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サッカー深夜観戦による睡眠不足を乗り切るコツ

西多昌規早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医
shutterstockより

深夜でもリアルタイムでみたいワールドカップ

 サッカー日本代表が、ドイツとスペインに対して劇的な勝利をおさめ、決勝トーナメント進出を決めた。歴史的勝利をおさめたスペイン戦は日本時間午前4時キックオフだったため、ライブでみるか、録画するか、朝起きてから結果をみるか、悩んだ人も多かっただろう。

 サッカーファンであれば、できればライブでプレーをみて、勝利の瞬間をリアルタイムで経験したいだろう。結果を知ってから録画をみる、結果だけをニュースでみるのは、やはり盛り上がりを欠き寂しい。

 これから始まる決勝トーナメントの試合は、午前0時ないし午前4時開始の2パターンで開催される。どちらも深夜であり、睡眠不足対策に悩みそうだ。明け方の試合をみても、スッキリした頭で仕事ができる方法が果たしてあるのか、考えてみたい。

午前4時キックオフの場合

 観戦前に3,4時間でも、睡眠をとっておいたほうがいい。深いノンレム睡眠は、睡眠の前半に多く出現する。ノンレム睡眠とレム睡眠とのセットをコア睡眠と呼ぶが、寝ついてから3,4時間が、もっとも質の良いコア睡眠を得られる時間帯である[1]。観戦前に3,4時間程度コア睡眠を確保しておけば、翌日の仮眠や居眠りでどうにかしのぐことができる。

 夜ではなく、前日の日中に仮眠をとっておくのもよい。アスリートの海外遠征やシフトワークなど、来るべき睡眠不足への準備として、あらかじめ少し長めに寝ておく、仮眠をとるといった「睡眠貯金」という対処法がある [2]。

 昼も夜もまったく寝ないで午前4時からの試合観戦は、次の日午前から仕事であればかなり厳しい。午前中はホルモンなど体内リズムも覚醒に向かうので覚醒していられるかもしれないが、午後からは眠気やだるさが強くなってつらくなる。仮眠や有休など、スケジュールをゆるめるよう検討したほうがいいだろう。

 昼夜逆転・夜更かしが固定していて、午前4時前の睡眠が難しい人は、後述するように夜型で固定してしまってもよい。もっとも、午前中に覚醒して仕事をする必要がない、フレキシブルな働き方の人に限るのだろうが。

午前0時キックオフの場合

 午前0時〜試合終了の午前2時前後まで夜更かしして観戦したあとに、睡眠を取る人が大多数だと思う。10歳後半〜30歳代は、体内リズムは夜型傾向の割合が多いので、このパターンでも試合中に寝てしまうことは、高齢者に比べれば少ない。

 試合終了後は、勝っても負けてもテンションが上がっているので、部屋を少し暗くして好きな音楽を聴く、ノンカフェインの好みのものを飲むなど、クールダウンの時間を10〜15分ほどとったほうがいいだろう。

 40〜50歳以上になると、体内リズムが前進し、夜更かしがだんだんつらくなる。午前0時開始の場合は寝るのが午前3時ごろになるので、昼に仮眠をとっておいたほうが、観戦時の眠気を軽減するのには役立つ。若い人でも、部活動などで朝早くから活動して夜早めに寝る人は、仮眠をとったほうがいい。

 問題となるのは朝の寝起きだが、夜更かししたうえで、朝スッキリ起きる魔法のような方法はない。寝坊しないように、アラームは手の届かない場所に置く、カーテンを開けておく、家族に起こしてもらうよう頼んでおくなど、古典的な手段しかない。

試合後〜出勤前に眠っていい場合とNGの場合

 アスリートの不眠の原因として、試合前の緊張だけでなく、試合終了後の興奮・高揚感も少なくない。観戦するファンも同じで、一般的に試合の後は、精神的に興奮・高揚していることが多く、すんなり寝つくことが難しい。

 午前0時キックオフ、午前2時前後終了であれば、試合後の興奮からのクールダウン時間も少しは取れるので、出勤前までに短い睡眠をとることは可能だろう。しかし、午前4時キックオフ、午前6時頃終了であれば、そのまま起きていた方がいい。学校や仕事のために起きなければならないプレッシャーや試合後の興奮、体内時計が覚醒に向かうこともあり、そんなタイミングで入眠するのは厳しいだろう。

