コメダ珈琲店はなぜフェアトレードコーヒーを採用したのか?
“お値打ち”が魅力のコメダがフェアトレードコーヒーを導入
“喫茶店王国”と言われる名古屋、その象徴とも言える存在が「コメダ珈琲店」(以下「コメダ」)です。ドリンクにトーストとゆで玉子が無料でついてくるモーニングサービスをはじめ、ボリュームあるメニュー、読み放題の新聞・雑誌、ゆったりとくつろげる空間づくりなど、名古屋喫茶の魅力が凝縮されています。1968(昭和43)年創業の老舗にして、近年は全国展開を本格化。今や国内外に760店舗以上を展開します(2017年8月末現在)。店舗数はスターバックス、ドトールに次ぎ、従来の喫茶・カフェチェーンの主流だったセルフサービスではないフルサービス型としては圧倒的なトップランナーです。
そのコメダが、新メニューとしてフェアトレードコーヒーを採用することになりました。メキシコ産コーヒー、マヤビニックを使ったコーヒーを9月1日より直営11店舗で売り出したのです。価格は1杯450円(店舗により一部異なる)。定番のブレンドよりも50円高い設定となっています。
フェアトレードとは、開発途上国で生産される原料や製品を適正な価格で購入し、産地の貧困、教育、環境の問題を改善させていこうという取り組み。途上国の安価な労働力の犠牲の上に成り立っている大量生産・大量消費を、消費者1人1人の日々の買い物から見直すものです。
理念としては誰もが共感できるフェアトレードですが、ビジネスの現場では容易には取り入れにくい側面もあります。取引価格が高くなることが多いため、安く仕入れて安く売る、という最も分かりやすい商売の法則とは相いれにくいからです。
では、コーヒー1杯400円と“お値打ち”を魅力とするコメダが、なぜフェアトレードのコーヒーを採用することになったのか? その真意を尋ねてみることにしました。
筆者だから知るコメダ×フェアトレードの出会い
・・・とここでちょっと種明かしをすると、実は筆者は今回の一件に少しだけかかわっています。コメダにフェアトレードを持ちかけたのはNPO法人・フェアトレード名古屋ネットワーク代表・原田さとみさんで、両者を引き合わせたのはもともと双方と交流がある筆者だったのです。
最初の面談は昨年3月。「その時点では、フェアトレードについて詳しい知識はありませんでした」と明かすのはコメダ・広報担当の清水大樹さん。しかし、原田さんとの会談が進むにつれ、コメダ幹部たちの表情が見る見る真剣みを帯び、姿勢が前のめりになっていくのが分かりました。
「フェアトレードの意義に共感できたのはもちろん、名古屋市が力を入れて取り組んでいることを知って、“名古屋に育ててもらったコメダだから市の活動を少しでもお手伝いできれば”と思うようになったのです」(清水さん)
そう。コメダを後押ししたのは本拠地である名古屋市がフェアトレードタウンだったこと。フェアトレードタウンは、フェアトレード商品を買える店が人口1万人あたり1店舗以上あること(人口227万人の名古屋市は227店舗以上)などを条件とし、世界中で1700以上の自治体が認定されています。名古屋市は2015年9月に日本で2番目の都市として認定されました(国内第1号は熊本市。現在は逗子市と合わせて国内3都市が認定)。
まずは直営店で導入。そのお味は・・・?
「来年(2018年)の創業50周年を機に、名古屋への地域貢献のひとつとしてフェアトレードに取り組みたい」。そう考えたコメダでしたが、具体化に向けて課題となったのは、コストや店舗でのオペレーションでした。
「どの店でも同じ味であることが基本ですから、新しいコーヒーを導入するなら全店舗で切り替えなければならない。しかし、今の味に慣れ親しんでくれているお客様がいるのにそれではリスクが大きい。そこで、あくまで選択肢のひとつとして取り入れることにしました。また、フェアトレード認証を受けた商材は相対的に価格は高くなるが、コストは二の次でまず導入ありきで考えることとした。また、豆の風味を活かすために店舗で専用の抽出機を使用することにし、この器具を導入している直営店でまずは提供することにしたのです」(清水さん)
6月に東京の渋谷宮益坂店で試験的に導入し、9月1日より名古屋市の本店(瑞穂区)、葵店(東区)など全11店舗で販売を開始しました。各テーブルにフェアトレードの解説も記した専用メニュー表も置いてアピール。今後は従業員向けにフェアトレードのセミナーを開いて知識を深め、さらに加盟店にも理解を求め、取り扱い店舗を増やしていく方針だといいます。
フェアトレード名古屋ネットワーク代表の原田さんも「名古屋人が日常的に利用するコメダで販売されることで、身近な場所でフェアトレード商品を購入・消費できる機会が増える」と期待します。
このフェアトレードコーヒー、実際に飲んでみると、フルーティーでほんのり甘味があり、ガツンとインパクトのあるコメダのレギュラーブレンドとは対照的な味わいでした。だからこそ選択肢のひとつとして有効で、印象に残るのではないかと感じます。
“名古屋発祥の喫茶店”というコメダのアイデンティティーがあったからこそ実現したこのフェアトレードコーヒー。コメダの喫茶店スタイルが全国に広まったように、この味と理念もまた全国に広がることを期待したいものです。