グランドチャンピオンシップで健闘した石川ミリオンスターズ(NLB) 全力プレーのナインには大きな収穫
■グランドチャンピオンシップ準々決勝
日本海リーグで優勝を決め、独立リーグ日本一決定戦であるグランドチャンピオンシップに参戦した石川ミリオンスターズ。
惜しくも敗れてしまったが、ミリスタナインの健闘が光った。シーズン同様、ベンチは明るく盛り上がり、出場のなかった選手も一丸となって戦った。
9月27日の対愛媛マンダリンパイレーツ(四国アイランドリーグplus)戦(準々決勝)に出場したおもな選手を紹介しよう。
(試合内容、および岡﨑太一監督の話はこちらの記事⇒「岡﨑太一監督、無念…。率いる石川ミリオンスターズは「グランドチャンピオンシップ」初戦に敗れる」)
■先発はリーグ3冠の香水晴貴
大一番の初戦の先発を任されたエース・香水晴貴投手は「なんとかチームが勝つように、自分ができることを出すだけだと思った。とにかく1球1球丁寧にという思いで、投げていました」と振り返った。
四回の2死満塁はしのいだが、制球が不安定になった六回の無死満塁は持ちこたえられなかった。
「序盤は丁寧にしっかり投げきれていた分、いつもより気が張っていたというか…。それが逆に力みにつながってしまったのかな。六回は四回のピンチより、体力的にも気持ち的にも自分をうまくコントロールできなくて、それが3失点(自責は2)につながったと思います」。
冷静に自己分析した。
シーズン中もピンチになればなるほどギアが上がり、力を絞り出してきた。
「ピンチでいかに点をやらないか、ランナーを背負ったときに1こギアを上げる。そういうところが僕のよさというか特徴。そこを監督は信頼してくれたと思うので、その期待に応えられなった僕の実力不足です」。
エースとして、敗戦の責任を背負い込んでいた。
しかし、やれるだけのことは精いっぱいやった。
「六回の満塁のピンチを招いたとき、片田(敬太郎コーチ)さんが来てくれて内野陣で集まって、『出しきろう』っていう言葉をかけてもらって、野手のみんなとも気持ちを再確認した。その直後の1球だったんで、僕も気持ちの乗ったボールを投げきれた。だから、あのボールに関しては後悔がない。しっかりと初球から打ってきた相手が1枚上手だった」。
そう、素直に認める。初球のストレートを弾き返され、失点した。
今季のチームはとくに元気があり、投手と野手の連係もしっかりとれていたと、香水投手は語る。後輩たちは香水投手に頼り、相談し、ついていった。
「チームのためにっていう思いが勝手に出てくる、そう思わせてくれるチームだったので、僕もすごく気持ちが乗りました。絶対に優勝するっていう気持ちが、本当に強く出た年でした。この試合でも僕が勝たせてあげられればベストだったんですけど…」。
あくまでも自分より、ほかの選手のことを思いやっていた。そんな香水投手が投手キャプテンを務めていたからこそ、リーグ優勝を勝ち取ることができたのだ。
■ピンチを断ってイニングをまたいだ村井拓海
七回、1死三塁でマウンドに上がった村井拓海投手はピンチの芽を摘むと、そのまま八回も続投した。
シーズンでは一度もなかったイニングをまたぎとなったが、「もとから八回に合わせていて急遽七回にいったんで、八回もいくつもりでした」と、事もなげに話す。
「(イニングの)途中からって初めてだったけど、めちゃくちゃ気持ち入ってたんで、絶対にこのバッターで切ろうっていう気持ちでいって、初球でああいう形で打ち取れてよかったです」。
ノリにノッていた愛媛打線だったが、4番打者を1球で遊ゴロに仕留めて、完全に流れを断ち切った。
左打者が揃う愛媛打線にも「自分、左バッターは全然苦手じゃないんで、投げにくさとか怖さもなかったです」と言い、火がついていた勢いにも「それはめちゃくちゃ感じたんですけど、自分もなんかめっちゃ火が出てたんで(笑)。めちゃくちゃ楽しかったっす」と、大舞台を楽しむ強心臓ぶりを発揮した。
「自分、全国でやるのは初めてで。今までチームが出たことはあるんですけど、自分は試合に出たことなくて。なのでちょっと緊張はしてたんですけど、本当に楽しかったです」。
この経験がまた、村井投手をひと回り大きく成長させてくれたことだろう。
