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山尾志桜里氏「男女の関係はありません」不倫疑惑を否定し、民進離党 吉と出るか、凶と出るか

木村正人在英国際ジャーナリスト
民進党を離党した山尾志桜里議員(写真:つのだよしお/アフロ)

「私1人で宿泊」

“肉食のジャンヌダルク”山尾志桜里(43)イケメン弁護士(9歳下)と「お泊り禁断愛」――「文春砲」こと週刊文春の9月14日号(7日発売)でダブル不倫疑惑が報じられた民進党の元政調会長、山尾志桜里衆院議員が7日、離党届を出すとともに、「記事記載のホテルについては、私1人で宿泊をいたしました。弁護士と男女の関係はありません」と疑惑を全面否定しました。

山尾氏は記者会見で以下の通り説明しました。「週刊誌に記載のある弁護士には、憲法問題や共謀罪、雇用問題など極めて幅広い政策分野において、政策ブレーンとして、具体的な政策の立案・起案作業や質問・スピーチ・原稿などの作成作業をお手伝いいただいてきました」

「政策立案や質問作成などの打ち合わせと具体的な作業のため、弁護士とは頻繁にコミュニケーションをとってまいりましたし、こうした打ち合わせや作業は、2人の場合もそれ以上の複数人である場合もありました。打ち合わせ場所については、双方の事務所や会食の席上である場合が相当多数回ありますが、弁護士のご自宅の場合もありました」

山尾氏は政治家なので、報道されたお相手の弁護士と双方家族への配慮以外に、有権者、そして民進党の仲間にどう受け止められるか、という政治判断が大きく働きます。山尾氏の説明が本当なら離党する必要はないのに、どうしてこのような決断に至ったのか、考えてみましょう。

(1)離党せず、民進党に留まった場合

疑惑がくすぶり続け、メディアにいろいろ痛くない腹を探られます。自分を幹事長に抜擢しようとしてくれた前原誠司新代表にも大きな迷惑をかけることになります。「文春砲」を名誉毀損で訴えても、法廷で答えが出るのにはかなり長い時間がかかります。政治的には山尾氏にとっても民進党にとっても大きなマイナスです。

(2)離党した場合

日本的にはけじめをつけた形となり、メディアの関心は一気に冷えます。民進党に留まっても所詮ヒラ議員なので、ここはいったん潔く身を引いた方が、株が上がります。後に「文春砲」の勇み足が証明されたら、株はさらに上がるでしょう。ダメージ・コントロールとしては離党という対処法がベストだったと言えるでしょう。

「男女関係」があったのか、なかったのかは、結局は同じ部屋にいた山尾氏と弁護士の2人にしか分からないことで、真相は藪の中。密室の録音テープでも出てこない限り、ダブル不倫があったとも、なかったとも永遠に証明できないでしょう。

週刊文春にダブル不倫疑惑として報道されたこと自体、「誤解を生じさせるような行動で様々な方々にご迷惑をおかけしましたこと、深く反省しお詫び申し上げます」(山尾氏)という結論が妥当だったのかもしれません。

元検察官と弁護士の2人が疑惑を否定しているので、第三者は「なかった」と信じるしかありません。問題が法廷に持ち込まれても、おそらく「なかった」という判断が下されるでしょう。

政治にはこの手の騒動はつきもので、弁護士と2人きりで行動した山尾氏は政治家として脇が甘すぎました。真偽を知るすべがない有権者は、その後の対応で政治家の力量をはかるしかありません。

男性補佐官と同室にお泊りした英外相のゲイ疑惑

イギリスの元外相ウィリアム・ヘイグも性的指向をめぐってネット上で悪質な攻撃を受けたことがあります。

ヘイグはオックスフォード大学時代、政治一筋でガールフレンドがいませんでした。政治家になってからも政策アドバイザーや側近にゲイ(同性愛者)を何人か登用したことから、「ヘイグはゲイ?」というウワサがしつこく流れるようになりました。

2010年の総選挙中の出来事です。ヘイグはツインベッドをくっつけて並べた同じ部屋に選挙運動員の若い男性と宿泊していたとのウワサがたちました。外相に就任したヘイグがこの男性を特別に3人目の補佐官に採用したことから「不適切な関係」という告発が政治ブログで一気に火を噴きました。

