2024年解散総選挙のタイミングとシナリオ、その可能性は
新たな年、2024年の正月を迎えました。昨年は春秋の衆参国政補欠選挙のほか内閣改造とイベントが続くなか、閣僚の不祥事にかかる辞任ドミノや自民党派閥パーティー券の問題が発生し、内閣支持率も急減しました。既に衆議院議員の任期が折り返しを迎えており、いつ衆議院解散があってもおかしくない時期ではありますが、今年は解散総選挙があるのでしょうか。その場合のシナリオと可能性を検討してみます。
内閣支持率は当面は低空飛行か、新たなトピックへの対応にも注目
2023年の内閣支持率は下降傾向が続きました。3〜5月は衆参補欠選挙の勝利やG7広島サミットの成功などで支持率は持ち直していましたが、その後の物価高騰や秋の参議院補欠選挙での敗北、さらに改造内閣で新任された政務三役が相次ぎ辞任ドミノとなったことなどから、支持率は一転低調となり、自民党派閥パーティー券の問題が発覚したことで岸田政権の支持率は過去最低を記録し続けています。
内閣支持率は厳しい状況が続いていますが、年末年始には新たなトピックがいくつも発生し、年明けの政局は複雑化しそうです。12月30日に北朝鮮は韓国を「敵対的な国家関係、交戦国の関係に完全に固着した」と位置づけ、北朝鮮と韓国の南北関係に軍事的緊張が発生するとの見立てがあります。また元日に発生した令和6年能登半島地震は輪島市、珠洲市をはじめとする広範な地域に甚大な被害が出ており、人命救助から復興までの大きな役割を国が担うこととなります。更に羽田空港で発生した日本航空機と海上保安庁機の衝突事故では海上保安庁職員5名が亡くなるという痛ましい事故となり、また多数の乗客がいる民間機が全損するという大規模事故であったことから、原因究明などといった動きもなされることでしょう。
岸田内閣としては、内閣改造により防衛大臣経験もあり岸田派の林芳正氏が官房長官を務めていることで、この災害や事故対応で国民に評価される対応ができるかが試されることになります。また家屋被害が甚大とみられる能登半島の復興をどのように進めるのか、リーダーシップを発揮できるかが問われます。
解散総選挙のタイミングとシナリオ
そういった事情を鑑みて解散総選挙のタイミングはいつになるのか、いくつかのシナリオを検討してみたいと思います。
〇通常国会冒頭(可能性:低)
通常国会は1月26日召集の方向との報道があります。国会閉会中に東京地検特捜部による自民党派閥パーティー券問題の強制捜査が入ったことで、新年も継続してこの捜査が続くものとみられますが、国会会期が始まる前に捜査に一定の方向性を見出すとの見立てがあることや、能登半島地震への対応が立法府にも求められていることから、この通常国会の日程を大きく変更することは難しいとみられます。
また1月下旬に衆議院解散総選挙を行った場合には、予算の年度内成立はスケジュール上極めて厳しくなります。通常国会が始まれば解散権を行使することはできるかも知れませんが、能登半島地震の被害が甚大であることを考えれば、このタイミングでの解散総選挙はほぼゼロと考えざるを得ません。
〇3月の予算成立後(可能性:低)
そうなると、来年度の本予算が成立する3月末以降の春が、具体的に検討できる最短の日程といえます。しかし、この日程もまた厳しいと言わざるを得ません。岸田首相は昨年12月26日に記者団に対し、衆院解散総選挙について「まずは政治の信頼回復に取り組み、具体的な結果を出すことに専念する。その先に何を考えるのかについて今は何も考えはない」と答えています。また、その前の国会閉会時の記者会見でも、「予算が成立したならば解散するのか、あるいは来年の総裁選挙をどうするのかということでありますが、今はそうした先のことを考えている、そういった余裕はないと思っています。まずは、今、申し上げたこの課題(筆者注:現在の政治資金をめぐる様々な課題を指すとみられる)に全力で取り組む、それに尽きるのだという強い覚悟を示すことが重要だと思っています。」とコメントしており、やはり政治とカネの問題に一定の指針を打ち出すことが先決と考えているとみられます。