今季は途中離脱もあったが、「シーズンを通して戦うっていうのを経験できて、とても勉強になった。これを来年に活かして、来年は絶対NPBに行きたい」と、すでにその目は来季に向かって燃えていた。
■懸命に投手陣を引っ張った森本耕志郎
3人の投手をリードしたのは、若き司令塔・森本耕志郎選手だった。
「前半五回まではプランどおりというか、いいイズムでいけたんですけど、やはり2巡目3巡目になってくると、相手のタイミングが合ってきた。そこでちょっと早めに気づいて組み立てを変えたりできればよかったんですけど…。1巡目から全力でいってたんで、以降が手詰まりになって、選択肢がどんどん狭くなっていったっていうのは、反省としてあります」。
苦心のリードだったことが想像できる。
「絶対にピンチは来るものだと思っていた」と予想はしつつも、「香水さんはピンチでギアを入れるタイプ」と頼りにもしていた。だが、通常の公式戦とは違う大舞台での力の入り方が、香水投手の疲労を早めたようだ。先手を打てなかった悔しさが、森本選手の口調ににじむ。
愛媛打線については「低めの変化球とか簡単に三振しないというのは頭に入っていたけど、それでも実際に見るとやっぱり三振が少ない、どんどん食らいついてくる感じだったんで、丁寧に丁寧にっていう感じで前半はいけたんですけど…」と、とくに後半の貪欲さに舌を巻いた。
捕手として魅せたのはリードだけでない。キャッチングやブロッキングも光った。再三再四、ワンバウンドのボールをキャッチし、あるいは前に落とした。岡﨑監督仕込みのジェスチャーでも、しっかりと意思を伝えていた。
「リーグ戦でやってきたことが今日できました。丁寧に投げさせることもできたし、止めるところは止められた」。
ちょっぴり自信になった。
大きな収穫を持ち帰ることはできた。だが、その一方で、悔しい幕切れとなったことには「勝ちきれなかったのは悔しい。来年、もう一回ここに来て、今度は勝ちたい」と唇を噛んだ。
「個人としてはオフシーズンにひと回り、ふた回り成長します」。
森本選手はそう強く宣言して、球場を後にした。
■阿部大樹は負傷をものともせず躍動
守備でも攻撃でも、ガッツあふれるプレーでチームを牽引した阿部大樹選手。衝撃は一回の守備だった。左中間に飛んできたフライを追った際、レフト・路真選手と交錯し、その場に倒れ込んだ。
激突した場合、どうしても体の小さい選手のほうがダメージを受けやすい。阿部選手は左目の瞼からの出血が止まらず、一度ベンチに下がって止血した。
「3分以内に戻らないといけないルールがあって、急いで処置してもらったんですけど、それでも血が止まんなくて…。試合中ずっと左目が見えない、靄がかかった状態でやっていました。打球が来るのも怖かったし、打席でもボール見えるかなって思いながら立っていました」。
だが、そんなことを感じさせない熱いプレーを見せ続けたのは「気合いですよ、もう。気合い」と力を込める。左目のほか、左太ももや右膝も打撲で腫れていた。
阿部選手らしいプレーで暴れまわった。四回の先制のホームインは、「ゾーンで勝負してくるなと思ったので、こっちも初球からどんどん振りにいこうと。積極的にっていう気持ちだけでした」と放った二塁打からだった。当たりもみごとだったが俊足で二塁を陥れ、そのあとの暴投でもすかさず三進した。
プレーボール直後にも足を活かした内野安打で出塁し、4球目にスタートを切った。「リードオフマンとして塁に出るっていう仕事はできたと思う」と自身に及第点は与えつつも、盗塁失敗とチャンスでの凡退を悔やむ。
盗塁は配球を読んだつもりだったが、相手も動きを読んでいたのか、「詰めが甘かったと思います」と刺された。八回の2死二塁では一ゴロに倒れ、「そういう細かいところで勝ちを落としてしまった。完璧な仕事はできたとは言えない」と肩を落とす。
凡退が続いてもベンチのにぎやかさは変わらず、「沈む感じはまったくなかった。いつもどおりのうるささでした(笑)」と、今年の石川の雰囲気のよさは貫き通せたと阿部選手は述懐する。
「やっぱりリーグ優勝は素直に嬉しいですよね。去年はチームとしても個人としても失速して終わってしまったけど、今年はそれとは真逆で、自分としてもいい状態で、チームとしても本当にいい雰囲気の中で野球をすることができた。このチームで熱い試合ができて、僕はすごく楽しかった」。