ヘイグは野球帽にサングラス、白のTシャツ、濃紺ジーンズというカジュアルな服装で、この男性と一緒に笑いながら川岸の道を散歩する様子もフォーカスされていました。しかし、ネット上のウワサなので、ヘイグは黙殺することもできました。

労働党にはゲイであることを公表している大物政治家もいますが、保守党の政治家にとって当時はまだ、ゲイであることはタブーでした。ひと昔前には、若いころ男性と一夜をともにしたことが暴露され、政治生命を失った閣僚経験者もいます。

「男性と関係を持ったことはない」

ヘイグはゲイ疑惑に立ち向かいます。声明を発表して、選挙期間中、男性と何回か同じ部屋に泊まっていたことを認めたものの、それ以上のものではなく、「私は男性と関係を持ったことはない」とゲイ疑惑を否定したのです。今回の山尾氏の対応とそっくりそのままです。

ヘイグは妻が何回も流産し、夫婦で深く悲しんでいることも明らかにしました。男性は特別補佐官を辞任しました。

翌日、イギリス外務省で行われたドイツ外相との共同記者会見では、堰を切ったように大手メディアの意地悪な質問がヘイグに集中しました。それまで明確な「公共の利益」違反が見当たらないため、大手メディアはプライベートな問題だとして追及を控えていたのです。

もし、声明にごまかしが一カ所でもあれば、ヘイグは政治生命を失います。首相官邸もメディアに正面から挑むのをやめるようヘイグを引きとめたそうです。実際、ヘイグが声明を出したことで騒動はネット上だけにとどまらず世界的なニュースになってしまいました。ヘイグは墓穴を掘ったという見方がもっぱらでした。

しかし、これを機にヘイグに長年つきまとってきたゲイ疑惑は一掃されたのです。

「ウソ」より「本当」が支持される

記者会見直後の世論調査で、46%がヘイグ外相は「本当のことを言っている」と評価し、「ウソをついている」の12%を大きく上回りました。「声明を出したのは正解」と回答したのは59%で、「誤り」は17%。「若い男性と同じ部屋に泊まったのは間違った判断」と答えたのは43%、「間違った判断ではない」は42%と拮抗していました。

ヘイグは妻と痛みを共有することで、政治家として有権者の信頼を勝ち取ったのです。

政治家として生きのびたヘイグは12年、「1990年代のボスニア内戦で最大5万件のレイプが行われたのに起訴されたのは30人。今、シリアから無辜(むこ)の人々に対する殺人、拷問、弾圧と並んでレイプのニュースが伝わってくる」と紛争下の性的暴力防止キャンペーンの開始を宣言しました。

ボスニアで性的暴力が戦闘の手段として使われた事実を描いた米映画「最愛の大地」の監督を務めた米女優アンジェリーナ・ジョリーさんに連絡を取り、「イギリスの影響力と外交のネットワークを紛争下の性的暴力を阻止するために使いたい」と口説き落とし、ロンドンで「紛争下の性的暴力を終わらせるグローバル・サミット」を開催しました。

スキャンダル対処法

政治家にも守られなければならないプライバシーがあります。しかし、メディアによってそれが暴かれた場合、政治家がどう対応するのか、有権者はみているのです。

セックス・スキャンダルで受けるダメージを少しでも和らげる心得の一は「否定するより、できるだけ早く非を認めて謝る」ことです。セックス・スキャンダルを否定してウソがばれた場合、今度は「ウソつき」という烙印が押され、失地回復が難しくなります。

北朝鮮の核・ミサイル実験が相次ぐ最中でのダブル不倫疑惑が本当だったとしたら、政治家に相応しくないでしょう。さらに山尾氏の声明に少しでもごまかしがあれば、すべての信用と政治生命を失うでしょう。

人間の欲望が渦巻く政界はジェラシー(嫉妬)の海です。山尾氏の足を引っ張りたい人はたくさんいます。しかし、山尾氏を守り切れなかった民進党も、前原新代表も株を下げました。山尾氏が「ウソつき」でないことが証明された場合、政治家として一回りも二回りも大きくなって檜舞台に戻って来るのは間違いありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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