では政治資金規正法などの改正や、自民党としての政治とカネの問題への取組は、3月までに終えられるのでしょうか。過去にもリクルート事件などを契機として政治改革の動きは永田町でありましたが、既存の枠組み相応の時間がかかっています。1988年から始まったリクルート事件において、政策提言は事件発覚から半年、政治改革3法案の提出には1年がかかったほか、実際にこれらの法案が成立するまでには海部内閣、宮澤内閣を経て細川内閣に至るまでの時間がかかっており、今回の政治改革も内容によっては相応の時間がかかることが想定されます。そうすると、3月の予算成立までの間に、岸田首相のいう「具体的な結果を出すこと」ができるのかはかなり疑問であり、やはりそれまでに解散総選挙を行うことは難しいとみられます。
〇4月の補欠選挙と同タイミング(可能性:低)
公職選挙法の規定により、4月の第4日曜日には、国政選挙の補欠選挙が行われます。現時点では細田博之元衆院議長の逝去による衆議院島根1区の補欠選挙が確定している状況です。一方、公職選挙法違反の容疑で東京地検に逮捕されている柿沢未途衆議院議員(衆議院東京15区)の捜査状況や、自民党派閥パーティー券問題の捜査進展によれば、複数の選挙区で補欠選挙が行われる可能性も否定できません。仮に3選挙区以上の選挙となったり、与野党が激戦となる可能性の高い補欠選挙を複数抱えるようなことになれば、補欠選挙ではなく総選挙とするために、タイミングを重ねるように解散に踏み切る可能性もあります。
ただ、時期的には先ほど検討した「3月の予算成立後」とほぼ同じ時期になることから、政治改革をどこまで進めることができるのか疑問です。単に政治汚職に関する問題で議員が辞職したことを発生事由とする補欠選挙では、与党にとってかなり厳しいことが見込まれますし、そこに総選挙をぶつけたからといって、禊となることは考えづらいといえます。そのため、想定以上に議員が辞職・失職するなどの事態にならない限りは、解散総選挙に至ることはないとみられます。
〇6月の国会会期末(可能性:中〜高)
1月に通常国会が開会すると、延長がない限り通常国会は6月に閉会することとなります。この6月が、筆者は当初「解散総選挙の本命タイミング」と考えていました。
その理由はいくつかあります。まず最初に経済対策です。昨年11月9日、岸田首相が年内の衆議院解散を見送るとのニュースが駆け巡りました。その前から年内解散は難しいとされていましたが、いずれにせよこの時点で与党内で年内解散をしないという共通認識が持たれたとみられます。この11月9日に「見送る」報道を受けた岸田首相は記者団に、「まずは経済対策、先送りできない課題一つ一つに一意専心取り組んでいく。それ以外のことは考えていない。従来から申し上げている」とコメントしており、この時点では「見送る」理由は経済対策でした。そして経済対策という点においては、今年の賃金上昇での「デフレ脱却」がもっとも重要であり、昨年打ち出した「所得税減税」の効果が出る(実際に税金が引かれる)今年6月以降に国民が実感を感じるものとみられます。
また、今年春には日銀のゼロ金利政策が見直されるとの展望や、春闘を経た「賃金上昇」の実感も受ける時期でもあり、新たな経済的フェーズに入る見込みである6月を、岸田内閣が一つのマイルストーンに置いていることは間違いないと言えます。
ただ、ここまで述べたように政治改革が新たなテーマとなるとみられる通常国会で、どの程度政治改革を進めることができるのかが、大きな課題となるでしょう。通常国会で具体的な対策がなされなければ、秋の臨時国会以降に持ち越すとみられ、国民の批判は免れません。さらに能登半島地震対応など通常国会は課題が多くあるとみられ、この150日の通常国会でどの程度政治改革を進めることができるのかが、6月解散総選挙に踏み切れるかどうかの判断軸となるでしょう。
