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内田正人前監督は大学スポーツ界からの永久追放に値しないだろうか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
全米中を騒がせる不祥事でルイビル大から追放された殿堂入りHCのリック・ピティノ氏(写真:ロイター/アフロ)

 遂に日大アメフト部問題は、悪質タックルを行った宮川泰介選手自身が謝罪および説明会見を開く事態にまで発展した。本来なら選手は守られるべき立場のはずだが、被害者側から宮川選手に対し警察に被害届が提出されてしまった以上、自らが口を開き説明に立たざるを得なくなってしまったのだろう。こうした状態にまで追い込んでしまった大学および指導者たちの罪は果てしなく重い。

 会見上で宮川選手の口から、今回の悪質タックルは複数メディアがすでに報じていたように、内田正人前監督の指示だったことが明らかにされた。これで関西学院大に提出された日大の回答書と完全に食い違うことになってしまった。まずは日大が再度提出予定の文書の内容を確認した上で、完全なかたちでの真相究明を待つしかない。

 その中で内田前監督の指示があった事実が最終的に確認されることになったとしたならば、引責辞任だけで済まされる問題ではなくなるはずだ。その指示が魔が差したもので今回だけだったとしても、アメフトはもとよりスポーツの根幹を完全否定する行為は決して許されるものではないし、結果的に世代別日本代表に選出されるような有望な所属選手の未来までをも潰してしまった。大学スポーツ界としても厳重な罰則を科さなければならない事案だろう。

 もし仮に米国で同様の問題が起こったとしたならば、とんでもない罰則が待ち受けている。米国には大学スポーツを統轄する組織『NCAA』が存在し、あらゆる競技が円滑、公正に運営されるように様々な規則を制定している。そして規則に違反する行為があった場合は担当委員会が徹底的な調査を行い、当該大学やチームに対し罰則を科すシステムが構築されている。

 そしてあまりに重大な規則違反が発覚した場合には、NCAAが定めている最も重い罰則として『Death Penalty(デス・ペナルティ)』がある。これまでNCAA創設以来この罰則が科されたケースは過去に5回しかなく、当該チームは最低でも1シーズンは完全な活動休止にまで追い込まれてしまうのだ。

 さらにデス・ペナルティではないまでも、厳しい罰則が科せられるケースは決して少なくない。例えば2012年のテキサス・サザン大は、2005~12年の7年間にわたり13の競技で規則違反を行っていたことが判明した。その結果NCAAは重い裁定を決め、男子バスケ部は2013年シーズン、アメフト日は2013&14年シーズンのポストシーズン出場を禁止され、さらに2006~10年に同大のすべての競技が記録した勝利、2010~11年にアメフト部、女子サッカー部が記録したすべての勝利が無効にされている。

 また昨年は大学バスケ界では重鎮的存在だった、すでに殿堂入りも果たしているルイビル大のリック・ピティノHCが、大学側から資金を払い所属選手に性交渉させる女性を斡旋してたことが発覚したことで渦中の人となり、即座に大学から職を解かれ追放されている。大学自体もNCAAから4年間の罰則が下され、2013年の全米大学王座と同チームが記録した123勝が無効にされている。

 本来なら今回の問題も、NCAAのような管轄組織が徹底的な調査を行い、内田前監督指導下で同様の事例が他にもあったかどうかを確認すべきところだ(そうした組織が日本に存在しないことが、この問題を混迷化させている原因にもなっている)。そして一度でも同様の事例が確認されたのなら、昨シーズンの大学王座はおろか、内田前監督が指導していた時期の成績はすべて無効になってもおかしくないだろう。いずれにせよ今回の問題だけでも、アメフト部に対し何らかの罰則(例えば今シーズンのリーグ戦は参加のみで成績対象外チームにするとか、向こう数年間のスポーツ推薦学生の入部を禁止するなど)が科せられるべきだ。

 ただそれはあくまで日大アメフト部としての罰則であり、内田前監督に対するものではない。彼が行った行為が事実認定されたのなら、繰り返しになるがそれはアメフトならびにスポーツの存続を根本から揺るがすものだ。かつて監督として自らが指揮する試合を野球賭博の対象にしてしまったピート・ローズ氏は1989年にMLBから永久追放処分され、今もその処分は解かれてはいない。内田前監督の行為はローズ氏同様に、大学アメフトの信用を失墜させるものに他ならない。やはり大学とは別に内田前監督に対する処分も必要になってくるのではないだろうか。

 日大をはじめ当該団体、組織の毅然とした対応が求められるところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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