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通常国会閉幕 気になる衆院選は実際のところ「いつ」なのか、5つのシナリオ

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
通常国会は150日の会期を経て、6月16日に閉幕する(写真:つのだよしお/アフロ)

 2021年通常国会の閉幕日を迎えました。菅内閣にとって初の通常国会であり、またコロナ禍にはじまりワクチン接種の希望が見える中での閉幕という、まさにコロナづくめだった通常国会ではありました。既に衆院議員の任期は3年6ヶ月を超過しており、どれだけ遅くとも今秋には衆議院議員選挙が行われます。

 これまでも何度か「衆院選の時期、シナリオ」について解説をしてきました。コロナ禍であることから、基本的には任期満了近くになるというスタンスについては今も変わりがありませんが、これだけ残り日数が少なくなってくると、現実問題として日程はかなり絞られます。この稿が、衆院選日程シナリオの最後の原稿になることを願って、最終的なシナリオを書いていきたいと思います。

シナリオ考察の前に基本的な考え方

 シナリオを考える前に、日程シナリオを検討する際に考えなければならない二大要素について解説をしたいと思います。

①自民党総裁選

自民党総裁選に向かう菅氏
自民党総裁選に向かう菅氏写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 第一に、自民党総裁選です。菅義偉総裁の自民党総裁としての任期は、安倍晋三前総裁の任期を引き継ぐ形だったため、今年の9月30日までとなっています。自民党には総裁選を行う規程がありますから、本来であれば9月7日には自民党総裁選が公示され、9月30日までには(通常、20日には)総裁選の投開票が行われます。今回は、総裁の辞職といった事由ではないことから、党員票もきちんとカウントする正式な形で行われるのではないのでしょうか。

 総裁選には菅義偉総裁の出馬は確実視されています。また、前回総裁選にも出馬した岸田文雄氏、石破茂氏両名の出馬も目されています。ただし、岸田氏については前回総裁選で当初の想定以上に票が伸び悩んだこと、石破氏については石破派が(石破氏が会長を辞任し、一部メンバーが脱退するなど)弱体化していることから、出馬を見送る可能性もあります。

 国民の関心が高いのは河野太郎氏ではないのでしょうか。ワクチン担当大臣として活動し、麻生派のプリンスとも呼ばれる河野氏に対する期待は世論調査などでも高いのは事実です。党員投票は河野氏が1位を取る可能性がある一方、麻生派がそもそも今回菅氏支援から独自擁立にスイッチできるのか、できたとして(旧)山東派グループを含め一枚岩になりきれるのかも課題だと言われています。このほか、野田聖子氏、西村康稔氏、加藤勝信氏などの噂も上がっていますが、それぞれ推薦人20人確保の問題などがあり、見通しが立っているとは言えません。

②コロナワクチン接種普及

コロナワクチンは職域接種なども進む
コロナワクチンは職域接種なども進む写真:ロイター/アフロ

第二に、コロナワクチン接種普及です。筆者はこれまで何度となく、コロナワクチン接種の見通しがたたない限り、菅政権は解散総選挙を選ばないだろうと言ってきました。現実問題として、菅義偉氏は(実際の評価は別として)「仕事人・実務者」気質であり、選挙を好まないタイプだと考えています。安倍前総理の辞職に伴う事実上の緊急登板からわずか1年、総務族としてのキャリアを活かしたデジタル庁創設や携帯電話料金引き下げなど、いくつかのプロジェクトは形になってきましたが、それでも自らの政策実現を十分に達したとは考えていないでしょう。その中でコロナワクチン接種は大きなプロジェクトとして、首相会見でも「1日100万回の接種」「高齢者接種を7月末までに完了」「希望する国民への接種を10〜11月接種完了」と相次いで発表するなど、相当なプレッシャーをかけてコミットしていることから、こだわりが感じられます。

 ただ、この「コロナワクチン接種普及」は、上手くいってもいかなくても、総裁選で菅氏が有利に運ぶ構図となっていることに気づいている人は少ないでしょう。ワクチン担当大臣に河野氏を抜擢したのは、まさに「ワクチン普及がうまくいけば菅政権の評価につながり、ワクチン接種が上手くいかなければ河野担当大臣の責任」という形にもっていくため、要はどっちに転んでも菅氏が総裁選で有利になるという形です。もちろん、それだけが理由でなく、合理性を重んじ、国民の人気も(少なくとも比較論としては)高く、デジタルなどの知見も高い河野氏でなければ、この国家的プロジェクトを成し遂げることはできなかったのでは、と見る向きもあります。

