Aチームより機能したBチーム。それでも指揮官はAチームの選手に信頼を置くのか【ウズベキスタン戦分析】
スタメン10人を変更した指揮官の狙い
グループステージ最初の2試合に勝利してグループ2位以上が確定していた日本が、同じ勝ち点6ながら得失点差で首位に立っていたウズベキスタンと対戦。2-1で逆転勝利を収めたことにより、3連勝を果たした日本のグループ首位通過が確定した。21日のラウンド16では、グループEの2位サウジアラビアと対戦する。
通算5度目のアジア制覇を目指す日本にとって、このウズベキスタン戦は勝利という結果はもちろん、大幅にメンバーを入れ替えたなかでいくつかの収穫を見つけられたという点においても、全体的にはポジティブな試合だったと言える。
ただし、最初の2試合(トルクメニスタン戦、オマーン戦)との関連性、そして次のラウンド16(サウジアラビア戦)以降との継続性という視点に立ってこの試合を評価すると、残念ながらそれほどポジティブな材料は見当たらない。これまでの森保一監督のチーム作りと采配が、皮肉にもそれを裏付けてしまっている。
そのひとつが、この試合を振り返るうえで大前提となるスタメンの編成だ。
ここまでの2試合をレギュラーメンバーでほぼ固定して戦った森保監督は、「できるだけ多くの選手を起用したい」と公言していたとおりのスタメンをセレクト。グループステージ2試合目のオマーン戦から北川航也(清水エスパルス)を除く10人を変更し、スタメンの総入れ替えを行なっている。
これにより、負傷中のGK東口順昭(ガンバ大阪)以外、日本はグループステージ3試合ですべての選手が出場したことになる。つまり、レギュラー組と控え組が明確に分けられた格好だ。
過去2試合、森保監督が試合中の選手交代を計3度しか行なっていなかったことを考えると、グループステージ突破を決めた状態で迎えたこの試合では、レギュラー組を休ませるためにこのような編成をするしかなかったと見ることもできる。また、そこには昨年10月、11月の親善試合で見えた森保監督のチーム作りとの整合性も伺える。
レギュラーとサブを明確に分けて、交代枠を使い切らずできるだけ同じメンバーで長い時間を戦ってチームの精度を高めていく。過去の国内親善試合を振り返っても、森保監督がこのアジアカップをいかにして戦い抜こうと考えていたのかが見えてくる。
そのやり方で最大7試合を戦うアジアカップを乗り切れるかどうかは、大いに疑問が残る。もちろん現時点ではその行方は未知数の部分もあるが、少なくとも決勝トーナメント以降にその方針が変わる気配がない現時点においては、ウズベキスタン戦は、トルクメニスタン戦やオマーン戦とはまったく別のところで評価する必要がある。
また、ウズベキスタンを率いるエクトル・クーペル監督も、2戦目のトルクメニスタン戦からスタメン5人を入れ替えていた。GK、センターバック2枚、アンカー、2列目センター1枚、そして1トップを継続して起用し、両サイドの4枚と2列目センター1枚を変更。根幹を成すセンターラインをそのままにして、比較的年齢の高いサイドの選手を温存して、ターンオーバーを採用している。
失点直後に追いついたことが分岐点
果たして、試合前に両チームの指揮官が勝利を目指すことを公言していた試合は、お互いどこまで本気で勝利を意識して戦ったのかが極めて微妙な試合となった。すでにグループリーグ突破を決めているチーム同士の対戦なので当然ではあるが、控えメンバーだけでスタメンを編成した日本の方が、勝敗のリスクよりも主力選手の休養に重きを置いて戦ったと言っていいだろう。
2軍の日本が、1.5軍のウズベキスタンと戦った試合。両チームのスタメンの編成上、この試合の構図としてはそうなるが、そもそも1軍対1軍の両チームの力関係からすれば、ほぼ互角の対戦と言っていい。実際、試合内容は拮抗したものになった。
ウズベキスタンのシステムは、それまでの2試合と同じ4-1-4-1。この試合の性質上、特別な日本対策を図った形跡は見受けられなかった。
日本のセンターバックがボールを保持したときの基本的な守備方法としては、前から行かずに2列目の左センターを務める22番シディコフと、1トップの14番ショムロドフが日本のダブルボランチをケア。今大会初出場となったジュビロ磐田所属の18番ムサエフは、シディコフと対の関係になるようにアンカーの横まで下がって中央へのパスコースを塞ぐ形をとった。
ボールを奪った後は1トップへのロングボールを使って縦に速い攻撃を見せ、控え選手だったこともあってか両サイドバックのオーバーラップはほとんどなし。基本的に、両ウイング、1トップ、そして2列目シディコフの4人で攻めるプレーモデルだった。1.5軍の相手がノーマルな戦い方をしてくれたことで、サブ組だけでメンバー編成をしていた日本が救われた部分は多い。
この日、慣れないボランチでプレーした塩谷司(アルアイン)を含め、乾貴士(ベティス)、そしてオマーン戦で途中出場していた武藤嘉紀(ニューカッスル)は、いずれも森保ジャパン初招集かつ負傷者が出たことで追加招集された選手。たしかに最終ラインの4人は昨年9月11日コスタリカ戦の先発メンバーだったものの、ほとんどぶっつけ本番で挑んだチームにとって、この試合のウズベキスタンは戦いやすい相手だった言える。
とはいえ、日本は立ち上がりからペースをつかんだものの、開始から15分間で効果的な縦パスは14分に三浦弦太(ガンバ大阪)が中央の北川に入れ、ダイレクトで伊東純也(柏レイソル)を狙ったパスのみ。攻撃のスイッチ役を担うべき青山敏弘(サンフレッチェ広島)のパスミスが目立ったことと、受け手となる乾、伊東、武藤、北川らのポジショニングが相手の守備ブロックとかぶってしまったこともパスがつながらない要因になっていた。
