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浜名湖ITF$25,000トーナメント、大会注目選手紹介(1):荒川晴菜/坂田季美佳

内田暁フリーランスライター
写真左が荒川晴菜、右が坂田季美佳(写真撮影:寺尾よしのぶ)

■浜名湖東急カップ 浜松三ヶ日国際レディーストーナメント 注目選手紹介(1):荒川晴菜/坂田季美佳■

「すごーい! ありがとう!」

「Nice Catch!」

「ごめんねぇ」

鈴を転がすような明るい声が、コートの上で絶え間なくはずむ。ポイント間では笑顔を交わし、言葉を掛けあい、そして最後はいつも「Hey!」の掛け声とともに、互いの手をパチンと合わせる。

荒川晴菜と坂田季美佳――。ともに1999年生まれ。まさに“箸が転がってもおかしい年頃”といった趣のこの2人こそは、日本テニス界の未来のスター候補生だ。

いずれも小学生時代から同世代のトップを走ってきた同期の2人だが、方や関東、方や関西出身のため、直接顔を合わせる機会はそこまで多い訳ではなかった。そんな両者を強く引き合わせたのが、13歳時の初対戦。ラリー中にラケットを落とした荒川が、ポイントを失った時のことだった。「今のポイントは、やり直しだろうな」、そう思った坂田に対し、荒川は「自分の不注意で落としたので、相手のポイントです」と自己申告したという。

「凄くフェア精神のある子だなって。試合も接戦で、終わった時に周囲を見たら、たくさんのお客さんも見ていたんです」

12~13歳の頃のことは「遠い昔であまり覚えていない」という坂田が、その試合のことは鮮明に覚えていた。

以来、2人は遠征に行ってもよく話し、よく笑い、キャリアの節目節目ではダブルスパートナーとして一緒にコートに立ってきた。ジュニアから一般への転換期にあたる“今”も、再びペアを組む機会が多い時期。今大会のダブルス1回戦でも、フルセットの接戦を制して2回戦へと歩みを進めた。

生まれ年が一緒で、身長もほぼ同じ(荒川159cm、坂田160cm)。そんな両者だが、それぞれのプレースタイルはかなり異なる。

坂田に「最も得意なショットは?」と問うと、返ってきた答えは「バックハンド」。好きなパターンはクロスの打ち合いからダウンザラインへの展開で、これが決まると「今日は調子がいい!」と自信を抱けるバロメータであり、以降も気持ち良く腕を振り抜ける潤滑油である。

荒川にも同様に好きなショットを問うと、「うーん」と小さくうなり宙に視線を漂わす当人に、ダブルスパートナーがすかさず「ドロップショットでしょ!」と突っこみを入れる。「そうかなぁ」とまた無邪気に笑う荒川は、「緩い球と速い球……緩急をうまく使って、相手を惑わせるプレーが好きです」と、今度は幾分いたずらっぽい笑みを浮かべた。それは次女の荒川が、2歳年長の姉と幼少期から戦うなかで、いつしか身に付けた年下ならではの武器である。

なお荒川と坂田の2人は、シングルスでも今大会の予選を勝ち上がり本選に進出。今季は2人ともITFトーナメントにも積極的に参戦し、荒川は先週の牧ノ原大会で本選ベスト4にまで勝ち上がっている。

「ITFに出始めの頃は、相手は凄いと思っていたので、負けてもそれほど悔しくなかった」

そう数カ月前を振り返る荒川だが、ある時、敗戦後に電話で話していた母親に「そんな考え方じゃ、プロになれないよ」と言われ意識が変わった。

一方の坂田も、「最初は大人の選手とやったら手も足も出ないかと思っていたけれど、意外とストロークでは打ち合えた」と手応えをつかみつつある。課題は、リードした時に勝利を意識し硬くなってしまうこと。克服のカギは、精神面だと踏んでいる。

荒川がITFに出るようになったのは「自分で考えて」の決断であり、坂田は「周囲のアドバイスもあって」のことだという。その2人がともに目指すのは、来年には一般レベルでトーナメント転戦すること。そのためにも実力を上げ、ITFトーナメントで結果を残して、スポンサー等の目にも止まらなくてはとの思いもある。

「がんばらないとね!」

絶やすことのない笑顔の底には、リアリスティックな覚悟がある。

浜名湖東急カップ浜松三ケ日国際レディーストーナメント公式facebookより転載。連日、大会レポート等を掲載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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