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大谷翔平、2020年は今後の二刀流継続を賭けたシーズンに

豊浦彰太郎Baseball Writer
来季も故障でフル出場できないようだと二刀流継続に疑問符が付きそうだ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

エンジェルスの大谷翔平のメジャーでの2年間を総括するとともに、来季と将来を展望したい。その潜在力はだれもが認めるところだが、多くの懸念もある。2020年は今後の二刀流継続のターニングポイントとなるシーズンになるのではないか。

SLUGGER 座談会

今月の上旬、都内某所で大谷翔平に関する座談会に参加しました。その模様は、雑誌「SLUGGER 」の1月号に掲載されているので、お読みになった方もおられるでしょう。同誌は日本で唯一のメジャーリーグ専門誌なので、内容も専門的です。大谷に関しては、国内の一般のメディアは、「ベーブ・ルース以来の二刀流に全米が驚愕」的な褒めちぎり記事が多いのですが、さすがと言うかSLUGGER の座談会では辛口の評価、今後への懸念も飛び出しました。

私以外の参加者は、同誌エースライターの出野哲也さん。学者タイプで落ち着いた語り口ながら、ベースボールへの情熱を理論的に語る方です。

もうお一方はお股ニキさん。まだお若い方でしたが、科学的な分析でツイッターのフォロワー数は数万人という非常にコンテンポラリーな「グル」でした。

対談が掲載されたSLUGGER 1月号(豊浦彰太郎撮影)
対談が掲載されたSLUGGER 1月号(豊浦彰太郎撮影)

毎年の故障欠場への懸念

お二人とも指摘されていたのが故障の多さ。NPB最終年から3年連続で大きな故障欠場を経験しているということです。このことと、二刀流の因果関係は明らかではありませんが、出野さんは故障予防のためのトレーニングが二刀流の負担により十分にできていない可能性もあると述べておられました。お股さん(こういう表現も妙ですね、ユニークなライターネームの由来もお聞きしておくべきでした)は、100マイルの豪速球を連発する投球スタイルの変更の必要性を説いておられました。抜くところは抜いていかないと、長く投手を続けるのは難しいのではないか、ということです。

これらの意見は「ナルホド」です。日本では、「あわや完全試合の快投!」とか、「サイクルヒット達成!」とか、「ビッグ・フライ!オータニサン!」というような扇情的な報道が多いのですが、2020年はまた故障に見舞われるようだと、ホントに今後も二刀流を継続するべきなのかが問われるある意味崖っぷちのシーズンではないかということです。

二刀流の完成形とは?

私自身は、二刀流の完成形を彼自身がどこに置いているのかがとても気になります。彼がプロ入りした時から二刀流には懐疑的なメディア関係者は少なくなかった(私もそのひとりでした)のですが、2014年に10勝&10本塁打を達成し、「マンガのような」活躍を見せた2016年を迎えると、懐疑派すら「こうなったら、行けるところまで行っちゃえ」という風潮になりました。しかし、「行けるところまで」ってどこよ?という思いも拭えませんでした。「故障で潰れてしまうまでってこと?」ということです。

ですので、彼自身がどこにゴールをおいているのか、とても気になります。「週に一度先発し、前後を休んで週3〜4日DHで出場することを継続する」ことなのでしょうか?これだといつまでたっても、規定投球回数にも規定打席にも達することはできないでしょう。果たして、彼自身の幸せや利益の最大化という観点からはこれで良いのでしょうか?それとも、イチローさんがかつて語っていたように「ある年は投手としてサイ・ヤング賞を、翌年は打者としてMVPを目指すこと」なのでしょうか?高校生の頃から将来のビジョンを明確に描き出していた大谷のことです。この点に関してもおそらく同様なのだと思いますが、第三者には知る由もありません。

今季はNPB時代も含め初めて打者に専念したシーズンでした。二刀流のメジャー初年度に打者として目覚ましいパフォーマンスを披露した大谷に対し、「打者専念」ということで否応無しに期待が高まりました。前年秋に受けたトミー・ジョン手術のリハビリから5月に復帰すると、確かにその活躍は目覚しいものでした。6月にはサイクル安打達成もあり、前半戦は53試合で打率.303、14本塁打、OPS.924と文句なしでした。しかし、後半戦は失速。同じ53試合ながら、打率.269、4本塁打、OPS.767という凡庸な成績に留まりました。そして、その不振の原因にもなっていた左ヒザの手術を受けて9月前半にシーズンを終えました。打者一本槍だったこと、メジャー全体が空前のホームランブームだったことを考慮すると、前年(22本塁打)を下回る18本塁打では期待外れの1年だったと言わざるを得ないでしょう。

来季は二刀流継続の命運を左右する?

出野さんにしてもお股さんにしても、そして私も同意見なのが、二刀流はいつまでも続けられるわけではないこと、投打どちらかに専念する前に二刀流としての金字塔となるパフォーマンスを見せて欲しい、というものでした。

そして、「金字塔」とは出野さんは100勝&100本塁打を、お股さんはNPB時代の2016年の再現を、私はもっと刹那的で1973年に江夏豊さんが、投げては延長11回ノーヒッター、最後は自らサヨナラ本塁打で「野球は1人でも勝てる」との金言を放った(そうコメントしてはないという説もあります)ことがありましたが、そのようなパフォーマンスを演じて欲しい、というものでした。

いずれにせよ、大谷翔平はこの2年間でその凄まじいまでの潜在能力を見せてくれましたが、それをフルに発揮するには至っていません。何せ、二刀流期間は実質2ケ月のみなのですから。そして、その理由は故障の多さです。投手に復帰する2020年は、二刀流の継続を左右する大事なシーズンになることは間違いありません。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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