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松山英樹の寡黙が物語るもの

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
開幕前日の会見。松山の表情は固く、言葉数は少なかった(写真/舩越園子)

プレジデンツカップの開幕を控え、松山英樹の表情がどんどん硬くなってきた。

前週の土曜日に現地入りして以来、自主練習も世界選抜チームメンバーとの公式練習も重ねてきた。松山の傍らには副キャプテンの丸山茂樹がムードメーカーとしてもアドバイザーとしても伴っていてくれる。

だが、それでもなお松山の表情はどんどん硬くなっていく。

練習ラウンド後、松山は当初の予定通り、会見場に呼ばれ、立ち姿勢でメディアの質問に答える簡易形式の会見に臨んだ。

が、その際も松山の表情に笑みが浮かぶことは皆無。質問に対しても、一言二言の短い返答になりがちだった。

仏頂面で寡黙な松山は、ご機嫌斜め?それとも取材嫌い?

いやいや、そういう話ではないだろう。

松山に笑顔が出ないのも、口数が減る一方なのも、その理由はちょっと考えれば察しがつく。21歳の双肩にのしかかるプレッシャーはあまりにも重く、生真面目でまっすぐで、ちょっぴり不器用な松山は、その重みをストレートに受け止め、そして押しつぶされないように必死なのだ。

そんな切羽詰まった場面で、ニコニコ笑ったり、ペラペラしゃべったりはできない。それほど彼の緊張度は高まっている。

【不慣れと初のオンパレード】

94年に創設されたプレジデンツカップは今年で10回目を迎える。過去9回の大会は、米国選抜が7勝、世界選抜はわずか1勝、引き分けが1回。米国選抜が圧倒的な強さを誇っているが、その戦績は、ある意味、当然と言えなくもない。

大陸や国や地域の名誉をかけて戦うチーム戦といえば、その元祖は米欧対抗戦のライダーカップ。プレジデンツカップは、ライダーカップのような魅力と興奮を米欧以外にも伝えたい、味わってほしいということで、ライダーカップを模して創設された米国選抜と欧州を除く世界選抜の対抗戦だ。

つまり、米国だけは2人1組でフォーボールやフォーサムのマッチに挑むチーム戦というものを毎年経験することができる。欧州選手は2年に1度、世界選抜の選手も2年に1度しか経験できず、2年の間に選手たちの勢力図は変化もするわけだから、いざプレジデンツカップを迎えたとき、米国選抜がすっかり慣れっこであるのに対し、世界選抜チームは「不慣れ」のオンパレードになる。

今年、世界選抜の12名の選手の中で大会初出場のルーキーは7名。選手たちの平均年齢は世界選抜が31.42、米国選抜が33.58で、その数字からも世界選抜の面々の若さゆえの未熟さが感じられる。

世界選抜の中で最年少の松山は、初出場であるのみならず、開催コースのミュアフィールドビレッジをプレーするのも初めて。そして、フォーサム形式でマッチを戦うのも「アマのときに1度ある」ものの、プロ入り後は初めてだ。

世界選抜のキャプテン、ニック・プライスは毎日必ず松山の名を口にする
世界選抜のキャプテン、ニック・プライスは毎日必ず松山の名を口にする

一人でこれだけの「初」が揃ってしまうのは松山だけ。だから世界のメディアはキャプテンのニック・プライスにこんな質問ばかり投げかける。

「コースをプレーしたことがない選手がいるのはチームにとって不利なのではないか?」

「マツヤマの言葉の壁は大丈夫なのか?」

そういう空気を松山が察知しないはずはない。英語がわからずとも、初出場であろうとも、自分に対するそういう空気を松山は敏感に感じ取る。

そんな環境下に置かれた21歳の若者が緊張しないはずはない。表情が硬くならないはずはない。言葉だって自然と少なくなる。

【剣道で言えば、次鋒】

辛辣な質問が飛ぶたびに、ニック・プライスは必ず松山を擁護する。いや、擁護というより、松山に期待を寄せ、信頼している。

「ヒデキは学ぶのが早いから大丈夫」「ヒデキの小技は武器になる」

そして、プライスはこう付け加えた。「我々、世界選抜チームは熟練選手揃いの米国に比べ、経験も少なく、未熟だ。私自身、キャプテンを務めるのは初めてだ。だが、我々には経験がなくても熱意がある。その熱意でいい流れを作り出したい。勝利を願っているけれど、勝つことはMUSTではない。米国チームと対等に熱い戦いを繰り広げること。それが我々に課せられたMUSTだ」

松山はアダム・スコットとペアで第2マッチに起用された
松山はアダム・スコットとペアで第2マッチに起用された

初日はフォーボール形式の6マッチが行われる予定で、松山はアダム・スコットとペアを組み、米国選抜のビル・ハース&ウエブ・シンプソンを相手に第2マッチを戦うことが決まった。

前回大会までは初日はフォーサム6マッチが行われていたが、フォーサムは世界選抜の不慣れぶりが成績に如実に反映されて不利になりすぎるという意見が聞き入れられ、今年から初日のマッチはフォーボールに変更された。

だからこそ、初日の出だしから勝ち星をどんどん挙げて、いい流れたい――そう願うプライスは、第1マッチに26歳のジェイソン・デイ、第2マッチに21歳の松山という若い力を起用し、ヤングパワーに流れ作りの役目を託した。

剣道で言えば、第1マッチは先鋒、第2マッチは次鋒だ。

「2番目のマッチに起用されたのは、プライスの期待の大きさの表われだよね」

そう言ってみたら、松山はこわばる頬をほんの少し緩めて「そうなのかな?」という表情を一瞬だけ見せた。が、すぐさま厳しい顔に戻り、「わかんないっす」とだけ答えて忙しそうに室内へ消えていった。

だが、松山の仏頂面と寡黙ぶりは、彼の覚悟、彼の心意気の反映だ。

「キャプテンの期待にこたえられるよう、やるしかない。(重要なことを)決めるのはキャプテンと丸山さん。自分は口をはさむことはしない。言われたところで言われたようにやるだけです」

ペアを組むアダム・スコットも、こう言った。

「グッドショットは世界語だよ」

饒舌にはなれないし、ならない。英語はわからないし、要らない。求められるのは、グッドゴルフのみ。

プレジデンツカップで見せる松山のゴルフこそが、松山の「言いたいこと」「語りたいこと」「見せたいこと」。

だから松山は今、仏頂面で寡黙なのだ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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