グラチャンでの勝利はつかめなかったが、たいせつなものを阿部選手もナインも手にしたようだ。
■2点目は川﨑俊哲の犠牲フライ
川﨑俊哲選手は今季、結果を積み重ねて打順を上げ、この大一番でも5番に座った。第2打席では貴重な追加点を、ライトへの犠牲フライで挙げた。
「打ったのは緩い、ちょっと沈むようなツーシーム。チェンジアップ系の。監督や選手たちがデータとか調べてくれて、それを参考に打席に立ったんですけど、前の打者の大誠が『ツーシームが多くなっている』と言ってたんで、僕もそれに張って初球から狙っていきました。ちょっと泳いでしまったけど、対応できたんでよかったかなと思います」。
狙いどおりだったと振り返る。
第3打席も代わった投手のスライダーをとらえて、左中間に快音を響かせた。しかし、相手の好守備に阻まれてしまった。“たられば”は禁句だが、あの打球が抜けていれば…と思わずにいられない、愛媛のみごとな守備だった。
川﨑選手自身も守備でも魅せた。四回、1死二、三塁の場面では強いゴロをうまくさばき、「香水さんが踏ん張ってくれていたんで、必死にやった結果です」と胸を張る。
初めての球場だったが、「砂がふかふかで対応しにくいかなと思ったけど、案外跳ねていた」と、試合前練習でもしっかりと確認を怠らなかった。
入団5年目にして初めて味わったリーグ優勝だった。「5年間で一番嬉しい瞬間でした」と微笑む。
「今年のチームは雰囲気がよくて、仲もいい。お互いみんながやりやすい環境で、それが勝利に近づけたんじゃないかなって思います。あと、岡﨑監督になって、ミスをしてもそのあとの切り替えの仕方とか野球に対する姿勢が、みんなしっかりするようになりましたね」。
後輩も増え、先輩としての自覚をもって奮闘した5年目のシーズンだった。
■不動の4番・大誠は貴重なヒットとピンチでの好守備
大事な一戦も不動の4番はもちろん、大誠選手だ。四回は1点先制してなおも1死一塁の場面で打席に入ると、バットを折りながらもライトへ運んで一、三塁とし、次の得点につなげた。
「愛媛さんとは初対戦ということで、自分でも動画を見たりして挑んだんですけど、情報と打席に立ってみての感覚が違って、そういうズレを少ない打席で修正するのが難しいなと思いました。しっかりストライクにまとめてきて、コーナーにもしっかり投げてきていたんで、簡単に打ち崩せるピッチャーじゃなかったですね」。
投手陣の仕上がりのよさを実感したという。
守備では四回の2死満塁、絶体絶命のピンチの場面で「相手ベンチが近くて、そういう圧もあったし、初めての球場の風の感じとか、すごく難しいフライでした」と言いつつも、しっかりとキャッチして香水投手を助けた。
しかし、口をついて出てくるのは反省の弁ばかりだ。
「もっとチームを勢いづけるようなバッティングができれていれば、流れも変わったのかなと。逆転されたあとの先頭バッターだったんですけど、やっぱりあそこでガツンと流れを変えられるようなバッティングができていれば、もっと違った展開にできたと思います(結果は空振り三振)」。
主砲としての責任感を抱いていた。
「徳島さんを倒したっていう勢いもあって、ずっと押されているなっていう雰囲気はありました。2度の満塁は香水さんもすごく気を遣って投げているのを感じましたし、こっちもミスできないなって思っていました。やっぱり一発勝負の難しさというのはありましたね」。
しかし、グラチャンでの収穫も多かった。「ほかのリーグのピッチャー、四国で活躍した投手を見られたっていうのは、僕にとって大きな収穫でしたね。ずっと富山さんとの対戦だけだったので」と、自身の今後の野球人生にとってもプラスになったと、大きくうなずいた。
■来季こそ独立リーグ日本一に
2024年の石川は、優勝に向かって1つずつ勝利を積み重ね、あと1つというところで3試合足踏みし、とうとうリーグの頂点に輝いた。そして掴んだグランドチャンピオンシップの切符だった。
勝ち進むことはできなかったが、ミリスタナインにとって肥やしになったことは間違いない。
約半数の選手がまた入れ替わるのは、独立リーグの宿命だ。来季はどんなメンバーで、どのような戦いを見せてくれるのか。
残るメンバーがこの悔しさを晴らし、日本一に登りつめることを期待したい。