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全米直後の大会でベスト4進出 錦織圭が見せた真の強さ

内田暁フリーランスライター

強い――。

まずはそれしか、言葉が思い浮かばなかった。

その強さとは、単に試合結果だけを指しているのではない。プレーの内容としては、本人が「出だしは硬かった」と言うように、第1セット第3ゲームで7本あったブレークポイントを取りきれなかった場面があった。第2セットでは、ブレークした直後の第3ゲームで40-15から追い上げられ、この試合初にして唯一のブレークポイントを握られもした。だが終わってみれば、6-3,6-0のスコア。1時間3分の快勝で、マレーシアオープンのベスト4に歩みを進めた。

「今日は、どちらかというと相手が悪かった。硬さもあったし……多少ラッキーでした。でも、今日のように勝つ試合も必要かと」。

試合後に、自分のプレーへの満足感は、ほとんど見せることはない。しかし同時に、サーブの好調さや勘所での集中力など、勝利の鍵を冷静に分析してもいく。その姿勢や口調にこそ、今の彼の強さが、何より強固に滲んでいた。

加えるなら、「相手が良くなかった」「荒さもあった」と錦織は言うものの、半ば投げたような相手のプレーを引き出したのは、錦織の隙の無さに他ならない。相手のマトセビッチはランキングこそ78位だが、今大会の初戦では第8シードのキリオスを破るなど、勢いに乗っていた選手。その相手に、勝利の可能性を感じさせなかったのだから、恐れ入る。

今となっては失礼な話だが、この大会、第1シードと言えど錦織に早期敗退の可能性もあるのではと思っていた。最大の理由は、全米オープンを終えた後、心身両面で脱力感に襲われているのではという危惧だった。しかも全米後の錦織は、様々なイベント出演や挨拶回りを兼ねた多忙な5日間を日本で過ごし、その直後には香港で宣伝活動をこなした上で、マレーシアでも連日サイン会や大会プロモーションを行ってきたのである。それもトッププレーヤーの宿命ではあるものの、人前に出て話したり挨拶をすることは、テニスとは異なる気疲れを強いるだろう。実際に、グランドスラムで活躍した選手がその直後の大会で早期敗退する例は、枚挙に暇がない。

実は錦織本人も、今回の大会に挑むにあたり、その「気持ち」の部分が一番難しかったことを認めている。だからこそ、過去は過去として区切りをつけ、一度気持ちを「ゼロに戻した」上で、マレーシアオープンに挑むよう心がけた。その困難なハードルを彼は、今大会のベスト4進出で、まずは超えたのではないだろうか。

「気持ち的に、色々難しいだろうと思っていたんですが……」

そう言って見せる苦みの混じった照れ笑いと、「切り替えは出来ていると思います。今大会には上手く入れていると思いますね」とサラリと言い切る涼しげな表情。

それら2つの顔のギャップが、一層、逞しさを際立たせていた。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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