「HUNTER×HUNTER」作者・冨樫義博氏のツイッターが大人気 休載を逆手にファンサービス
人気マンガ「HUNTER×HUNTER(ハンターハンター)」の作者として知られる冨樫義博さんのツイッター。フォロワー数が15日、300万を突破しました。アカウント開設からわずか3カ月足らず。ツイート自体もさることながら、ツイートを受けて頻繁にメディアで記事化されるなど、プロモーションの視点から見れば、大成功を収めています。
「HUNTER×HUNTER」は、未知のものを探して世界に貢献する冒険者「ハンター」を目指す少年・ゴンが、仲間と共にさまざまな冒険を繰り広げるという物語です。ハンターは常人離れした能力を駆使し、少年漫画の王道・バトルに加え、緻密(ちみつ)な世界設定、頭脳戦などが展開されます。
作品の密度が圧倒的で、先の読めない展開ゆえに高い人気を誇るわけですが、休載が多いことでも知られています。2018年から休載中で、その最中でのツイッター開設だけにファンがざわついたのです。
◇TWICEや三代目JSB抜く
冨樫さんのツイッターは5月24日に初めてツイートがされるや150万の「いいね」が付くなどして話題に。さまざまなメディアでも取り上げられ、マンガ家や「週刊少年ジャンプ」を発行する集英社も「本物」と発表。フォロワー数は1日後の同月25日に100万。翌日の26日に200万を突破しました。
フォロワー数300万といえば、日本でもトップ30あたりに位置します。ガールズグループ「TWICE」や人気ダンス・ボーカルグループ「三代目 J SOUL BROTHERS」を抜きました。ソフトバンクグループ株式会社の孫正義・会長兼社長や首相官邸(災害・危機管理情報)も追い越しそうな勢いです。
ツイッターのフォロワー数上位には、知名度抜群の芸能人やタレント、アーティストが目立ちます。続いて有名企業・ブランド、情報を発信するメディア、官公庁でしょうか。マンガ家では現在、冨樫さんがトップで、それだけに存在が際立ちます。
◇練られたツイッターの使い方
冨樫さんのツイッターの特徴の一つは、フォローの数が現時点(8月19日)でゼロであること。女優の吉高由里子さん(339万フォロワー、フォロー0)のような例はありますが、珍しいのは間違いありません。
もう一つは、だいたい1日1ツイートのペースで更新していること。そして「主に原稿の進捗状況をお伝えしていきます」とある通り、自身の体調を含めて執筆状況などを報告しています。なおツイッターにアップしている写真は何の作品か明言していませんが、長期休載が続く「HUNTER×HUNTER」であるとみられています。
ツイッターについて、300万のフォロワーを獲得し、メディアが頻繁に記事にしていることを考えると、プロモーション的には大成功と言えるでしょう。一方で「ツイッターをする目的が現時点では不明すぎる。ネームの一部を見せるだけで、いつ読めるかも分からない。ヒマつぶし的な感じでは?」という声も関係者からありました。
ただ、冨樫さんのツイッターを見て、三つの観点から、使い方(戦略)が練られていると感じます。
まず情報発信によって、休載中の「HUNTER×HUNTER」の状況、冨樫さんの体調が多くの人に伝わることでしょう。そして「HUNTER×HUNTER」の長期休載に関連してネットでよく見るネットのワードに「冨樫仕事しろ」というものがあります。「休載しないでHUNTER×HUNTERの続きを早く描いて」という意味です。このワードも裏返せば、連載再開を心待ちにしているファンの切実な“想い”といえますが、作者へのリスペクト(尊敬)は感じづらいところです。
しかし情報がないと、人は勝手に想像を働かせ、休載に対して批判的になるものです。そこに今回のような情報を発信することで、休載の不満は緩和されるでしょう。むしろ「無理をしないで」となるはずです。
二つ目は、冨樫さんが自由に発信できる強力な「宣伝ツール」を手に入れたことです。しかも、冨樫さんや「HUNTER×HUNTER」に興味を持つ集団の集まりで、広告宣伝的な視点から見ると、高い価値があります。強力なツールをどう使うかは当人の自由ですが、“武器”が手元にあるというのは、それだけで選択肢を増やします。
三つ目は、ファンの多さが可視化できることです。マンガ家は自分との戦いで孤独になりやすく、ファンの姿が往々にして見えなくなり、執筆のモチベーションの維持が大変……ということを編集者や出版関係者に聞かされたことがあります。これだけのファンがいて、そのデータを示せるのは、歓迎すべきことには間違いありません。
◇長期休載ゆえの枯渇感逆手に
現状では判断できる材料が少ないのも確かですが、何かを試しているように見えるのです。マンガ家のツイッターでは、作品の一部を公開して、本編の購入や宣伝につなげる手法が確立しています。しかし冨樫さんの場合は、作品を仕上げる前のネームの段階で、ルーチンでチラ見せするものですが、それがファンサービスになっているのが驚異的と言えます。
仮に毎週連載を続けている作品であれば、ここまでの枯渇感や反響があったかと言えばノーではないでしょうか。つまり長期休載を逆手に取っているとも言えます。
さらにメディアがツイッターを見て、記事を次々と書く流れになっています。結果として「HUNTER×HUNTER」のプロモーション効果は、普通のツイッター以上の効果があるのも見逃せません。露出アップに苦労している他のコンテンツからすれば、うらやましい限りではないでしょうか。
「HUNTER×HUNTER」は、先の見えない頭脳戦が魅力の作品です。作品と同様に、ツイッターの使い方も頭脳的で、自身のブランド力、何が求められているかを踏まえているように見えます。本編再開時にどんな反応があるかも含めて、注目したいところです。