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リバティアイランド牝馬三冠へ。最終戦・秋華賞という壁

勝木淳競馬ライター
撮影・筆者

■桜花賞よりオークスで圧倒した牝馬三冠馬は

リバティアイランドが史上7頭の牝馬三冠をかけ、秋華賞に挑む。牝馬の三冠レース最終戦が秋華賞になったのは1996年から。これ以降だと、2003年スティルインラブ、10年アパパネ、12年ジェンティルドンナ、18年アーモンドアイ、20年デアリングタクトの5頭になる。

牝馬路線はご存じの通り、2歳阪神JF、チューリップ賞、桜花賞と第一冠まで主要レースはすべてマイル戦で行われ、特に阪神外回り芝1600mを中心に進む。よって、第二冠オークスでは関東圏、左回り、芝2400mと未知なる領域に入り、この条件変更が大きな壁になると指摘される。とりわけ大きいのは距離だ。1600mから800mも延びるため、道中のペース、走るリズム、問われる適性すべてがマイルとは異世界になる。これをわずか1カ月ちょっとで身につけないといけない。もちろん、歴代牝馬三冠馬はこの壁を乗り越えてきたわけだが、それでも桜花賞よりオークスで2着との着差を広げてきた馬は少なく、旧体系時代の1986年メジロラモーヌ(オークスと桜花賞の差0.1)とジェンティルドンナ(0.7差)の2頭に限られる。

そんな歴史を振り返ると、リバティアイランドの三冠は確実と思えてならない。桜花賞は後方から直線一気で0.2差、オークスでは好位の後ろから1.0差、その差0.8はジェンティルドンナをも上回る。同世代には敵なし。オークスのゴール前でそんな言葉がよぎった。秋華賞は通過点とすら思えてくる。

■ライバルとの差が接近する秋華賞

だが、歴史はもうひとつ教える。

ジェンティルドンナはオークスでヴィルシーナに0.8差もつけたが、秋華賞はタイム差なし、その着差はハナ差まで縮められた。牝馬三冠のうち、秋華賞が最小着差着差が小さかったのはスティルインラブ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイの3頭。現体系の牝馬三冠馬の半数以上が秋華賞でライバルにもっとも迫られたことになる。さらに春二冠を達成しながら、秋華賞で敗れた二冠牝馬も、昨年のスターズオンアースと09年ブエナビスタと2頭いる。どちらも3着(ブエナビスタは2位入線、3位降着)と決して走れなかったわけではない。

なぜ、秋華賞で力の差が接近するのか。ひと夏を越え、ライバルたちが逞しくなったこともあるが、舞台が内回り芝2000mであることが大きい。スターズオンアースは阪神だったが、同じく内回りで出遅れが響いた。ブエナビスタは内枠から勝負所で馬群をさばくのに手間取った。春は直線の長いコースで争われ、世代ナンバー1の脚力によって結果を残してきたが、最終戦は、スタート直後1コーナーまでの距離が短く、最後の直線も短いため、はじめて器用さを問われるといっていい。

枠順も春二冠以上に重要度を増し、運の要素も強くなる。牡馬三冠のうち、内回りで行われる皐月賞がもっとも着差が小さくなるのと類似する。牡馬は第一冠、牝馬は最終戦に不確定要素が入り込みやすい難所が用意されている。競馬場や距離の違いを乗り越えられる脚力にもう一つの要素を加えられないと、牝馬三冠は達成できない。リバティアイランドの脚力は同世代であれば、相当違う可能性は考えられるので、無用な心配に終わりそうな気もするが、なにかが起こるなら、秋華賞でもある。かつて秋華賞は夏の上がり馬が春の勢力を凌駕し、波乱決着になることも多かった。最近は大人しい秋華賞だが、思わぬハイペースに陥り、予想外の結末を迎えがちでもあった。

もちろん、リバティアイランドはオークスのように好位の後ろにとりつき、いつでもどこからでも抜け出せるような競馬も、桜花賞のような後方一気もできる。春二冠で披露した、舞台に合わせて競馬を変えられる器用さこそ、秋華賞で強気になれる武器でもある。アーモンドアイの歩みに似た道をたどってきたリバティアイランドにとって、秋華賞がどれほどの壁なのか。週末、しっかり見届けよう。

競馬ライター

かつては築地仲卸勤務の市場人。その後、競馬系出版社勤務を経てフリーに。仲卸勤務時代、優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)、AI競馬SPAIA、競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。近著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ(星海社新書)

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