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都市計画道路~そろそろ大幅見直しをすべき理由を、税理士・不動産鑑定士が専門的見地から提言する

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
ある都市計画道路予定地。無駄に遊休地と化している(令和5年4月20日筆者撮影)

■都市計画道路とは

皆様も知り合いから「私の家は都市計画道路の範囲にかかっていて色々と制約がある」とお聞きになったことがあるかもしれませんが、都市計画道路とは、自治体が作る都市計画において、将来、設置が予定されている道路と言ってよいでしょう。

道路の予定地の範囲では、一定以上の「ヘビーな建物」の建築が制限されるため、その土地の所有者にとっては都市計画道路の指定があることはマイナスといってよいでしょう。

都市計画道路の制限の例(東京都/但し、この看板のように近年〔平成30年〕に動き始める例もなくはない)~令和5年4月20日筆者撮影の上で一部加工
都市計画道路の制限の例(東京都/但し、この看板のように近年〔平成30年〕に動き始める例もなくはない)~令和5年4月20日筆者撮影の上で一部加工

■都市計画道路の実態とは

不動産鑑定をしていると、たまに「評価対象の不動産が都市計画道路の範囲内」という場合があります。

ここで、よくあるのが、都市計画決定が「昭和20年代の計画決定である、戦災から復興の云々」というように、都市計画決定後、数十年も動いていないパターンです。

ただ、筆者は思います。

ある人の土地に勝手に都市計画道路の計画決定範囲の指定をしておきながら、いつまでも事業認可せず数十年も放置して、その間に制限を加え続けているのって、何なのだろう...と

■都市計画道路計画決定は、税収減にもなっている

亡くなった人の相続税の計算の基準である相続税財産評価基準では、都市計画道路であることによる土地の評価減も認めています。

このため、自治体が定めた都市計画道路の計画決定は、そのまま相続税の税収減の要因にもなり得るのです。

相続税が減るといえば聞こえはよいですが、実際のところは「土地の自由利用の制約」を課した上での話ですから、所有者にとっても、国にとっても不幸な話に他ならないのです。

国税庁のサイトより~「相続税財産評価基本通達」24-7の都市計画道路についての規定で、見ての通り都市計画道路部分に該当の場合は該当しない場合の50~99%で評価すべき旨が規定されている。
国税庁のサイトより~「相続税財産評価基本通達」24-7の都市計画道路についての規定で、見ての通り都市計画道路部分に該当の場合は該当しない場合の50~99%で評価すべき旨が規定されている。

■車社会も見直されるべき

別の観点からも筆者は思います。

例えば地方で車がないと移動できない地域ならともかく、東京23区や京阪神中心部、その他大都市の中心部等の交通網が発達した地域で、車は必要なのでしょうか。

筆者個人としては、自動車関連のお客様も複数いらっしゃるので、この話を書くのはマイナスな面もあるのですが、それでもあえて書きます。

環境を破壊し、しかも鉄道や飛行機等と比べて遥かに事故被害者の数が多い車を優遇し過ぎだろう...と。

で、あれば、むしろ都市計画道路を見直して車を過剰に優遇するのはやめて、一方で車を削減する施策が必要ではないかと、考えています。

例えばバスやトラック、パトカーや消防車等は社会的に必要ですので仕方がないですが、マイカーはかなりの制限があるべき...と思います。

e-Stat(政府統計)の令和4年末の「令和4年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」による(このほか、表の内容に細かい注意書きあり。詳細は同サイトへ)。
e-Stat(政府統計)の令和4年末の「令和4年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」による(このほか、表の内容に細かい注意書きあり。詳細は同サイトへ)。

ちなみに余談ですが、命を守ることも必要と考えています。

鉄道好きの筆者の感覚からいうと、鉄道の場合は「一定以上の速度になると自動的に制限がかかる」システムが導入されている路線がありますが、町でたまに狭い道を高速で走る危ない車を見るにつけ、「この道路ではこの速度しか出せなくする、自動的に速度制限がかかる設備」をつけるべきとも思っていますけれど、いかがでしょうか。

航空機の年間の事故の発生状況(内閣府交通安全白書「航空交通事故の動向」より)。見ての通り自動車に比べて遥かに安全性が高い。
航空機の年間の事故の発生状況(内閣府交通安全白書「航空交通事故の動向」より)。見ての通り自動車に比べて遥かに安全性が高い。

令和3年の鉄道の年間の事故の発生状況(内閣府交通安全白書「鉄道交通事故の動向」より)。人身障害を別にすれば、見ての通り自動車より遥かに安全性が高く、しかも大量輸送ができる。
令和3年の鉄道の年間の事故の発生状況(内閣府交通安全白書「鉄道交通事故の動向」より)。人身障害を別にすれば、見ての通り自動車より遥かに安全性が高く、しかも大量輸送ができる。

■都市計画道路の計画決定段階での放置は国土の有効利用の阻害

何十年も動いていない都市計画道路の計画決定によって、その土地の所有者には自由利用の制限が課され、しかも税収減にもつながっています。

用地買収の結果、できた道路が「産業の活性化につながり、日本が裕福になる一助」となるのであれば理解できますが、たかだか「そのあたりの住人の車移動が便利になる」程度なのに巨額の資金をかける意味は、筆者には理解できません。

日本社会は既に成熟しています。

で、あれば、これからは「必要性が乏しいのに昔の計画に縛られて無理やり実行する」のではなく、「国際競争力が上がる産業の強化になるものに集中的に資本投下をし、それ以外は既存のインフラを活用する」方向性に改めるべき...と筆者は思うのですけれど、いかがでしょうか。

都内某所の完成した都市計画道路の例。時間帯もあろうが、車がない。(令和5年4月20日筆者撮影)
都内某所の完成した都市計画道路の例。時間帯もあろうが、車がない。(令和5年4月20日筆者撮影)

上記の道路の柵。令和3年8月に柵が出来た旨が書かれている(令和5年4月20日筆者撮影)
上記の道路の柵。令和3年8月に柵が出来た旨が書かれている(令和5年4月20日筆者撮影)

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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