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コロナ禍でも果敢に挑戦!リアルとバーチャルを連動させた、名古屋のレトロ商店街

大竹敏之名古屋ネタライター
円頓寺商店街オンラインは11月20日開設。実在する30店舗がWeb上に再現される

「Go To商店街」事業でオープンしたありそうでなかった商店街HP

名古屋の円頓寺(えんどうじ)商店街が、「円頓寺商店街オンライン」をこの11月20日に開設しました。経済産業省による新型コロナウイルス対策の支援事業「Go To商店街」の採択事業のひとつです。

ひと言でいえば“商店街のホームページ”ですが、実はこれがありそうでなかったもの。もちろんHPを持つ商店街は全国にありますが、内容はマップに店舗の営業時間や定休日、イベント情報まであれば上出来で、個々の店舗の最新情報をタイムリーに発信したり、ECサイトとして利用しやすいものにはなかなかお目にかかれません。また、一部にバーチャル商店街と呼ばれるものもありますが、これらはEC版セレクトショップともいうべきもので、商店街として実在するものではありません。「円頓寺商店街オンライン」は、リアルとバーチャルを連動させた、全国でもあまり例のない商店街による本格Webサイトなのです。

円頓寺商店街は江戸初期がルーツの名古屋で最も歴史がある商店街。名古屋駅と名古屋城を結ぶ好立地にある。70年代の市電廃止でにぎわいを失うが、近年奇跡的復活を果たし人気エリアに復権した
円頓寺商店街は江戸初期がルーツの名古屋で最も歴史がある商店街。名古屋駅と名古屋城を結ぶ好立地にある。70年代の市電廃止でにぎわいを失うが、近年奇跡的復活を果たし人気エリアに復権した

イベント時以外の集客&情報発信不足の課題・問題意識が発端

「『Go To 商店街』の助成金を使った事業ではありますが、アイデアとしては以前から温めていたものです」というのは同商店街理事長の田尾大介さん。かねてから課題と考えていたのは、イベント時以外の集客でした。円頓寺商店街が近年V字回復に成功した最大の要因は新しい祭りのブレイク。2013年に始まった「円頓寺秋のパリ祭」はその象徴で、アーケード街が人・人・人で埋め尽くされるほど人気沸騰。この他にも「クラブ円頓寺」「円頓寺星空マーケット」などの企画を積極的に開催し、にぎわいを呼び込んできました。

「イベントをやればたくさんの人が来てくれますが、終わったらまたいつもの景色に逆戻りしてしまう。個々のイベントはキャパ的にこれ以上お客さんを増やせないし、私たちの労力的にこれ以上本数を増やすこともできない。イベントの時だけにぎわうのではなく、日常的に立ち寄ってくれるお客さんをもっと増やしたい、と考えていました」(田尾さん)

「オンラインで完結させるのではなく、実際に足を運ぶきっかけにしてもらいたい」と円頓寺商店街理事長の田尾大介さん
「オンラインで完結させるのではなく、実際に足を運ぶきっかけにしてもらいたい」と円頓寺商店街理事長の田尾大介さん

そして、普段使いのお客をつかみ切れていないのは情報発信力不足が原因、との問題意識があったといいます。

「商店街には年配の人が経営する老舗も多いので、HPなんてない店の方が多い。セールも、新しいメニューも、あるいは臨時休業も、お客さんからすれば、現地に来ないと分からない。集客力のある百貨店や商業施設だって、情報をどんどん発信してお客さんに来てもらう努力をしているのに、商店街はいつも来てくれる人だけがお客さんだと思い込んでいる。新しいお客さんが来てくれないのではなく、来てもらうためにするべきことをやれていなかったんです」

そんな課題意識、問題意識を抱えていたところにコロナショックが。イベントは軒並み中止せざるをえなくなり、現地へ足を運んでもらうことへのハードルも高くなってしまいました。そこで、「Web上でも商店街に訪れた気分を味わえて買い物も楽しめる。デジタル上でつながりをつくって、リアルでも来てみたいと思ってもらえる、そんなオンライン商店街をつくろうと考えたんです」と田尾さんはいいます。

Web上で町歩き気分を楽しめまとめ買いもできる

円頓寺商店街オンラインの主な特徴は下記の通り。

●「円頓寺商店街オンライン」の特徴 1 ~ リアル店舗をイラストで表現

サイトでは通りに沿ってイラストで描かれた店舗が並びます。途中、寺や神社、駐車場までも描かれ、本物の商店街を歩いているかのような気分を味わえます。個々の店舗のイラストをクリックすると詳細な情報が見られ、商品の購入もできます。

オンライン上の町並み(上)とリアルな町並みを比べながら歩くのも楽しい(画像は筆者が合成)
オンライン上の町並み(上)とリアルな町並みを比べながら歩くのも楽しい(画像は筆者が合成)

●「円頓寺商店街オンライン」の特徴 2 ~ まとめ買いできるECサイト

各店舗のページからECサイトに移動して購入できる。ネット通販に対応していないメニューなどもあえて掲載し、来店をうながす仕組みも面白い
各店舗のページからECサイトに移動して購入できる。ネット通販に対応していないメニューなどもあえて掲載し、来店をうながす仕組みも面白い

商品を購入する際、普通は店舗ごとの決済となりますが、ここでは商店街で決済アカウントを設け、まとめ買いができます。

あちこちの店舗をのぞきながら買い回りする商店街ならではの楽しさを、Web上でも味わえ、かつ決済が一度で済んで便利です。

●「円頓寺商店街オンライン」の特徴 3 ~ 会員登録で最新情報が届く

ECサイトで買い物をする際には会員登録が必要。会員にはイベントやセール、個々の店舗の新商品や営業内容の変更など、最新の情報が随時届けられます。何十件の個人店が連なる商店街で店舗の旬の情報をまとめて確認できる仕組みはこれまでほとんどなかったものです。

現状はバージョン1.0。さらなる拡張で魅力をアップ

オンライン開設に合わせて食べ歩きスタンプラリー企画「WANDER GOURMET」を開催中。商店街の名店、人気店の味を300円前後のワンハンドメニューで楽しめる(12月20日まで)
オンライン開設に合わせて食べ歩きスタンプラリー企画「WANDER GOURMET」を開催中。商店街の名店、人気店の味を300円前後のワンハンドメニューで楽しめる(12月20日まで)

現在オープンしている円頓寺オンライン商店街はバージョン1.0。今後はさらに“拡張”させていきたいといいます。

「例えば、シャッターの閉まっている店舗に期間限定ショップを出店してもらうこともWeb上であれば元手なしでできる。また、今後のイベント開催は密を避けるために出店制限が必要になるかもしれませんが、オンライン限定出店を募って補てんすることもできる。現時点ではインフラを整備した段階。これに何をのっけて楽しんでいこうか、とワクワクしています」と田尾さん。

Webならではの特性を活かしながら、あくまでリアルな商店街の魅力をアップさせようとしていることが、この円頓寺商店街オンラインの最大の特徴であり、魅力。コロナ禍に苦しむ全国の商店街にとっても、よきモデルケースになるのではないでしょうか。現地に行ったことがない人もまずはオンラインから訪問し、次に円頓寺リアル商店街を楽しんでみてはいかがでしょう。

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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