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北朝鮮の女子大生60人「ろくでもない行為」で吊し上げの刑

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の公開裁判(デイリーNK)

「反動思想文化排撃法」に「青年教養保障法」、そして「平壌文化語保護法」――いずれもここ数年で北朝鮮で制定された法律で、ターゲットは若者だ。

 中国を経て流入した韓流ドラマを見て育ち、韓国にあこがれを抱き、ファッションから言葉遣いまで韓国の真似をしようとする若者たちを取り締まるための「韓流取り締まり3点セット」と言える。

 これらの法律に基づき、様々な取り締まりや思想教育が行われているが、平安南道(ピョンアンナムド)の平城(ピョンソン)師範大学では、またもや違反した学生を「つるし上げ」にする行事が行われたと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 大学では先月19日、道内の大学生全員を集めた上で、今年上半期の反社会主義・非社会主義行為に対する公開闘争、公開裁判が行われた。上記の3つの法律に違反した60人の女子大生が、20人ずつ壇上に立たされた。そして「罪状」が読み上げられた上で、徹底的な批判を浴びせかけられた。

「駭怪罔則(奇妙でけしからん)な行為を行った者ども、ろくでもない行為をやらかした者ども、浮華放蕩(浮かれて贅沢三昧)な行為を行い続けた者どもなど、醜悪な面構えをした者どもが、社会を汚染している」(その場での批判発言)

 手厳しい批判、罵詈雑言を長時間にわたり浴びせかけ、顔に泥を塗り、メンタルにダメージを与えるという、単なるハラスメントのようだが、「自己批判と相互批判を繰り返してこそ革命性が高まる」と考える北朝鮮当局は、飽くことなくこうした行為を繰り返している。

 60人のうち40人は「軽犯罪」であったため、教養処理(厳重注意)で済まされた。このうち、予審(裁判前の証拠固めの段階)が終わった学生1人に対しては、罪状が非常に重いとして、無期労働教化刑(無期懲役刑)が言い渡された。3人には有期の労働教化刑、2人には労働鍛錬刑(短期の懲役刑)が言い渡された。

 この6人の「罪状」とは、韓流に心酔し、韓国風の言葉遣い、ファッション、ヘアスタイルをしたことで何度も摘発され、処罰を受けたのに、反省せずに同様の行為を繰り返していたというものだ。担当教員はもちろん、両親からも厳しい批判を浴びせられた。もちろん、当局が強要したのである。

 韓流コンテンツの流通に関わっていれば死刑が言い渡される可能性もあるが、それはどうにか免れたようだ。ただ無期懲役ともなれば、親が幹部や金持ちだったとして、あちこちに手を回して減刑・釈放させようとしても、そう簡単にはいかないだろう。特に今回のような見せしめの場合、すぐに出所したとなれば、噂が広まることはほぼ間違いない。教化所(刑務所)から生きて帰ってこれるか否かは、神に祈るしかない。

 このように大々的な「見せしめショー」を行い、韓流を根絶やしにしようとしている当局だが、うまくいった事例はない。公開処刑ですら効果は一時的だ。ある学生の言葉が、韓流対策の根本的な限界を示していると言えよう。

「わが国(北朝鮮)の映画が南朝鮮(韓国)の映画より面白ければ、(韓国の映画を)見ろと言われても見ない」(公開裁判を見守った大学生たち)

 アクション、ラブストーリー、コメディ、ファッションなどなど、韓国では大量のコンテンツが作られ、北朝鮮に流入する。そのソフトパワーに対抗するには、良質のコンテンツを北朝鮮の手で作らなければならないが、できあがるものは思想教育を目的としたお説教ばかり。そもそも勝負にならないのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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