すでに金正恩氏への「譲歩」を始めていた安倍首相
共同通信によれば、安倍晋三首相は米ニューヨークで26日(日本時間27日)に行うトランプ米大統領との会談で、北朝鮮の非核化に向け、米朝首脳再会談の実現に協力する意向を伝える方針を固めたという。
和気あいあいとした雰囲気のまま終わった南北首脳会談や、金正恩党委員長とトランプ氏がラブコールを交換する様を見て、ここは日本としてもこの流れに乗っておくべきと判断したのだろう。
国連決議から逃げるのか?
しかし「米朝首脳再会談の実現に協力する」と言っても、具体的どの部分でどのように協力するのだろうか。前回の米朝首脳会談にシンガポールが協力したように、日本国内のどこかを再会談の場所として提供するのだろうか。金正恩氏は母親が大阪出身で、幼いころにこっそり日本に来たことがあるとも言われているから、そのような提案はウェルカムかもしれない。
(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈)
しかし日本人拉致問題が進展していない以上、それはまだ不可能だろう。では、どうするのか。たぶん、「再会談に反対しない」「再会談にいろいろ注文を付けない」というのが、日本ができる最大の協力だ。または雰囲気づくりに協力するため、日朝関係改善にかなり前向きな金正恩氏あてのメッセージをトランプ氏に託す、という手もある。
実際、日本政府はすでに、そのようなメッセージを北朝鮮に投げ始めている。
6月14日、神戸朝鮮高級学校の生徒が修学旅行先の北朝鮮から持ち帰った土産品が、関西空港の税関で押収される出来事があった。北朝鮮に対する経済制裁を、厳格に履行したためと見られる。これに対し、学校側は抗議。北朝鮮メディアも、ブチ切れモードで日本政府を猛非難した。
(参考記事:「日本に無慈悲な報復」金正恩氏、お土産没収に激怒)
すると税関側は今月12日になって、押収品の大半を同校に返還したという。返還決定のプロセスがどのようなものであったかは詳らかでないが、北朝鮮との対話の糸口を探る安倍官邸の決断であった可能性が高い。
どうせ返すなら、お土産ぐらい、そのまま持ち帰らせてやれば良かったのではないかと筆者は思うのだが、結果的に、日本政府は北朝鮮に譲歩したような形となった。それでもまあ、これぐらいの譲歩なら構わない。しかし、これがどんどん重なるようなら問題だ。
国連総会と国連人権理事会では10年以上にわたり、北朝鮮の人権侵害に対する非難決議が採択されているが、その決議案の共同提出者は欧州連合(EU)と日本だ。国連総会での採択は毎年12月だが、果たして日本政府は今年も、決議案の提出に踏み切れるのか。
北朝鮮国内における人権侵害は、核兵器開発と並ぶ重大問題だ。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
しかし米国と韓国は、この問題への言及を露骨に避けている。金正恩氏が、人権侵害で非難されることを何よりも嫌っているためだ。日本はどうするのか。今まで提出していたものを、北朝鮮の人権状況が改善されてもいないのに急に止めたら、それは明らかな譲歩であり、外交戦での「敗北」である。
安倍首相はむしろ、この状況を逆手に取り、人権問題で金正恩氏を攻めまくるべきだ。そうすることで初めて、北朝鮮は日本との対話に真剣になるのではないか。