相手陣内でプレーしていながらチャンスを作れないでいると、逆に日本は一瞬の隙を突かれてピンチを迎える。それが、相手のゴールキックから始まった16分のシーンだった。
高いポジションをとっていた佐々木翔(サンフレッチェ広島)の背後のスペースにロングボールが入ると、遅れた槙野智章(浦和レッズ)がショムロドフとの競り合いに負け、ショムロドフがバックヘッド。右サイドで完全にフリーとなった17番ハムダモフがそのボールを拾って始まった一連の攻撃は、最終的にショムロドフのミスによってネットを揺らすことはなかったが、これが最初の決定機となった。
このシーンを境に、日本の最終ラインに相手のカウンターに対する警戒心が生まれたことで、試合の流れは一気に変わった。そこから約15分間はウズベキスタンが日本を押し込む時間が続き、日本のボール支配率は55.6%から28.9%に激減。それでもチャンスを与えることなくしのいだ日本は、30分以降に再びボール支配率を58.9%に戻すこととなったが、この数字から見ても前半の攻防がほぼ互角だったことがわかる。
そういう意味では、1-1で終わった前半の結果は論理的だった。ただ、日本としては失点のシーンも含め、佐々木、槙野、塩谷による左サイドの守備対応、それにリンクする三浦のカバーの問題は反省点として挙げておく必要がある。
日本にとっては、前半の失点直後に反発を見せ、すぐに同点に追いついたことが大きかった。これが逆転勝利を収めることができた要因のひとつであり、同時に、室屋成(FC東京)の右サイドからのクロスを武藤がヘッドで叩き込んだ同点ゴールが、後半の日本の攻撃に好影響を与えることとなった。
森保監督が初めて見せた戦術的交代策
後半立ち上がりの時間帯でボールを保持したのはウズベキスタン。しかしチャンスを多く作ったのは日本だった。なかでも、右サイドの伊東を中心としたカウンター攻撃がその効果を発揮。左サイドの乾を起点とすることが多かった前半とは異なり、後半の日本は右サイドからの攻撃に可能性を見出した。
53分、塩谷からパスを受けた伊東がドリブルでロングカウンターを仕掛け、そのままシュート。続く56分のカウンターでは、ドリブル突破を図った伊東が右からクロスを入れ、最終的に武藤がシュート。その1分後には青山のスルーパスを受けた伊東が再びクロス。これはDFにブロックされたが、日本の攻撃は右サイドを中心に活性化し始めた。
この一連の右サイド攻撃から生まれたのが、塩谷の逆転ゴールだった。右からのコーナーキックを相手にクリアされたあと、セカンドボールを拾った室屋が右サイドからアーリークロス。一度は相手にクリアされるも、塩谷が得意のミドルシュートでネットに突き刺した。右サイド攻撃に活路を見出した日本に生まれるべくして生まれたゴールだったと言える。
伊東の特長は、右サイドを縦に突破するスピードと推進力にある。左利きの堂安律(フローニンゲン)とは異なるプレースタイルを持っているため、今後は彼を右ウイングに置くことで攻撃のバリエーションが増えるはずだ。スタメンで使うかジョーカーで使うかは監督次第だが、この試合で得た収穫だった。
同点ゴールを決めた武藤も使える目処が立ったと言える。とりわけ後半になってからは、ライン間で青山からの縦パスを受け、しっかりと収めて次の展開につなげることもできていた。負傷中の大迫勇也(ブレーメン)のパフォーマンスが上がらなかった場合は、北川よりも武藤にチャンスが与えられる可能性は高い。
残り15分は、押し込まれる日本が耐えしのぐ時間帯が続いた。この時間帯のウズベキスタンのボール支配率は72.7%。65分に負傷のハムダモフに代わって16番ツルグンボエフが起用されたのを皮切りに、76分までにウズベキスタンが交代枠3枚を使い切って反撃を開始したことが主な要因と考えられる。
この時間帯で着目すべきは、就任以来、初めて森保監督が明確な意図を持って戦術的交代を行なったことだろう。
その動きが遅すぎた感は否めないが、81分に疲労からミスが目立ち始めた乾に代えて原口元気(ハノーファー)を、85分に前線の武藤を下げて遠藤航(シント・トロイデン)をボランチに投入し、青山をトップ下に移した。その意図は、間違いなく試合終盤を守り切ることだ。また、アディショナルタイムには北川を下げて冨安健洋(シント・トロイデン)がピッチへ。相手のパワープレーやセットプレーに対する空中戦対策のカードを切っている。
しかし、冒頭で触れたように、この試合が特別な条件下で行なわれたことを考慮すると、この一連の監督采配を評価するのは難しい。仮にレギュラー組が出場する試合で同じような場面を迎えたとき、森保監督がこのような戦術的交代策を決断できたかと言えば、怪しいところがあるからだ。サブ組の選手のクオリティをどのように評価しているかも含め、現時点ではまだ森保采配に太鼓判を押すことはできない。
結局、監督采配も含めてこの試合で見えたポジティブな要素は、最初の2試合との関連性がないため、偶発的産物と言えなくもない。また、それらをラウンド16以降につなげられるかどうかも、現時点では未知数だ。
アジアカップで優勝するためにはあと4試合勝たなくてはいけない。果たして、森保監督はサウジアラビア戦のスタメン編成でどのような決断を下すのか。
指揮官に余裕はあるのか。代表監督としての資質が、これから試されようとしている。
(集英社 Web Sportiva 1月20日掲載)