クラスター弾頭の滑空誘導爆弾「JSOW」をウクライナに供与を決定
9月26日、アメリカは合計79億ドル(1兆円超)のウクライナ軍事支援を発表、その中でパトリオット防空システムの追加供与やF-16戦闘機のパイロット養成拡大と共に、F-16戦闘機搭載用のJSOW滑空誘導爆弾の供与が明言されています。
長距離攻撃能力(long-range strike capabilities)とありますがこれは大雑把な表現で、実際の射程は既に供与済みの他の滑空誘導爆弾(JDAM-ERやSDB)と同様で、高度1万2000mからの高高度爆撃で最大射程130km(実用上は射程80km前後)、高度150mからのトス爆撃で射程22kmになります。敵の深奥部を打撃できるような長い射程ではなく、前線の敵防空システムの射程外から攻撃を行うスタンドオフ兵器です。
JSOW:Joint Standoff Weapon、統合スタンドオフ兵器
- AGM-154A:クラスター子弾×145個内蔵 ※生産終了
- AGM-154A-1:500ポンド通常爆弾内蔵 ※輸出仕様
- AGM-154B:対戦車クラスター弾頭型 ※キャンセル
- AGM-154C:BROACH二重貫通弾頭
- AGM-154C-1:C型に対艦攻撃能力を付与
- AGM-154ER:ジェットエンジン追加 ※キャンセル
ウクライナに供与されるのはクラスター弾頭型のA型になります。アメリカ軍はクラスター弾を全廃する方針ですが、念のために暫らく廃棄せず戦略備蓄に残していたものを供与します。JSOWの全備重量は1065ポンド(483kg)です。
AGM-154A JSOW(クラスター弾頭)
※BLU-97/Bクラスター子弾×145個を散布
JSOWの優位点はこの広範囲を面制圧できるクラスター弾にあります。ウクライナに既に供与済みの滑空誘導爆弾であるJDAM-ERやSDBにはクラスター弾頭の設定が無いので、JSOWの投入で新たな戦術の幅が広がります。ウクライナに渡せる欧米のクラスター弾頭型滑空誘導爆弾はJSOWのA型くらいしかありません。
ロシア軍は滑空させるのに不向きなドラム缶のような形状のRBKクラスター爆弾に空力を改善する風帽を付けた上でUMPK滑空誘導キットを装着して使用していますが、風帽を付けても空気抵抗がまだ大きいので射程はやや短く、危険を冒して接近しての投下を強いられています。関連記事
これに対してJSOWは空気抵抗の少ない細長い設計で、さらにステルス性にも考慮した角張った断面の形状です。滑空誘導爆弾の中では射程が長めになる上に、レーダーで探知され難く迎撃を突破しやすい利点があります。
ただしロシア軍のUMPK滑空誘導キットは構造が単純な故に適用できる爆弾の種類が多く量産性も高い機材です。一方でJSOWのクラスター弾頭型(A型)は再生産する予定が無くアメリカの在庫が無くなれば打ち止めです。
JSOW輸出仕様のA-1型はJDAM-ERに対して優位点があまり無く、BROACH二重貫通弾頭のC型は強固に防御された地上・地下の固定目標には有効性が高いのですが、平原に散開した目標への攻撃には向きません。
参考:AGM-154C JSOW(BROACH二重貫通弾頭)
※オーストラリア空軍F/A-18F戦闘機からC型JSOWの実弾試験