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韓ドラはラブコメ好きを裏切らない?

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
韓ドラは世代を超えてラブコメ好きに支持されている。(写真:アフロ)

韓国ドラマの人気は根強い。チャン・グンソクと少女時代ユナ主演の『ラブレイン』がインターネットテレビ局「AbemaTV」で一挙放送企画されると、視聴数ランキングでトップ10入り。地上波ではすっかり見かけなくなったが、韓ドラが世代を超えてラブコメ好きに刺さっているのには訳がある。

ラブレイン、一挙放送企画で再生数20万回超

スマホ世代の若者の取り込んでいる「Abema TV」で韓国ドラマが次々と編成されている。「Abema TV」そのものがアプリをダウンロードすれば無料で視聴できる手軽さもあり、今や累計800万ダウンロード(2016年9月11日(日)の時点)に達し、ニュースやアニメ、音楽、スポーツなどのコンテンツを揃え、韓国ドラマ作品なども編成されている。

2013年に韓国KBSで放送され話題になった『ラブレイン』もラインナップされている。国内外で知名度ナンバーワンのチャン・グンソクと少女時代ユナの2人をキャストに抑えた作品で、韓流ブームの火付け役となった『冬のソナタ』の制作チームが10年の時を経て、再度ヒットを狙って作られたものだ。日本の視聴者を意識し、日本を舞台にした北海道ロケのシーンもある。映像美にこだわった演出などは冬ソナを彷彿とさせ、「3秒で恋に落ちる」「愛は謝らない」などの恋愛ドラマに欠かせない甘いセリフも散りばめられている。

韓国国内では視聴率が振るわなかったが、番組が国際取引されたカンヌのテレビ見本市では、意気揚々と一押しの作品としてセールスされていた。その結果もあってか海外セールスは手堅く、日本でも既に地上波を含めて繰り返し放送されている。今でも擦り切れているどころか、「Abema TV」で先週9月10日(土)と11日(日)の両日に一挙放送が企画されたところ、土日共に23万超の視聴数を獲得し、ランキングでトップ10入りした。

100枚以上の写真をフリーに使える韓国のプロモーション

韓国ドラマと言えば、アラフィフの女性から多くの支持を集めていることから、スマホ世代が中心の「Abema TV」でも視聴数を上げているこの結果は興味深い。ブームのピークを超えたあたりから、韓国ドラマが放送される枠は地上波から消えて行き、視聴者ターゲットが韓国ドラマファンの年齢層と合致する無料BS各局で放送されるようになっていったのがこれまでの流れだった。それがここにきて、Netflixの参入で盛り上がりつつある定額制動画配信サービス(SVOD)や、今年4月に開局したテレビ朝日肝入りの「Abema TV」のドラマチャンネルにも韓国ドラマが投入され、日本の恋愛ドラマに飽きた若い世代に視聴の機会が広がっている状況が作り出されている。

この背景には韓国ドラマは放送や配信する側にとって著作権等の扱いなどが容易であることも大きい。カンヌのテレビ見本市に来場するドラマのバイヤーに日本と韓国のドラマの違いについてインタビューした際にこんな話を聞いたことがある。

「新しい作品は繰り返しオンライン上で宣伝していくことが効果的。韓国ドラマは、100枚以上の写真をフリーに使えるから、視聴者に覚えてもらいやすく、浸透が早い。キャストも現地に直接足を運びプロモーションに積極的です。一方、日本のドラマはプロモーションに制限があり、ネックになることも多い。」

中身ではなく、こうしたプロモーションのやり方で差が出てしまうのは残念な話である。国内で制作費を回収できる日本のドラマと違い、韓国の場合、輸出を当初から見越して制作せざるを得ない状況ゆえに、海外セールス体制も整っている。

以前もここで紹介したが、キム・スヒョンとチョン・ジヒョンによるラブコメ『星から来たあなた』やソン・ジュンギとソン・ヘギョによるヒューマン・ラブストーリー『太陽の末裔』など、毎年のようにわかりやすく目玉のコンテンツを生み出していることも強さの理由にある。

しかし、けっして安泰ということでもないようだ。昨年韓国・釜山で行われた制作者フォーラムで、平均視聴率20%以上をマークした医療ドラマ『ヨンパリ』の演出担当オ・ジンソク氏が「韓国国内のドラマ視聴率が下がっている。これをどう乗り切るか、共通の悩みとしてある。海外でヒットするからといってラブコメや歴史ものが安易に制作され、同じ内容が繰り返された結果、地上波では特に若い世代の視聴者離れが進んでしまっている」と話していた。

危機感を抱く状況は日本も韓国もどうやら同じだが、日本の民放ドラマが最終回を迎えているようなこの時期に、ついつい見始めてしまうようなきっかけが韓国ドラマはうまく作られている。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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