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岩手大学講義出欠確認用スマホアプリ騒動 ~何が炎上を引き起こしたのか~

森井昌克神戸大学 名誉教授
岩手大学出欠アプリ

岩手大学、出席はもとより、欠席した場合もGPSから位置情報が特定されるため、生徒が完全管理され、代筆が不可となる完全刑務所化アプリを出しました。

出典:Shota Omi氏のツイート

年末から年始にかけて、岩手大学が導入しようとしている出欠管理システムが大きな話題になり、出欠だけでなく、GPSによる位置特定も行っているのではないかという疑惑から、極端には学生の行動を逐一管理しようとしているのではないか、と主に岩手大学の学生以外から批判のツイートやブログ投稿が数多くなされ、いわゆる炎上状態になりました。ちょうど昨年の春に令状なしでのGPSを利用しての捜査が違法との判決が出たこともあって、GPSの位置情報からのプライバシー流出、さらに「管理」という言葉に過剰に刺激された、相乗効果による結果だと推察されます。現代の学生はプライバシーの侵害はともかく、「管理」に関してはさほど神経質ではありません。幼稚園から小学校、中学校、高等学校、それに大学でさえ、手厚く扱われているからです。この「手厚く」には一人一人の個人情報に基づいた、いわゆる管理が含まれています。管理されることに抵抗はほとんどないのです。もう今では当然のことのようになってしまいましたが、大学でさえ、定期的な学生の個人面談だけでなく、保護者会や三者面談まであるのです。冗談ではなく、授業参観の可否まで考えられています。

岩手大学が学生向けに行った説明によると、教室に設置したビーコンとBluetoothで通信して出欠を把握するシステムになっているとのこと。そのためBluetoothが有効になっていればGPSはOFFでも構わないとのことだが、いっぽうでアプリに対し位置情報の利用権限を与える際のポップアップ画面では位置情報の利用を許可しないと出席報告が正常に行われないとの説明がされるという(高木浩光氏のTweet)。

出典:大学の講義出欠確認用スマホアプリが話題に、GPSで学生を追跡している?【スラド】

炎上の原因は、いかにも出欠確認以外でGPSによる位置情報を収集しているかのようにアプリの説明を行ったこともありますが、出欠における不正の可否にかかわらず、出欠管理を厳格に行うことに快く思わない、かつての大学生が過剰に反応した結果でしょう。

岩手大学がスマートフォンを活用した出席管理システムを試験導入します。アプリは富士通が大学側との話し合いを経て開発したもの。Twitter上では行き過ぎた管理ではないか? と議論の対象にもなっています。導入の経緯やその狙いについて、大学側に話を聞きました。

出典:岩手大学、出席確認にスマホアプリを試験導入 学生から“完全刑務所化”と批判も、大学は「GPS情報収集しない」と説明 考えがあってのことのようです。【ねとらぼ】

筆者も大学教員であり、実際に現在も大学学部学生に対して講義を行っています。その講義の中で出欠を取るのですが、この出欠を取る手間が無視できないのです。大学の講義自体は出席することを前提としていること、さらに出席することは手段であって、結果ではなく、あくまでも結果はその講義内容の理解であって、極端に言えば、講義に出ずとも講義内容を理解することができればそれで充分なのです。したがって、出欠を取る必要がないという意見も聞かれます。しかし、出欠を取る目的が異なるのです。現在の出欠確認の主目的は、講義内容の理解とは無関係であって、学生の生活管理の一環なのです。私自身は大学生は独立した大人として扱うべきであると考えますが、実際は親の管轄下にあります。大学に来ることなくアルバイトや遊びに精を出す学生に対しては、その事実を親に伝える必要があります。これを怠り、留年でもしようものなら親からクレームが来るのです。また大学生活に慣れず、自宅に閉じこもる学生も少なくありません。これらの学生に対しても十分なケアをする必要があるのです。スマホを用いた出欠管理システムはこれらの学生の早期発見を目的としているのです。

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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