マンネリ化した正力松太郎賞には改革が必要
2015年の正力松太郎賞に、日本一ソフトバンク・ホークスの工藤公康監督が選出された。同賞は、「プロ野球の発展に最も貢献した球界関係者」に贈られるそうだ。今季のソフトバンクの圧倒的な強さを考慮するとそれもありかな、とは思う。しかし、過去の受賞者を見ると、同球団がこれほどまでに強くなくても工藤監督が選ばれたと思うし、もし他球団が日本一になっていれば、そこの監督が選ばれた可能性は極めて高いと思う。果たして、日本一監督こそが「プロ野球の発展に最も貢献した球界関係者」なのか?
これまで累計で42人がこの賞に選出されているが、内29名は日本一監督だ。しかも2001年以降は、複数人が受賞した03年(日本一監督の王貞治とセ・リーグ優勝監督の星野仙一)と12年(日本一監督の原辰徳とセ・リーグMVPの阿部慎之介)も含め、全ての年で日本一監督またはWBC優勝監督(06年 王貞治)が選出されている。
一方、この賞が制定された1977年以降、三冠王達成者は落合博満(82年/85年/86年)、ブーマー・ウェルズ(84年)、ランディ・バース(85年/86年)、松中信彦(04年)とのべ7人生まれているが、だれ一人受賞していない。また、三冠王とはいかないまでも、01年のタフィ・ローズと02年のアレックス・カブレラ(ともに55本塁打)、02年の松井秀喜(50本塁打)、08年の岩隈久志(投手三冠王)、14年の田中将大(24勝無敗)とウラディミール・バレンティン(60本塁打)らは、今季のトリプルスリーコンビの山田哲人と柳田悠岐同様「最も球界に貢献した」と言えるレベルだと思うが、そうは認定されていない。要するに、正力賞とは「日本一監督賞」なのだ。
ここまで日本一監督賞化してしまっては、もはや軌道修正は難しい。来季も日本シリーズを制した監督が選ばれるだろう。このようなマンネリ化した選出を回避するには、「プロ野球の発展に最も貢献した球界関係者」という極めて概念的な選考対象をもう少し具体的に落としこむ必要があるだろう。例えば、選手で言えばこう、指導者ならこう、現場組以外ではこう、というように部門別にガイドラインを設定し、各部門から予め候補者をノミネートした上での選出としてはどうか。
また、正力賞のように(本来は)極めて対象領域が広く観念的な賞の選出おいては、数人のみの選考員会による合議制というプロセスは向いていない。委員会の中で最も発言力のある人物の意見に引きずられがちとなるからだ。なるべく広範囲の有識者による投票制が望ましいと思う。
主宰の読売新聞社は、この賞を「球界で最も権威ある賞」とも自称しているが、そのように形容しているのは同社系メディアだけだ。だれもが、正力賞を「最も権威がある」と認識するようにするには、まずは選考プロセス自体を見直すべきだと思う。