更に東京都知事選挙が7月7日投開票で行われますが、江東区長選挙で自民党と都民ファーストの共闘が成立するなど、都知事選挙を利用するという見立ても少なからずあります。下村氏や萩生田氏など清和政策研究会の重鎮の一部が自民党東京都連所属であることや、小選挙区が「30」に増えた東京都での自民党の劣勢が一部で伝えられていることから、東京都知事選挙とダブル選挙にすることで、東京都で自民党が優位に選挙を進めるのではないか、という見立てもあります。
そして今年9月30日に任期満了を迎える自民党総裁ですが、その総裁選の前に衆議院解散総選挙を行い総裁再選を狙うという王道を狙うのであれば、やはりこの時期に解散総選挙を行うことが理想といえます。今年7月には来年の参議院議員通常選挙の第1次公認も発表になるとみられ、その前後に衆議院解散総選挙を行うことで、党総裁としての人心掌握をできるかどうかが、自身の総裁再選、さらには長期政権にも関わってくると言えるでしょう。
〇9月の総裁選直前の解散総選挙(可能性:中)
仮に6月の国会会期末に解散できない場合、8月のお盆の時期は解散総選挙を避ける傾向にあり、特に被爆地広島出身の岸田首相がその選択を取ることは考えにくいことから、8月15日以降の解散総選挙となるでしょう。そうすると総選挙自体は9月になることが濃厚です。自民党総裁選挙の直前に解散総選挙をすることで、総選挙での勝利から総裁再選を確実にするという流れもまた王道と言えます。
6月の国会会期末とお盆明けの2つは似ているケースと言えますが、国会会期が終わったとでも党内で政治改革をどの程度進められるかと、東京都知事選挙との連携が実現するかどうかによって、「6月会期末解散のB案」とも言えるのがこの時期の選挙です。
近年は秋の選挙も多かったことから、時期的には選挙のやりやすい時期という国会議員も多い一方、農家にとっては収穫の時期でもあり、この時期の選挙は厳しいとの声も聞かれます。いずれにせよ、この「6月〜7月」と「8月〜9月」が時期的には現在もっとも可能性が高いと言えるでしょう。
〇10月〜12月解散総選挙(可能性:低〜中)
10〜11月の解散総選挙は、11月にはアメリカ大統領選挙が行われるほか、G20ブラジル会合も開かれることから厳しいとみられています。そうすると、年末である12月解散というのが一つの視野には入ってきます。仮に政治改革を秋の臨時国会にまで引き延ばすことになれば、そこでの結果が国民に問われるということになるでしょう。
このシナリオを検討するにあたっては、そもそも総裁選挙で岸田総裁が再選しているのか、また10月の国政補欠選挙の有無やその結果も問われることから、予想はかなり複雑化します。仮に岸田総裁の再選とならず新総裁が選出された場合には、新しい首相で支持率が高いうちという理由や、11月5日のアメリカ大統領選挙までにという理由から、速やかに解散総選挙を行う可能性が高いでしょう。
ただ、新総裁が選出されるようなことになれば、自民党の派閥政治が大きく変化している可能性もあります。仮に可能性はほぼ無いとしても「分党」など大きな派閥力学の変化があれば、場合によっては時間をおいての解散総選挙もあるかもしれません。
また岸田総裁が総裁選に再選した場合には、無理にすぐに解散総選挙をする理由が無くなります。アメリカ大統領選挙などの様子を見てから、12月に解散総選挙ということも考えられるでしょう。ただ、秋の国政補欠選挙が厳しい情勢となるとみられた場合や、秋の内閣改造により支持率が上がらないようなことになれば、解散ができないままという可能性も否定できません。
解散総選挙シナリオのまとめ
ここまで多くのシナリオを見てきましたが、途中触れたように、「6月の会期末〜都知事選ダブル」と「9月の総裁選直前の解散総選挙」の2つが大きなタイミングとなりそうです。それ以降は総裁選の状況や秋の国政補選、アメリカ大統領選挙など国際情勢も影響してきて複雑なシナリオとなることが想定されます。
序盤国会では政治とカネの問題の行方にくわえて、能登半島地震の復興など大きなテーマに対し、岸田首相がどれだけのリーダーシップを発揮できるかが鍵を握る展開とみられます。