100年後もこの暖簾を残していきたい/お菓子処丸美屋 若山忠義さん
青森県八戸市。ここに、創業から90年を数える老舗和菓子店があります。「お菓子処 丸美屋」です。現代表の若山忠義さんの祖父が始めたそうで「和菓子店として創業し、そのあと洋菓子もつくっていたようです。本格的に洋菓子を始めたのは父の時代からなんです」と、若山さんは話します。
戦禍をも切り抜けた老舗和菓子店
その後、太平洋戦争がはじまり、砂糖が配給制に。
「私が生まれる前の話で、親からも聞くことはなかったのですが、最近組合の仕事を始めるようになって、その当時のことを調べる機会がありまして。統制配給といって砂糖の配給からつくったお菓子をどこに売るかを決める組合がいくつかできたそうなんです。うちの初代も地域の組合をまとめて組合長をしていたようで、戦中戦後は結構苦労したと思いますよね」。
継ぐことが当たり前。老舗の長男に生まれて
こうして脈々とつないできた家業。若山さんも幼いころから工場に出入りし、継ぐことが当たり前のように育ってきたそうです。
「職人さんも出入りの業者さんからもそういう声のかけられ方でしたし、家では当然父の隣に座らされて、そういう育てられ方をしましたから、ほかの道は考える余地がなかったんですよね。私の父は大学に行きたくても行けなかったもんだから、私は大学進学をさせてもらえて、そこで食品関係を勉強しました。大学卒業後は知り合いの伝手で京都の和菓子屋さんに入ったんです。でも、やっぱり工場の職人としては使ってもらえなくて、担当したのは外回り。でも、京都の和菓子屋さんの雰囲気に触れるいい機会になりました」。
2年後、八戸に戻ってきた若山さん。
「戻って来てからはすぐに工場で働き始めました。『はまべの花』というパイまんじゅうがあるんですけれど、それをつくっていました。食べた方が笑顔になるのがうれしくて。お客さまの笑顔の中で仕事ができるのは菓子屋冥利につきます。私どもはお葬式用のお菓子を作ることもあるんですけれど、お式が終わった後で甘いもので少しホッと一息いれていただくことができているのかな、と。たまに『お葬式でいただいたおまんじゅうがおいしかったので買いに来ました』と来てくださるお客さまもいるんです」。
この先100年、暖簾を残すために―
葬式だけでなく、結婚式の引き出物など、人生の節目をお菓子で彩ってきた丸美屋。10年後の創業100年に向けてのビジョンを伺うと「やっぱり暖簾は残していきたいですよね。今はとても苦しい時期ではあるのですが、それを乗り越えて盤石なものにし、次に継いでくれる人にしっかり渡したいです」。
コロナ禍で冠婚葬祭が厳しい状況にある中、家業を残していくために若山さんが生み出したお菓子があります。それが、「雪中果」。真っ白な粉の中に真っ白なマシュマロが隠れている、ユニークなお菓子です。
「津軽の方で雪の中にりんごを貯蔵して、それを春になったら出して食べるっていうのがあったよな、と思い出して。雪の中に埋もれたお菓子を探して食べるっていうのは面白いんじゃないかと考えました」。
このアイデアとパッケージデザインの美しさもあり、「雪中果」は仙台市産業振興事業団が主催する「第9回 新東北みやげコンテスト」で優秀賞を受賞しました。今後は、この「雪中果」も新たな丸美屋の“顔”としておおくの人を笑顔にすることでしょう。
「雪中果」の誕生のものがたりは、仙台市産業振興事業団が運営する「暮らす仙台」でもご紹介しています。ぜひご覧ください。
本店
青森県八戸市小中野8-8-35
TEL:0178-22-6105
営業時間 9:00〜17:00
毎週火曜日定休
八食センター店
青森県八戸市河原木字神才22-2
TEL:0178-28-1298
営業時間 9:00〜18:00
毎週水曜日定休
取材:2023年7月