Yahoo!ニュース

なぜ霜降り・チョコプラ・かまいたちは100万人登録を達成?TVとYouTubeハイブリッド芸人の秘密

谷田彰吾放送作家
チョコプラの代表作『悪い顔選手権』(YouTubeより)

 芸能人が本格的にYouTubeに参入して、約1年が過ぎた。コロナ禍で加速したこの流れは、あっという間にスタンダードとなり、私たちの生活の一部となった。

 YouTubeでの成功の指標とされているのが、チャンネル登録者数100万人。この数字を超えると「一流YouTuber」と称される。最近では、100万人を突破する芸能人が増えた。本田翼や佐藤健といった人気俳優はあっという間に達成した。

 そんな中、バラエティ系の100万人達成者の顔ぶれに異変が起きた。霜降り明星、チョコレートプラネット、かまいたち。最近達成したこの3組は、これまでの潮流を”逆流”する稀有な存在なのだ。その成功の秘密を詳しく考察していこう。

 まずは下記を見てほしい。チャンネル登録者数100万人を超えたバラエティ系タレントのランキングだ。(数字はすべて4月22日現在)

1位:中田敦彦 377万人

2位:メンタリストDaiGo 236万人

3位:江頭2:50 233万人

4位:カジサック 221万人

5位:手越祐也 170万人

6位:石橋貴明 159万人

7位:宮迫博之 140万人

8位:霜降り明星 130万人

9位:チョコレートプラネット 117万人

10位:ジャルジャル 115万人

 さすがは100万人。人気も知名度も申し分ないメンバーだが、霜降りとチョコプラ以外のタレントには大きな共通点がある。普段、ほとんどテレビに出演していないのだ。

 中田敦彦やDaiGo、カジサックらは自らテレビに出なくなった組。江頭はコンプラの波に押されて出られなくなった。かつてはテレビの王者だった石橋貴明も、今はなんとレギュラー番組ゼロ。手越祐也と宮迫博之は以前の所属事務所といろいろあってテレビには出られない。ジャルジャルは出ないというわけではないが、ネタ番組で見かける程度。つまり、YouTubeで成功を手にしたタレントは、今やテレビ番組で見ることのできないメンバーなのだ。

 これは偶然ではないだろう。テレビに出ていないタレントはYouTubeでしか見られないため、希少性がありチャンネルが伸びやすい。実は、トップ10以下も同じで、草彅剛・なかやまきんに君・ヒロシといった面々が並ぶ。いずれもなんらかの理由でテレビからYouTubeへと軸足を移し、本気で動画に取り組んできたからこそ100万人を突破している。勘違いされがちだが、登録は「応援」とほぼ同義語だ。その人そのものをサポートしたいと思われないと登録されない。テレビという後ろ盾なく戦うタレントたちは、アンチテレビな人も多いYouTubeの視聴者層に刺さりやすい。

 「テレビに出ない方がYouTubeは伸びる」というのが、これまでの定説だった。しかし、それをぶち壊したのが霜降り・チョコプラ・かまいたちの「ハイブリッド芸人」たちだ。

 この3組はテレビで見ない日はないと言ってもいいほど出演している。霜降りはゴールデンタイムでもMCクラスにのし上がり、かまいたちも冠番組がスタートしている。チョコプラはネタ番組だけでなく、『ヒルナンデス』のような主婦層が見る番組でも活躍。次世代のMCの座を狙える、今最も旬な芸人たちと言えるだろう。

 にもかかわらず彼らはYouTubeでも100万人を突破した。あれだけテレビに出ながらYouTubeの撮影もするのは体力的にも精神的にもしんどい。そもそも出演コンテンツがあふれ返って飽きられるというリスクもある。それでも見事に両立し、結果を出した。その秘密はいったい何なのか?

 霜降りのチャンネルの凄さは、デジタルネイティブ世代らしい感性にある。二人はともに28歳、ネットやSNSが当たり前で生きてきた。『髪質終わってる粗品おすすめジェルBEST3紹介』『牛丼並盛40秒早食いに挑戦』など、身近なものをよくネタにする。いい意味で目線を下げたYouTubeらしい企画だ。テレビ番組を題材にするのも霜降りの特徴で、『懐かしの爆笑レッドカーペットクイズ』などは、同世代の視聴者と共有できる絶妙なラインの懐かしさだ。また、同世代の大好物であるゲーム実況やアニメを語る動画などもよく出す。この辺が感性だなと感じる。

 かまいたちのチャンネルは、いい意味で芸人魂を捨てているのが凄い。こんなことを書くと怒られてしまいそうだが、YouTubeでの戦い方に特化している印象だ。その意図を感じたのが、『かまいたち山内・濱家がミスドBEST5を発表』という動画だ。タイトルの通り、ミスタードーナツの好きなドーナツを24分間ひたすら語るだけ。もちろんトーク中に笑いはあるものの、企画そのものは芸人らしさのかけらもない平凡なものだ。しかし、この動画は148万再生。YouTubeでは、視聴者が共感できて自分の意見も言えるような企画がよく当たる。以前、山内が『ゴッドタン』で「YouTubeにエゴはいらない」というような発言をしていた。尖るよりも結果を出すという”こだわり”が気持ちいい。

 チョコプラは、親近感が強い上記2組とは方向性が大きく違う。ゲーム性のあるオリジナル企画が持ち味だ。事件の容疑者のような表情をする『悪い顔選手権』は、驚異の684万再生。チャンネルの代表作となった。ガチガチに練り込んだネタ動画ではなく、ゲームにしているところがYouTubeにアジャストしていると言える。YouTuberや一般人がマネできるレベルに落とし込んだ方が、ブームになりやすいからだ。「笑えなきゃ芸人がやる意味ないだろ」と言わんばかりの尖りっぷりは、ぜひ一度見てもらいたい。

 この3組はYouTubeの視聴者にも受け入れられた。先ほどの「応援」の理屈で言えば、彼らに応援は必要ない。テレビが後押ししてくれるからだ。それでも100万登録を達成できたのは、YouTubeをナメることなく、本気で適応したからに他ならない。

 テレビにたくさん出演しながら、YouTubeでも100万人を突破した「ハイブリッド芸人」。どちらかを専業にするのではなく、マルチメディアで活躍するのが、これからの芸人のロールモデルになるだろう。テレビもYouTubeも盛り上げる彼らの活躍に期待が集まる。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

谷田彰吾の最近の記事