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紅白歌合戦 日本語だけで歌いきった歌手は誰か 横文字を使わない歌手を並べてわかった「NHKの企み」

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:ロイター/アフロ)

ボーダーレス紅白は海外の出演者が目立つ

2023年の紅白歌合戦のテーマは「ボーダーレス」であった。

日本国境を境とせず、という意味もあったようだ。

海外の歌手も何組かステージに立っていた。

海外の言葉でも歌う。

もとより、日本の歌手でも、英語のフレーズを入れた歌を歌うことも多い。

日本語だけで歌いきる「和」の歌手

いっぽうで、演歌歌手など、日本語だけで歌いきる歌手もいる。

年の瀬から正月にかけては「和」を意識することが多い時期である。

年の瀬の和の季節、紅白歌合戦で、横文字を入れずに日本語だけで歌いきる歌手はどれぐらいいるのだろうか。

紅白歌合戦は歌詞が画面に出るので、カタカナで書かれている文字は日本語、横文字で書かれるとそれは英語の混入とみなすことにした。

たとえば「ポップなミュージック」は日本語、「be my baby」は英語の混入ということ。

新しい学校のリーダーズはほぼ日本語なのだが

トップバッターは新しい学校のリーダーズ。

明確な日本語で歌いだす「オトナブルー」はしっかりと日本語の歌である。くっきりとした日本語で歌う。

でも、途中、自己紹介するところで「アイム、カノン」「アイム、リン」と順番になぜか英語で自己紹介していた。字幕では「I’m KANON」と横文字になっていて、むずかしいところだが、これは英語の混入とした。

日本語だけの歌手はなかなか出てこない

2番目のJO1「NEWSmile」はIt’s a new dayから始まる。かなり横文字が入る。

3番の鈴木雅之「め組のひと」はバリバリに昭和の歌だが、そこはさすがにラッツ&スター、「sweet baby」やら「be my girl」など横文字がばんばん入る。

4番Stray Kids「CASE 143」はもともと日本語の歌ではなく、英語が中心にあった。

5番のPerfume「FAKE IT」はきちんと日本語の歌である。でも、タイトルでもある「fake it」を区切りごとに叫ぶので、横文字の混入がある。

最初の日本語だけ歌手は「すとぷり」

ここまで5組、日本語だけに徹した歌い手がいない。

そして6番手のすとぷり。

ステージにCGで作られたキャラが登場して歌っていた。存在自体が不可思議であった。

そして、この近未来歌手が、歌詞に横文字を使っておらず、日本語だけで歌った最初の歌手だったのだ。それが令和だ。

続いて道頓堀から天童よしみ、その次は呪術廻戦の世界からキタニタツヤがやってきて歌った。どちらも日本語のみの和の歌い手であった。

つづいて横文字系が多い

緑黄色社会は「need you」を連呼して横文字系。

櫻坂46も「Start over」を連呼していた。

純烈は演歌系だから、日本語だけ。

あのちゃんの「ちゅ、多様性。」はいろんな言葉が混じっている。

日本語だけの歌手はやはり名前が日本語

このあと前半に出た歌手で日本語オンリーで歌いきったのは5組。

JUJU「時の流れに身をまかせ」

山内惠介「恋する街角」

郷ひろみ「2億4千万の瞳」

水森かおり「日向岬」

ハマいく「ビートDEトーヒ」

以上である。名前そのものに横文字が少ない。

なぜか大泉洋も横文字を入れている

それ以外の7組は英語入り。

BE:FIRST、NiziU、LE SSERAFIM、乃木坂46、milet、SEVENTEEN、大泉洋だ。

大泉洋なんか日本語だけで歌えばいいのにとおもうが(余計なお世話だが)「good bye days」と横文字をいれて歌い上げていた。ううぬ。

日本語の比重のほうが低い歌手

NHKニュースが入って、21時から後半が始まる。

Mrs. GREEN APPLE、坂本冬美、MISAMO、10-FEET、NewJeansと登場した。

これまた名前のとおり、坂本冬美だけが日本語オンリーの歌で、あとは横文字が入っている。

MISAMOとNewJeansは日本語の比重のほうが低かった。

ディズニーソングに横文字は入ってこない

次はディズニー特集で、ミッキーとミニーもやってきた。

ディズニーシーで結婚式を挙げるときにこのコンビを呼ぶとたしか20万円かかるんだったよなと余計なことを考えながらも、次々といろんな人がディズニーソングを歌うのを見る。