 午前0時キックオフの試合も、延長戦やPKなどで試合時間が大幅に伸びた場合は、午前4時キックオフの場合に準じる。

日本代表の試合だけ観戦したい人

 日本代表の試合は毎日あるわけではないので、基本的には次の日をなんとかしのげばよいと考えよう。翌日に過密な予定を入れない、仮眠をとる、ないし夜早く寝ることができるように、できる範囲で調整しておく。

 注意するのは、なるべく起きる時間は一定にしておくことである。通学・通勤がある人は、朝は起きなければならないので、リズムは強制的に保たれる。しかし、ある日は朝起きて、ある日は昼過ぎまで寝てという生活リズムの乱れは、ワールドカップが限られた期間とはいえ、自身のパフォーマンスの低下や心身の不調の引き金になりうる。

 フリーランスやリモートワーク、翌日が休日の場合は、このリズムの乱れに要注意である。2〜3時間程度の寝坊は許容範囲としても、3時間以上も寝過ごしてしまえば、体内リズムが狂い始める可能性がある。

毎日深夜に起きて観戦したい人

 12月5日月曜 24:00 (=6日火曜 0:00)から、日本代表の決勝トーナメント戦(日本対クロアチア)が始まる。日本代表の試合だけでなく、強豪の決勝トーナメントのガチンコ勝負を毎晩楽しみたい人もいるだろう。

 とはいえ、毎晩深夜に試合をリアルタイムでみて、デイタイムの仕事をちゃんとするというのは、無理な話だ。リアルタイムでみる試合と、後でみる試合とを分けて、睡眠を取る日を設けるなど、スケジュールをたてたほうがいいだろう。

 先述した、フリーランスやリモートワークの人で、朝必ずしも一定時刻に起きる必要がない人は、ワールドカップ期間中は、朝就寝、午後起床など、生活リズムを遅めに固定してしまった方がいい。好きな時間に寝て好きな時間に起きていると、体内リズムが狂ってしまい、深夜に寝てしまって肝心な試合をみ過ごしてしまうかもしれない。

ポジティブに観戦することが重要

 結論を言うと、深夜や未明の試合をリアルタイムでみて、スッキリした頭で次の日のパフォーマンスを保つ良い方法はない。乗り物の運転業務や医療看護など、睡眠不足が安全や生命に影響を与えるような仕事の人は、やはり睡眠確保を優先して、録画や後追い再生などで楽しむべきだろう。

 ワールドカップは、12月18日で終了する。4年に一度の、ファンにとってはトップレベルの選手が自分と国の威信を賭けて戦う貴重なイベントである。睡眠衛生に気をつけすぎてしまうと、かえって幸福感、充実感が下がってしまうかもしれない。

 睡眠の専門家は、睡眠不足の危険性を立場上は強調するが、このときぐらいは、

 「寝不足でもワールドカップを楽しむ」

 「ワールドカップが終わったら、たっぷり寝る」

などポジティブな考え方のほうが、心理的な幸福度が高まると思う。

[1] Horne J. Why We Sleep. Oxford University Press, Oxford1989

[2] Axelsson J, Vyazovskiy VV. Banking Sleep and Biological Sleep Need. Sleep. 2015 Dec 1;38(12):1843-5.

早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医

早稲田大学スポーツ科学学術院・教授 早稲田大学睡眠研究所・所長。東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会総合専門医など。専門は睡眠、アスリートのメンタルケア、睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に、「休む技術2」(大和書房)、「眠っている間に人の体で何が起こっているのか」(草思社)など。

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精神科医の西多昌規(にしだ まさき)です。メディアなどで話題となっている、あるいは世間の関心を集めている事件や出来事を、精神医学やメンタルヘルスから読み解き、独自の視点をもとに考察していきます。医療・健康問題だけでなく、政治経済や社会文化、芸能スポーツなども、取り上げていきます。*個人的な診察希望や医療相談は、受け付けておりません。

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