原油相場暴落、産油国はなぜ減産しないのか?
原油相場の急落が続いている。国際指標となるWTI原油先物相場は、6月13日の1バレル=107.68ドルをピークに、12月16日の取引では一時53.60ドルまで、既に50%を超える下落率を記録している。これは2009年5月1日以来となる、実に5年7ヶ月ぶりの安値である。ブレント原油先物相場もついに60ドルの節目を割り込んでおり、原油価格はどこまで値下がりすれば下げ止まるのか、大きな不安が広がっている。
一般的には、原油価格の下落は世界経済に対してポジティブ要因になる。しかし、余りに急激な原油安は産油国経済や石油関連企業の経営環境に及ぼす影響も大きく、12月に入ってからは原油安と連動して株価が急落する珍しい現象が発生し始めている。即ち、原油安が世界経済・金融市場に対するリスク要因になり始めているのだ。
ここで普通に疑問視されるのは、「産油国はなぜ生産調整に動かないのか?」になるだろう。供給過剰で原油相場が暴落しているのであれば、生産調整(=減産)に踏み切れば、原油相場の暴落には少なくとも一定の歯止めが掛かる可能性が高いためだ。原油相場の暴落にもっとも苦しんでいるのは間違いなく産油国であり、なぜこれ程の原油相場急落にもかかわらず、産油国が一向に市況対策を打ち出さないのか、疑問の声が上がっても不思議ではない。
■減産した方がOPECにとっては深刻
実際に、過去の原油相場急落局面では、主に石油輸出国機構(OPEC)が減産に踏み切ることで、原油価格の高値誘導に成功してきている。例えば、2008年のリーマン・ショック直後の原油相場暴落局面では、OPECは危機発生前の日量3,000万バレル水準からその後の半年間で2,500万バレル水準まで、累計で500万バレル規模の大規模減産に踏み切っている。
このため、今回もとりあえずは減産対応で原油安に歯止めを掛け、その後の原油相場安定を待って、産油水準を元の状態に戻すという選択肢もあったはずだ。しかし、現時点での原油需給見通しを前提にする限りは、そのような選択肢は事実上採用できない状況になっている。
具体的な数値で検証してみよう。
OPECの最新予想によると、2015年の世界石油需要は前年比+113万バレルの日量9,226万バレルが見込まれている。14年の+93万バレルからは需要拡大ペースが加速することで、需要サイドからは需給緩和状態を是正する動きが強まりやすくなる。
ただ、OPEC非加盟国の産油量は前年比+136万バレルの日量5,731万バレルとなっており、14年と同様に「OPEC非加盟国の増産量>世界石油需要の増大量」となる見通しである。これは、来年もOPECが減産しなければ原油需給は一段と緩和する可能性が高いことを意味し、仮に現時点でOPECが減産対応に踏み切ったとしても、追加減産を迫られるのは時間の問題となる。
減産対応が有効なのは、一時的な景気減速で需要が落ち込んだ時のみである。時間が経てば需要が回復するという前提がある場合にのみ、減産対応は有効である。
しかし、中国経済が従来のような二桁成長を実現する可能性がほぼゼロとなる中、世界石油需要の伸びは中長期にわたって鈍化せざるを得ない。その一方で、シェールオイルや深海油田などのOPEC以外からの産油量が膨らむ中、OPEC主導で原油需給バランスを均衡化させるには、シェールオイルの増産ペースが鈍化するまで、今後何年、何十年にもわたってOPECは減産対応を迫られることになる。
「減産対応で原油相場を反発させるメリット」と「今後も断続的に減産対応を迫られるリスク」を比較した上で、「減産見送りで原油相場を急落させ、シェールオイルなどの生産にブレーキを掛けてOPECの生産シェアを維持する方針」を選択した結果が、現在の原油相場急落の背景である。OPECとしては、減産を見送ったのではなく、見送らざるを得なかったというのが真相だと考えている。あとは、誰が減産の痛みを引き受けるのか、産油国間でチキンレースが繰り広げられるのみである。