「ゼルダの伝説」シリーズ、あす35周年 世界で愛され続ける理由
任天堂のアクションRPG「ゼルダの伝説」シリーズが、明日21日に35歳の“誕生日”を迎えます。同社によると累計出荷数は約1億1300万本(30タイトル、2020年9月末時点)。世界で愛され続ける理由は何でしょうか。
◇どの作品からでも遊べる懐の深さ
「ゼルダの伝説」シリーズは、勇者リンクが世界を救うために戦う……というのが基本のストーリーで、その中でもゼルダ姫を救うために悪のガノンを倒すことが多いのですね。ポータルサイトでは、舞台となるハイラル王国の歴史も明かされており、読みごたえがあります。そんな深い設定もありながら「シリーズもの」とは思えないほど、どの作品からプレーしても遊べる懐の深さがあることです。
任天堂の看板ソフトと言えば、真っ先に浮かぶのは「マリオ」でしょうが、「ゼルダの伝説」も負けていません。2018年に「ブレス オブ ザ ワイルド」が、「ゲームのアカデミー賞」と言われる「ゲーム・デベロッパーズ・チョイス・アワード」で、大賞の「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたように、世界のゲーム開発者から評価されています。日本のゲームソフトの大賞獲得は、12年ぶり(ワンダと巨像)の快挙でした。
「ブレス オブ ザ ワイルド」は2017年3月に発売され、間もなく4年が経ちますが、発売後は徐々に価格が落ちていくのが普通の中古ゲーム市場でも、ほとんど価格が落ちません。
そして同作の世界累計出荷数は2145万本です。「マリオカート8 デラックス」(3341万本)や「あつまれ どうぶつの森」(3118万本)には及びませんが、「スーパーマリオ オデッセイ」(2023万本)を超えています。その人気ぶりに驚かされるでしょう。
そんな「ゼルダの伝説」シリーズの魅力とは?……と言われると、さまざまな意見があるでしょうが、ここでは5つの理由を挙げたいと思います。
◇「おもちゃ箱」のようなワクワクする世界
一つ目の魅力は、「おもちゃ箱」のようなワクワクする世界を作り上げていることでしょう。実に多くの仕掛けがあるのです。
まずアイテムを駆使して謎を解く瞬間の高揚感はたまりません。そして、手に入れたアイテムを使うと、ゲーム内でできることがどんどん増えるのです。覚えることは多いのですが、ゲーム内で無理なくマスターでき、仕組みが分かるとプレーヤーの腕、創意工夫次第で、遊べる幅が広いのです。冒険するほど発見があり、先へ行くのはもちろん、一度行ったところを探索するのも楽しいのです。
ファミコンの周辺機器「ディスクシステム」の第1弾対応ソフトである初代「ゼルダの伝説」(1986年2月21日発売、2600円)から、そのエッセンスはありました。世界を冒険し、ダンジョンでアイテムを手に入れ、それらを活用して次々とダンジョンのボスを倒します。ゲームに慣れたプレーヤーのスキルアップに合わせて、階段を上るように徐々に難度が上がる親切な設計はもちろん、爆弾を使って隠れた洞窟を見つける「裏技」的な要素もありました。
さらにラスボスを倒すと上級者向けバージョン(裏ゼルダ)も用意されているなど、この価格でここまでやるか!というほどでした。
◇遊び手に「考えさせる」
二つ目は、できない人への配慮があり、程よく考えさせるゲームに仕立てていることです。当時(1986年)は、「ゼルダの伝説」の発売から3カ月後に「ドラゴンクエスト」が出てくるわけで、まだRPGが認知されていない時代。今は分からないことがあればネットで検索できますが、当時はそうはいきません。「ゼルダの伝説」は当時、ヒントを教える電話サービスもあったというから驚きます。
「スーパーマリオブラザーズ」(1985年発売)でゲームをクリアすることに慣れていた人が増えたためか、モニターで「ゼルダの伝説」を遊んでもらうと「やることが分からない」という意見が多かったそうです。そのため、わざと剣を持たないところから始まるようにして、おじいさんから剣を与えられるようにし、遊び手に「考えさせる」ことを意識させたそうです。
【参考】宮本茂氏、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」を大いに語る(
その配慮は今も息づいてます。実際「ブレス オブ ザ ワイルド」を見た幼児が「やりたい」と興味を持ったので、やってもらうと敵を次々と倒し、武器が壊れると攻撃できなくなったことを理解して「助けて!」と言って逃げたのです。要するに、文字がうまく読めない幼児が「面白そう」と思い、「直感的に操作できる」「武器が壊れたことを理解できる」というわけです。なかなかすごい……と思うのですが、いかがでしょうか。