 コロナワクチン接種の状況は、概ね順調とはいえ、まだ不透明な部分もゼロではないでしょう。高齢者から職域、持病をお持ちの方、そして一般と広がるにあたって、オペレーションに混乱が発生しないのかといった課題もありますし、「接種を希望する」という枕詞にあるように、そもそも接種数がどの程度いくのか、という疑問もあります。集団免疫獲得のための必要接種数や変異株といったことは医療従事者ではない筆者がここで触れることは控えますが、いずれにせよコロナやワクチン接種については、秋にかけても不確定要素があることは事実です。

 菅総理は6月2日のぶら下がり記者会見で衆院解散総選挙について問われ、「まず、この新型コロナ対策、ここを安全・安心のために、ワクチン接種を始め、必要なことを全力を挙げて取り組んでいく、これが今の私の最大の仕事だと、こういうふうに思っています。」と言っています。筆者はこれだけの言葉で説明した以上、「コロナ対策の完了、もしくは相当の目処」が立ったと言い切れない限り、(特に菅氏の性格上は)解散はできないと考えています。コロナ感染状況やワクチン接種状況が中途半端な状況では難しく、現実問題として感染拡大が押さえ込めており、ワクチン接種目標が当初計画通りまたはそれ以上のスピードで進むことが確実となった場合に「伝家の宝刀」の鞘を抜くことが出来ると考えています。

総選挙日程シナリオについての考察

 さて、前置きが本当に長くなってしまいましたが、上記2点を踏まえた上での総選挙日程について考えていきます。シナリオは全部で5つです。

シナリオA  9月7日解散、9月21日公示〜10月3日投開票

シナリオAの日程、筆者作成
シナリオAの日程、筆者作成

 自民党総裁選は、前述のようにいわゆる「本戦」となることから、菅総理にとっては「実績」の欲しいところです。内閣支持率が低調に推移している現状を考えれば、現状のままなにもせずに自民党総裁選を迎えることは、必ずしも「第二次菅政権」に繋がるとは考えづらく、「菅下ろし」に対する懸念は官邸も持っているはずです。

 「第二次菅政権」実現のために党内求心力を高めるのであれば、やはり総理の専権事項である解散総選挙を総裁選よりも先に行うことが必要です。党の顔として衆院選を戦い、その戦いに勝利すれば、「勝ったのに党の顔を変える必要はない」となり、総裁選は無風、もしくは無投票で終わる可能性もあるからです。自民党総裁選は長い歴史の中で「話し合い」で決着をつけるケースも多く、必ずしも競争原理を働かせる場ではありません。党内コンセンサスさえ取れれば、菅総理続投にも繋がるこのシナリオは、現時点で一番可能性が高いシナリオとも言えます。

 日程としては、東京パラリンピック中に臨時国会召集の通知を出し、9月7日に召集、即解散をします。21日に公示をし、10月3日投開票という流れになります。

シナリオA’ 9月7日解散、9月28日公示〜10月10日投開票

シナリオA’の日程、カレンダーは筆者作成
シナリオA’の日程、カレンダーは筆者作成

 シナリオAは最も早い日程でした。十分に考えられる日程ではありますが、2つ懸念点があります。

 一つは、ワクチン接種の状況です。先述の通り、ワクチン接種を一大プロジェクトとして数字的コミットメントまでしている菅総理ですが、ワクチンの(希望する)国民の接種完了を10〜11月としています。9月はそのワクチン接種がまだ終わっていない時期でもあり、1週間遅らせてでも、ワクチン接種の体験をして安心感を持ってもらう国民を増やしたい、というのが政府与党の本音ではないでしょうか。

 もう一つは、選挙特有かもしれませんが六曜です。シナリオAの公示日(9月21日)、投開票日(10月3日)は両方とも仏滅です。選挙に関してはいまだに六曜を気にする人が多く、さすがに仏滅始まりで、仏滅終わりというのは...という声が聞こえてきそうなのもまた事実です。

 いずれにせよ、法律の要求するところは、衆議院を解散してから40日以内の選挙なので、このように選挙期間を1週間ずらすことも可能ではあるということです。(なお、補足として、さらにもう1週間ずらし、10月5日公示、10月17日投開票というのも可能です。このあたりは差し詰め解散直後のコロナワクチン接種状況を鑑みることになると思いますが、解散から選挙まで40日の日数を空けるケースは多くなく、(可能な限り選挙を遅くしたかった)麻生政権が下野することとなった総選挙のときぐらいです。そのため、補足説明にとどめシナリオA’’とはしません)

シナリオB 9月27日解散、10月12日公示〜10月24日投開票

シナリオBの日程、カレンダーは筆者作成
シナリオBの日程、カレンダーは筆者作成

 永田町で3月に出回った文書が話題になりました。「総選挙前に総裁選挙の実施を求める会」という謎の団体による、政治日程を書いた(見た目は党内の事務連絡通達文のような)ペーパーです。

