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24年ぶりの優勝を目指す広島。男気・黒田と野生児・菊池の活躍で赤ヘル旋風を起こせるか

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

ビジター球場ではレフトスタンドを真っ赤に染め上げる熱狂的なファンの存在に加えて、年々若手が力をつけていることもあり今季の順位予想では多くの評論家が優勝候補に挙げる広島。ただオープン戦は3勝7敗2分の最下位に沈む。白星を挙げた3試合は全て日曜日、黒田が先発した試合だった。メジャー挑戦からの日本復帰は、選手としてのピークを過ぎてからというのが当たり前だったが、黒田はバリバリのメジャーリーガーのまま広島に戻った。その投球には広島ファンのみならずプロ野球ファン全員が注目している。

活躍次第で黒田が時代の先駆者に

広島在籍時の黒田は本格派右腕のイメージが強いが、渡米後は綺麗な回転のフォーシームではなく打者の手元で動くツーシームを主体とする投球術にモデルチェンジ。少ない球数でアウトを積み重ねローテーション投手としての役割を果たしていた。メジャーにアジャストした結果、日米の通算成績を比べると防御率は3.69から3.45へ、WHIP(1イニングに出したランナーの数)は1.27から1.17へと成績が向上。そんなワールドクラスの投球術を日本復帰後初のオープン戦でも存分に披露した。3月8日のヤクルト戦で4回1/3をわずか39球でパーフェクト。1人当たり3球というテンポの良さだ。初回を5球で終わらせるとその後もストライクゾーンを支配し39球中ボール球は9球、初球ストライク率84.6%と常に投手有利のカウントで攻め続けた。並み居る屈強なメジャーリーガーを手玉に取った1球1球に意味がある芸術的な投球は、マウンドとボールが変わっても色あせることはなかった。抜群のパフォーマンスを見せた中で特に注目を集めたのが外角のボールゾーンからストライクになるバックドア、内角のボールゾーンからストライクになるフロントドアと呼ばれる変化球の使い方。日本の野球ではストライクからボールになる変化球をいかに振らせるかが配球の肝。セリーグでは特にその傾向が強い。ただ野球には時代の流れに合わせたトレンドがある。数年前にはツーシームやチェンジアップを武器とする投手はそれほど多くなかったが、今では高校生でも多くの投手が持ち球としている。黒田の活躍次第で数年後にはこの逆パターンの使い方がスタンダードとなる可能性もある。新たな潮流を生み出す時代の先駆者となるか。

今季は菊池の今後を占う1年に

打撃面に目を向けてみると、チームは昨季ヤクルトに迫る649得点を記録。特にアドバンテージとなったのが菊池の存在だ。

菊池は東海地区大学野球連盟の岐阜学生野球リーグに所属する中京学院大学の出身。全国からトップレベルの選手が集まる主要リーグではなく中央球界では無名に近かった。それでも身体能力の高さは折り紙つきで、昨季のシーズン535補殺はNPBの歴代最高記録。他球団からFA宣言した大物選手を獲得するのではなく、素材型の選手をドラフトで指名し徹底的に鍛えることで主力へと育てていくことがチームの方針。驚異的な守備範囲と抜群の脚力を武器に侍ジャパンのメンバーにも選ばれた菊池は最高の成功例と言えるだろう。

他球団は打力の低い選手が2番を務める中、菊池を固定した広島だけは打順別OPSが.806と断トツで高かった(2位の中日で.679)。ただ菊池は初球からガンガン振る超積極打法のため四球は27.25打席に1つと極端に少ない。セイバーメトリクスが四球や出塁率を重視するのは、打率よりも得点との相関関係が高く、しかも年俸が低く抑えられるというメリットの他に、年ごとのバラつきが少ないことが挙げられる。逆に言えば、菊池のように四球が少ないタイプの打者はシーズンによって打率の変動幅が大きいと予想される。もちろん四球が少なくても毎年高打率を残すイチローのような例外もあるが、昨季の打率.325が出来過ぎだったのか実力なのか、菊池にとって今季が非常に大事なシーズンになる。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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