◇本編以外に熱中できる
三つ目は、本編以外の楽しさも充実していることでしょう。
「ブレス オブ ザ ワイルド」では、各地に隠れているキャラ「コログ」を発見することで、持てる装備が増えます。クリアには必須というわけではありません。しかし、コログ探しに熱中すると、フィールドを散策することが楽しいため、現実の時間がどんどん経過します。コログだけではなく、一見不要にみえるアイテムも役立つような仕掛けになっていて、「時間泥棒」なのです(誉め言葉)。
そういえば「風のタクト」では、海に眠る宝探しに夢中になりました。本編そっちのけになるほど楽しくなるのです。
ゲーム本編の導線はしっかり引かれていますが、「あれもこれも」と思っているうちに、脇道に逸れていくのです。他のシリーズでも、馬に乗って走り回ったり、世界の隅々まで探検したり、目的もなくぶらりとフィールドを散策してしまった思い出のある人も多いのではないでしょうか。
◇時代劇のような安心感 刺激も
四つ目は、似た物語にもかかわらず、マンネリを感じないのですね。物語が重要なRPGでは、舞台もキャラもガラリと変わるのが普通です。ところが「ゼルダの伝説」は、主人公のリンク、ヒロインのゼルダ、悪役のガノンをはじめ、脇役キャラの名前、キーアイテム、地名などもおなじみのことが多いのです。
プレーしない人は「似た物語だなあ……」と思うかもしれません。ですが、シリーズをプレーしている立場から言えば、「お決まり」を違和感なく受け入れられるのです。例えばゲーム内で山を見たら「デスマウンテン?」というワードが頭に浮かび、「今度はどんな感じ?」と気になるわけです。
「なぜだろう?」としばらく考えてみたのですが、時代劇のような安心感があるのではないでしょうか。結末が予測できても、それを見たくて遊んでいます。その一方で、パズル的な要素のある「謎解き」は一新され、新しい要素も盛り込まれますから、常に新鮮に思えて、ワクワクするのではないでしょうか。安心感と刺激の両方があるからこそ、と思うのです。
「神々のトライフォース」では二つの世界があり、片方の世界でした行為がもう一つの世界に影響する仕掛けがありました。「時のオカリナ」は3Dならではの面白さがあり、「ムジュラの仮面」は3日間を繰り返すシステムでした。「神々のトライフォース2」では、リンクが壁画(絵)になるアイデアが楽しめました。
また「風のタクト」では大きな目とアニメ的なCGで、従来シリーズとは違う大胆なキャラクターデザインにしました。当時は賛否両論でしたが、今となっては評価の高い一作です。大ヒットシリーズであれば、大胆に変えるのは勇気がいるとは思うのですが、そこを変えてしまうところに「すごみ」を感じます。
◇「謎解き」の難易度が絶妙
最後は、「謎解き」の難易度設定がうまい……ということでしょう。
任天堂のゲームソフトはよく売れます。企画・制作力は同業者も舌を巻くほどで、宣伝力もあります。売れるからシリーズが続き、ブランドとして確立される「正のスパイラル」ですね。
その上「ゼルダの伝説」は、パズル的な謎解きがあるだけに、ゲームバランスのさじ加減は難しいはずです。「謎解き」は、簡単すぎると充実感がなく、難しければクリアできません。プレーヤーが悩んでギリギリ解けるように調整しなければいけません。そのためには、多数のプレーヤーの思考と行動を予測する能力が問われます。
秘密のベールに包まれているようですが、任天堂は自社のホームページに開発者のインタビューを大量に公開しています。当時社長だった、今は亡き岩田聡さんが聞き手になって、開発者の本音を聞き出しており、ゲーム以外のビジネスにも生かせそうなヒントが山積みです。
その中で注目の一つは、同社の代表取締役フェローである宮本茂さんの「鳥の目線」でしょうか。「お客さんが喜ぶかな?」などと、作り手の視点をいったん離れて第三者的視点(消費者目線)になって、ゲームを客観的に評価するのだそうです。この異能の力と、それを理解して反映させる周囲のクリエーターの両輪あってこそではないでしょうか。
その結果「ゼルダの伝説」シリーズは、安心感と刺激を並立させ、絶妙の難易度を「見切る」ことに成功し続けました。だからこそ35年間も世界の人を魅了していると思うのです。既に「ブレス オブ ザ ワイルド」の続編も発表されている通り、「ゼルダの伝説」は今後も世界のゲーマーたちを、絶妙の難易度の「謎解き」で悩ませていくのでしょう。