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4年目のWEリーグ開幕へ。下位脱却を図るN相模原“下剋上のシーズン”になるか

松原渓スポーツジャーナリスト
新体制発表を行なったN相模原

【N相模原は積み上げの年に】

 4年に1度のビッグイベントであるオリンピックが閉幕し、WEリーグの新シーズンが9月14日に幕を開ける。3年後のワールドカップまでなでしこジャパンの国際大会はなく、代表人気に依存しない国内リーグのあり方が問われる中で、4年目を迎えるWEリーグはどのようなスタートを切るのだろうか。

「世界一のリーグを目指す」というWEリーグのビジョンと過去3シーズンを照らし合わせると、競技面は着実にレベルアップしていることがわかるものの、リーグとしての興行面(収入、集客面)では、欧州のトップリーグに胸を張れるような結果にはなっていない。

 今季はリーグと並行して8月31日にリーグカップが開幕し、12チームは並行して2つのタイトルを争う。WEリーグは参入のハードルが高く、現状、昇降格制度はない。一方で、結果が出なければ淘汰されていくのがプロの宿命でもある。

 3シーズン、苦しい戦いを強いられてきたノジマステラ神奈川相模原にとっても、今季は勝負の年となりそうだ。

 昨シーズンは5位以内を目指し、勝ち点や勝利数、得失点など具体的な目標値を設定していたが、結果的には12位(最下位)に終わり、22試合で勝利数はわずか「3」、得点は「16」、失点は「41」と、過去最も厳しいシーズンとなった。

 とはいえ、終盤戦は希望も残した。シーズン中に菅野将晃監督からバトンを受け継いだ小笠原唯志監督は、フォーメーションを3バックに変更。メンバーを完全には固定せず、控え選手にもピッチに立つチャンスを与えて個々の戦術理解のベースを高め、ラスト6試合は3勝2分1敗と持ち直した。

 今季は例年に比べて主力の流出がなく、小笠原監督体制2年目で積み上げの年となる。

中央が小笠原唯志監督
中央が小笠原唯志監督

【新10番&新戦力もお披露目】

 N相模原は、7月中に北海道北見市でのトレーニングキャンプを実施し、8月18日には新体制発表会見を実施。昨シーズン達成できなかった目標値を下げることなく、「勝点:30」「勝利数:10勝」「得点:30ゴール」「失点:20ゴール以下」と、具体的な数字を掲げた。

「高い設定ですが、達成できない数字ではないと思います」

 クラブの馬場正臣代表が自信を示した背景には、具体的な取り組みのプロセスがある。

 昨季の分析データによると、シュート数は1試合あたり8〜9本と少なくはなかったものの、エリア外からの可能性の低いシュートが多く、ゴール期待値(チャンスの質)は低かった。今季は攻撃のバリエーションを増やしながら、エリア内に進入する数を増やしていく。小笠原監督は言う。

「得点を増やさないといけないですが、カウンターからの得点が少なく、サイドからの得点も増やしたいので、どのようにクロスを入れて(中の選手が)飛び込むか、(北見)キャンプから積み上げてきました」

 今季、キャプテンを務める川島はるなは、戦術面で昨季との違いについて、「スプリント」を挙げた。「攻撃で駆け上がるパワーや守備で(自陣に)戻るパワーは、シーズンを通してステラの色として見せていきたいです」と、原点でもある「走力」の強化に取り組んでいることを明かした。

 副キャプテンは3人で、加入6年目の大賀理紗子、在籍10年目の南野亜里沙と経験値の高い2人が脇を固め、もう一人は3年目の19歳、榊原琴乃が指名された。榊原は年代別代表にも選ばれてきたドリブラーで、今季から背番号10を背負う。

「昨季は自分自身が結果を残せていない中で(今季は)10番をいただき、期待してもらっていることを結果で返せる選手になりたいです。目標は背番号10なので、5ゴール5アシストで10得点に絡むことです」(榊原)

 最終ラインには大宮からセンターバックの長嶋洸が加入。昨年最多失点に泣いた守備のテコ入れとして、早い段階から送っていたラブコールが身を結んだ。大宮で鮫島彩、有吉佐織、乗松瑠華ら元代表選手たちと最終ラインを形成してきた経験値の高さは、下位脱却へのカギになりそうだ。

「(選手同士が)よく話をするようになったのは去年とは違う、成長した姿だと思います。あとはスキルや個人戦術を上げていく。カップ戦の開幕戦の新潟(9月1日)とリーグ戦のセレッソ戦(9月15日)はベスト(の状態)で戦えるようにしたいと考えています」

 そう話す小笠原監督は、幅広く出場機会を与えてチームの底上げを図った昨季とは異なり、今季は結果から逆算した起用を示唆している。

「カップ戦、リーグ戦の区別なしに勝ちを積み上げていかなければいけないので、気を抜ける試合はありません。チームのプレーモデルとか戦術行動、個の力を上げるために、去年はある程度(多くの選手に)チャンスを与えましたが、今季は勝利を前提に考えます」

 結果とともに、集客も重要課題の一つ。3シーズン連続で観客数は1,000人を割っているが(リーグ平均は1,723人)、今季は来場者数も1,500名以上を目指してJ3のSC相模原との連携イベントや地域貢献活動を計画しているという。

【育成型クラブへの理想を追求】

 プロリーグ発足からの3シーズンを考えると、育成年代の環境が安定してきたことは大きな変化だと思う。浦和、東京NB、C大阪、JFAアカデミー福島を筆頭に、才能豊かな選手を次々に輩出できる育成力は、他国のリーグにはない魅力と言える。

 N相模原もそうしたチームと同じビジョンを描く。現在はアカデミースタッフに女子サッカーの指導経験豊富な面々を揃え、元代表の松原有沙や、クラブOGの石田みなみらが名を連ねる。8月末に開幕するU-20女子ワールドカップメンバーには、同アカデミー出身の笹井一愛、岩崎有波の2人が選出され、2018年以来の世界一に挑む。

左から久野吹雪、笹井一愛、川島はるな、岩崎有波、池尻凪沙
左から久野吹雪、笹井一愛、川島はるな、岩崎有波、池尻凪沙

 馬場代表は、「アカデミー上がりで構成されるチームは理想だと思っていて、3年をめどに、4、5割ぐらいがドゥーエからの出身で構成できるチームにしていきたいと考えています」と、具体的な目標に言及した。

 神奈川県は多くの代表選手を生み出してきた土地柄だけに、才能あふれる10代の選手をめぐる争奪戦は激しい。その中で、育成型クラブとしての地盤を固めるためにも、トップチームがコンスタントに成績を残していくことが理想だ。

 貪欲に結果を追い求める今シーズン、下位脱出を図るN相模原の下剋上に注目したい。

*写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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