アップル失速は中国経済減衰のせいなのか?
日本の報道ではアップル失速を中国経済減速のせいにする傾向が強いが、中国でのスマホの売れ行きを見ると中国国産スマホが魅力的でiPhone離れが加速しただけだ。結果中国需要に頼った日本企業が影響を受ける。
◆春節前の中国国内におけるスマホの売れ行きランキング
中関村オンラインZOL(Zhong-guan-cun OnLine)が調査した今年1月27日データによれば、中国におけるスマホの人気ランキング(売れ筋ランキング)は以下のようになっている(華為はHuawei。ZOLの表現に従う。金額の単位は元。1元=16.27円)。
1.華為nova4(標準スペック) ¥3,099
2.vivoNEX(デュアルスクリーン)¥4,998
3. OPPO R17Pro(6GB RAM) ¥3,999
4. 一加(One Plus)6T(6GB RAM)¥3,399
5. 栄耀(Honor)V20(6GB RAM)¥2,999
6. Apple(iPhone XR) ¥5,699
7. 華為 Mate20 Pro(6GB RAM) ¥5,399
8. 華為 Mate 20 ¥3,999
9. Apple(iPhone XS Max) ¥9,599
10. Apple (iPhone XS) ¥8,699
全て、全網通という、中国の3大通信メガグループ( 中国電信・中国聯通・中国移動)に対応できる機種だ。Apple以外は何れも中国の企業である。
華為とvivo(ビボ)は1位と2位を争っており、ときどき両者の順位が逆転することがある。
それにしても、春節(2月5日)前までは、トップ10にAppleが3機種も入っているのは、なかなかのものだと言える。おそらく華為の創始者・任正非氏が、1月21日に、「華為のためにAppleを排除することはしないでくれ。華為のためでなく、国家のために行動してほしい」という声明を出していたことが影響しているのかもしれない。
ただ、Appleは、中国のスマホメーカーが次々と新しい機能を搭載しながら安価な機種を出しているのに対して、機能的には何も目新しいものがないまま、価格だけは高いので、トップ10の中でも後半の5位(6位以下)にしか入っていない。なんといってもトップは華為かvivoで、OPPOが2位か3位に就くなど、次に迫っている状況はあまり変わらない。
電池の容量が大きい割に重くはなく、1回の充電で140時間は使えるなど、多くの強みを持っている割に価格は9位や10位のAppleの半額前後だ。上位に来ているのも当然だろう。
◆春節後の中国国内における売れ筋ランキング
春節に入った後の売れ筋ランキングを、同じくZOLで見てみた。 なぜなら中国人は春節には1年で一番大奮発をして欲しいものを買うからだ。
1.vivo NEX(デュアルスクリーン)¥4,998
2. OPPO R17Pro(6GB RAM) ¥3,999
3. 華為nova4(標準スペック) ¥3,099
4. 栄耀(Honor)V20(6GB RAM)¥2,999
5. 一加(One Plus)6T(6GB RAM) ¥3,399
6. Apple(iPhone XS Max) ¥9,599
7. 華為 Mate20 Pro(6GB RAM) ¥5,399
8. 栄耀(Honor)8X(4GB RAM) ¥1,399
9. OPPO Find X(標準スペック) ¥4,999
10. 華為 Mate 20 ¥3,999
案の定、1,2,3位は互いに入れ替わりはあるものの、常に競争しているトップ3をそのまま続けている。大奮発したところで、トップ3社の内の一番高い価格のが1位に来て、次に高いのが2位、最も安い華為のnova4が3位という程度の違いだ。3社は甲乙つけがたい。
ハイスペックなCPU、高容量メモリ、高画質and/orポップアップ式カメラ、折り畳みアイディア(フォルダブル)、あるいはホールレス(防水機能を高める)など、中国メーカーは次々とこれまでにないモデルを生み出し、イノベーション競争を展開している。
このような中で、Appleはどうだろうか。
ただ「Apple」というブランド名のみに寄りかかって、イノベーションがない。
それでも一昔前までは「見栄」からAppleを買う者が多かった。成り金であればあるほどAppleをこれ見よがしに他人の目につくようなしぐさで使う。しかし最近ではそのような「田舎者」が少なくなって、本当に性能が良いものを購入するようになった。Appleを持っていることは決して「栄誉」なことではなくなったのだ。
しかし、それでもファンはまだいる。
だから春節前の3機種のAppleの内、春節に入った後にも残っているのは、むしろ一番高価な6位の「iPhone XS Max」であって、Appleの中で最も安い、春節前の6位であった「iPhone XR(¥5,699)」ではないのである。
