Yahoo!ニュース

オリックスーソフトバンク戦での「誤審」騒動、その根本的な問題点

豊浦彰太郎Baseball Writer
本来はMLBのように中立な専門センターで映像での確認と判断が行われるべきだ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

本来不可逆的であるべきビデオ検証後の判定に異が唱えられ、審判もNPBも謝罪してもなお収拾に至らない。そんな嘆かわしい事態の根本的な問題点は、審判団自身にビデオ検証を委ねていることにあると思う。

「誤審」騒動の波紋が収まらない。22日のオリックス対ソフトバンクの試合後に審判団がホームラン判定に関し誤審を認めたため、NPBはオリックスに謝罪した。しかし、事態は収拾せず、オリックスは誤審があったとされる延長10回表2死一塁で打者中村晃の場面からのやりなおしを求めているという。

ぼくはこの一件が悲しくてならない。事の道理のかけらもないからだ。問題の本質は、実は誤審そのものではないと思う。たとえビデオリプレーをもってしても、それを人間が観て判断する限り間違いは完全には排除できない。

審判が目視で瞬間的に下す判定に限界があるとして、ビデオによる確認をリクエストに応じて併用するなら、その結果は最終判断として動かざるものでなければならない。しかし、NPBではビデオでの検証後の判断に再抗議するケースが後を絶たない。その理由としては、審判のスキル不足やビデオリプレー設備の不十分さよりもっと根本的なものがあると思う。

それは、審判団自身にビデオでの確認と判断を委ねていることだ。

プロ野球審判は本来大変高いスキルを持った人たちだ。その彼らとて、肉眼でかつ瞬間的に下す判断には限界がある。それをサポートするのがビデオ検証である。したがって、ビデオ確認後の判定は絶対かつ不可逆的であるべきで、それに異を唱えることは厳しく戒められなければならない(仮に今回のように誤審であった可能性が高い場合でも)。

その、いわば当然のことを徹底しようとすると、ビデオ検証は審判団ではなく判定に中立な第三者によって行われるべきだ。審判団は問題の判定を下した当事者であり、それに対し抗議されている立場である。ビデオでの検証においてもバイアスを100%排除するのは難しいと思う。それに自ら下した判定をビデオの併用により自分たちで再確認しなさい、というのは審判の権威を失墜させる仕組みだと思う。彼らにとって非常に屈辱的だ。

ビデオ検証は、MLBのように集中ビデオセンターで専門スタッフが行うのが理想だが、そこまでの体制が組めないなら、公式記録員ではないが中立な専門スタッフを球場に配置すれば良いと思う。

現状のスキームでは判定に不服な監督の矛先が、第一段階、第二段階とも同じ審判団である。そもそも審判の判断に不服だから抗議(リクエストと言うべきか)しているのだ。現在のリクエスト制度は、二度目の判定を最終判断として受け入れるべしとはし難い仕組みだと言って良いだろう。

同じ審判団が再判定するから、それが間違っていれば謝罪するしかなかった。これが審判とは異なる専門スタッフによる判定だったら審判は不当に辱められることはないし、それにすら不服ならオリックスは公式にNPBに提訴し、NPBは再試合にするかどうか冷静かつ事務的に裁定を下せば良い。審判もNPBも謝罪する必要はない。

判断ミス自体はある意味では致し方ないが、自分で自分の判定をビデオで検証させるというこのシステムの問題点が、本来不可逆的にあるべき判定にさらに不服を唱えるという行為を誘発し、審判やNPBをして謝罪せしめ、それでも事態は解決しないという嘆かわしい状況を生み出した。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

豊浦彰太郎の最近の記事