もともとが英語の歌で、その訳詞を歌っていた。

訳詞は日本語だけである。でもちょっと和の歌とは言いにくい。(日本語オンリーにもカウントしていない)

椎名林檎の不思議な縦書き歌詞

次はOfficial髭男dism。

彼らが歌うのはNコンの課題曲だったから、もちろん純粋の日本語オンリー。ヒゲダンかっちょいい。

そして椎名林檎。

彼女の歌詞だけ縦書きで、縦書きだからもちろん日本語だけの歌詞である。

でも林檎ねえさんは歌詞どおりには歌わない。ところどころ気まぐれに(とみえる)英語に言い換えて歌っていて、縦書き歌詞に横文字入りまくりだった。

なんかしら深遠な意味がありそうだが、よくわからない。

Mrファーレンハイトは華氏

ゆず。「never give up」と何度も叫ぶ。

そしてクイーン。ボーカルはアダム・ランバート、歌は「ドント・ストップ・ミー・ナウ」。もちろん日本語が一文字も入っていない。

ただ歌詞テロップは日本語の訳詞だった。

「ドント・ストップ・ミー・ナウ」のMVのフレディは若々しくて、大好きなのでよく見ているが、「俺をMrファーレンハイトと呼ぶ」という訳詞が好きで印象に残っている。でも紅白歌合戦の字幕ではそこは「僕を華氏と呼ぶ」になっていて、ああ、なんかNHKらしいと一人合点していた。

ここまででゲストも特別企画もいれて39曲。

どんどん日本語比重が大きくなっていく

次の三山ひろしと、その次の星野源は日本語オンリー。

Superflyはやはり横文字がいろいろ入ってくる。

伊藤蘭は日本語だけ。

YOSHIKIはもちろん英語がどんどん入ります。

45曲目がポケットビスケッツ&ブラックビスケッツで、ここから怒濤の日本語だけの世界に入っていく。

薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」も、寺尾聰「ルビーの指環」も当然、日本語だけの世界である。

つぎにAdo「唱」がお東さんからのパフォーマンスで、この人は顔出ししないのに、なんでこんなにかっちょいいのでしょう。

日本語の端々まで駆使している歌詞だが、日本語にはこだわらず、いろんな言葉が入っている。

なかなか痺れる。

残り9組の驚異の展開

さて、残り9組となって、ここから「和」の大展開となる。

エレファントカシマシ

あいみょん

さだまさし

石川さゆり

藤井フミヤ

有吉弘行×藤井フミヤ

YOASOBI

福山雅治

ここまで8組、完全に日本語だけ、和の世界となった。ちょっとすごい。

MISIAもほとんど日本語の歌なのだが

最後のMISIAも基本は日本語の歌である。

ただ『傷だらけの王者』では「最高のSTAGE」「王者のSHADOW」「風に乗れRIDE ON」という部分があって、ステージとシャドウはまだ日本語だと言えるだろうが、ライドオンは横文字混入と見るしかないだろう。

でもそのライドオンだけをのぞけば、紅白歌合戦の終盤、22時50分から23時38分まで、ずっと日本語しか出て来ない楽曲が続くのだ。

紅白歌合戦の日本らしい工夫

紅白歌合戦は、前半で横文字混じりの歌をたくさん展開し、後半、最後の最後はわかりやすい日本の言葉の歌を並べて、多くの人に落ち着いて聞いていられる工夫があったのだった。それがNHKの企みであった。

自分で調べて驚いている。

そのあと、蛍の光を歌って、合戦は終わる。

京都の知恩院の鐘撞きが映し出される。

和の世界に浸ったまま、新年を迎える。

それがNHKの日本放送協会の年末年始精神なのであった。

日本語だけの歌手たち

あらためて、日本語だけで歌った2023年紅白歌手を並べておく。

すとぷり、天童よしみ、キタニタツヤ、純烈、JUJU、山内惠介、郷ひろみ、MAN WITH A MISSION、水森かおり、ハマいく、坂本冬美、Official髭男dism、三山ひろし、星野源、伊藤蘭、ポケットビスケッツ&ブラックビスケッツ、薬師丸ひろ子、寺尾聰、エレファントカシマシ、あいみょん、さだまさし、石川さゆり、藤井フミヤ(有吉弘行)、YOASOBI、福山雅治。

ことしもよろしく。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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