これにより、Appleの値段が高いから買わなくなったわけではなく、高かろうが安かろうが、一部のAppleファンがわずかながらまだ残ってはいるというだけのことと見ていいだろう。
その一部以外は、性能がいいかどうかで決めていることが、これら一連のランキングで窺われる。
もし中国経済が減速したからAppleの売れ行きが悪くなったのなら、春節前の6位の「iPhone XR」が残るはずだが、そうはなってなく、最も高価なものがトップ10に1機種だけ残っている。
もちろん春節だから奮発したという側面は否めないが、しかし日本のメディアが何かにつけて「諸悪の原因は中国経済の減速にあり」と言いたがるのは、少し違うのではないだろうか。
中国経済の量的減速は確かだろうが、要は、Appleには魅力がなくなったのだ。
そして、最後に述べるように、中国に頼り過ぎる日本の貿易構造と産業構造そのものにも原因がある。
◆「理念設計はアメリカAppleで組み立ては中国、部品は日本」の無理
拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』の冒頭にも書いたように、中国の国家戦略「中国製造2025」は2012年秋の反日大暴動の教訓から生まれている。そのとき「中国製スマホ」の表面にはmade in Chinaと書いてあるが、中を開けてみるとキーパーツである半導体のほとんどはmade in Japanだったことから、反日暴動が反政府暴動へと転換していった。半導体も作れないような中国政府に「中華民族としてのプライドが傷つけられた」という性格のものだ。
その際、ネットに表れたのがApple のiPhoneの製造過程だった。
理念設計を担うアメリカAppleは販売価格の約80%を分捕り、構成部品の半導体を提供する日本が20%ほどを稼ぐ。その間隙を縫った、おこぼれの数パーセント弱を、組み立て工場の中国に落としていく。
この屈辱的な「組み立てプラットホーム」である国家に対する怒りが激しく燃え上がったものだ。
おまけに今は中国のハイテク製品に対してトランプ大統領が25%の高関税をかけているので、アメリカの消費者が更なる高額のiPhoneを購入することになる。そのため「理念設計がアメリカで、組み立てが中国」であるようなハイテク製品に対する高関税を15%くらいまで引き下げて特別「優遇」措置を講じたりしているようだが、効果は限定的。そこでトランプは「組み立てをアメリカで」とAppleのクックCEOに促しているが、クックは首を縦に振ってはいない。
インドという「組み立て」候補地も考えているようだが、なんと言ってもクックは習近平の母校である清華大学の経済管理学院顧問委員会のメンバーだ。習近平のお膝元にいる。習近平は華為との関係において、クックを操っている。
では、日本はどうなるのか。
iPhoneのキーパーツである半導体の多くを、中国のiPhone製造工場に輸出している日本としては、iPhoneの売れ行きが不振になると、その半導体も要らなくなるので日本の半導体業界に更なる不況風が吹くことになる。
だから諸悪の根源は「中国の経済減速」としておけば、一応、体裁が保てるという寸法なのだろうか。
◆春節のビデオメッセージを送った安倍首相
春節の前夜で、大晦日に相当する2月4日、安倍首相は中国語で冒頭挨拶をするというビデオメッセージを送った。
同時に東京タワーが初めて中国共産党の「紅(くれない)の色」に染まり、ライトアップされたのだ。
ああ、何ということだろう――!
なぜ、ここまでして中国に跪かなければならないのか――!
安倍首相は昨年、念願の国賓としての訪中を成し遂げ、習近平国家主席に「一帯一路における協力を強化する」と誓った。中国が一帯一路沿線国の内の発展途上国に代わって人工衛星を打ち上げてあげてGPSなどのメインテナンスも中国がしてあげるという形で実質的な宇宙支配を進めている中、その一帯一路に協力すると誓ったのだ。
そしてこの「紅」のライトアップと中国語祝賀挨拶を交えたビデオメッセージ。
いま習近平国家主席は放っておいても日本に秋波を送ってくる。
アメリカから半導体の中国への輸出を規制された習近平としては、日本に微笑みかける以外にないからだ。トランプが作ってくれた、滅多にないこのチャンスを、安倍首相はわざわざ潰して自ら中国にラブコールを続けるというのは、何ということか。
こういう時にこそ、毅然として、相手が頭を下げてくるのを待つべきなのに、そのチャンスを自らの手で潰してしまったのだ。
1月24日にコラム「日ロ交渉:日本の対ロ対中外交敗北(1992)はもう取り返せない」に書いたように、これは1992年以来の外交敗北以外の何ものでもない。
iPhoneの「風吹けば桶屋が儲かる」の逆パターンが日本の関連業界を直撃したのは、中国経済の減速が最大の原因ではなく、日本の貿易構造と産業構造への反省のなさではないのだろうか。