 この怪文書には、総選挙前に総裁選挙が行える想定として、「9月7日総裁選告示」「20日総裁選投開票」「22日臨時国会で首相指名」「23日組閣」「27日衆院解散」「10月12日公示」「10月24日投開票」と書かれていました。また、総務省選挙部にわざわざ確認をしたという断り書きの上で、10月21日の衆院任期満了まで臨時国会を開会し、任期満了最終日に解散をした場合には、11月28日投開票が公職選挙法上最も遅い総選挙日程となると書かれていました。

 この日程であれば、(総裁選で菅総裁が再選であれば、の前提ですが)菅政権は所信表明演説を行い、(あくまで選挙管理内閣ではありますが、衆院選後にほぼ全ての大臣・副大臣・政務官が再任する前提の)新政権誕生による内閣支持率上昇ボーナスを経て、総選挙に向かうことができます。また、総裁選の実施から総選挙まで実に1ヶ月近く、テレビなどの政治報道の中心を自民党に据えることができることなども、強みと言えるでしょう。

 問題は、この日程を菅総理が「是」とするかどうかです。総裁選を先に行う、ということは、菅氏以外の総裁となる可能性があるわけです。(菅氏からみれば自身の座を追われるリスクでもある)このシナリオを積極的に取ることができるでしょうか。

シナリオC 任期満了選挙、11月2日公示〜11月14日投開票

シナリオCの日程、カレンダーは筆者作成
シナリオCの日程、カレンダーは筆者作成

 個人的に(シナリオAに次いで)可能性が高いのではないのか、と思っているのが、この任期満了選挙です。即ち、日本国憲法における解散行為を行わずに、任期満了を待つ選挙となります。現憲政下では、三木内閣の際の総選挙(1976年)以来となります。

 何より、筆者がこの可能性が高いと感じているのは、「解散行為」を伴わないという点です。ワクチン接種の状況にもよりますが、仮に(希望する)国民全員が接種を終えていない状況であれば、ワクチン接種よりも自らの解散権行使を優先したとの批判が必ず起きるでしょう。野党は一斉に「取り残された人」などといった表現を使って、解散権行使を批判する可能性もありますし、その「取り残された人」の当事者による反発も十分に考えられます。

 筆者は、繰り返しになりますが、菅総理は選挙に決して積極的ではない、むしろ消極的な人物だと捉えています。わずか1年余り、しかもコロナ禍で政策実現としての実績を積み重ねることはかなり難しかったと考えられ、自身の内閣のカラーを存分に発揮できたかというと、必ずしもそうではないでしょう。敢えて解散行為を行わないというパフォーマンスにより、国民ひとりひとりにワクチンを打つことを最優先にするという姿勢を打ち出し、コロナに打ち勝った証としての総選挙であれば、この日程がストーリー的にはあり得るのではないかと感じます。

シナリオD 10月21日解散、11月16日公示〜11月28日投開票

シナリオDの日程、カレンダーは筆者作成
シナリオDの日程、カレンダーは筆者作成

 最後に、公職選挙法上もっとも遅い日程についても考えておきたいと思います。この日程は、臨時国会を(衆議院議員の任期満了日である)10月21日まで行い、その日に解散をするというシナリオです。公職選挙法上もっとも遅い日程です。

 コロナワクチン接種の状況は順調と言われていますが、今後不測の事態が起きることも考えなくてはなりません。ワクチン接種が遅れ始めたり、あるいは再度の感染拡大といった事態があれば、菅総理の掲げた10〜11月の接種完了が遅れる事態もあり得ます。総理自らわざわざ会期を延長するなり最終日まで設定をした上で行う、作為的な日程でもあります。いわば、コロナ禍における最悪パターンを想定した、保険的なシナリオと言い換えることもできるでしょう。

 総裁選を行った後には、(首班指名のために)臨時国会を開くことになりますが、臨時国会は通常国会と異なり、延長は2回まで認められています。仮に万が一コロナの再感染拡大や、ワクチン接種にトラブルが発生した場合、緊急的な措置として会期延長を任期満了日まで行い、法律上可能な限り選挙を遅くした、という対応をすることができるということです。

 ここまで、5つのシナリオをみてきました。冒頭にも書いたように、どの日程となるかは、総裁選に対する菅総理の姿勢と、何よりコロナワクチンの接種状況(ならびに再感染拡大状況)にかかっていると言えるでしょう。いずれにせよあと数ヶ月で選挙となる中、低迷する内閣支持率を東京五輪などを利用して再浮上できるのか、また各候補者は選挙に向けてどのような動きを展開していくのか、しっかりと見ていきたいと思います。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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