツアーで稼いだ金額の4倍近くを、リブゴルフのわずか7試合で稼いだことになる。

 驚くべきは、ユーラインはPGAツアーでもリブゴルフでも「1勝もしていない」という事実だ。下部ツアーのコーンフェリーツアーでは2勝しているが、いわゆる一軍では未勝利なのだ。

 米スポーツ・イラストレイテッド誌は、そんなユーラインとの比較として、スウェーデン出身のアレックス・ノーレンという40歳のPGAツアー選手の例を挙げていた。

 ノーレンも、これまでPGAツアーで1勝も挙げたことがない選手だが、それでも先週のCJカップで37位になった際の賞金を加算すると、ようやく生涯獲得賞金が1000万ドルを突破したという。

 PGAツアーにおいて、未勝利で生涯獲得賞金1000万ドル突破というのは、勝てずとも上位入りを長年続けなければ達成できない偉業だ。ノーレンはこの偉業を達成した史上13人目の選手となった。忍耐の賜物。根気と根性の賜物だ。

 しかし、それほどの偉業と同等以上の1100万ドルを、ユーラインは、やはり未勝利のまま、リブゴルフで1年足らずの間に、わずか7試合で稼いだことになる。

【途中棄権しても1800万円!?】

 ノーレンとユーライン、同じ未勝利でも、どちらが効率的にビッグマネーを手に入れたかと言えば、どこからどう見ても、ユーラインである。

 だが、必死に努力して、いろんなものを積み上げて、その結果として得た賞金の蓄積と、リブゴルフで得たぼろ儲けのような賞金と、どちらにどういう価値を感じるか、見出すか。そこは、それぞれの価値観次第なのだろう。

 「お金さえ得られれば――。お金こそが、すべて」という価値観であれば、リブゴルフこそが理想郷なのだろう。

 ちなみに、リブゴルフでは第1戦からは1人も出なかった途中棄権が終盤になって、ついに出たのだが、サウジアラビアで開催された第7戦を途中棄権したマーチン・カイマーとケビン・ナにも、それぞれ12万1000ドル(約1793万円)が支払われていて、これにも驚かされた。

 出場しさえすれば、たとえ最下位でも、たとえ80や90を叩いても、たとえ途中でプレーを止めても1800万円近い大金が得られるリブゴルフは、「お金がすべて」の選手にとっては、まさに天国だ。

 しかし、アスリートとして、やりがいはあるのか。夢はあるのか、理想はあるのか。お金以外、お金以上の「何か」を求める選手にとっては、決して天国ではないはずだ。

 試合を観戦するファン、選手を応援するファンにとっても、ビッグマネーだけが見どころのリブゴルフは、やがて魅力も興味も無くなるのではないだろうか。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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