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悪質な「天皇の政治利用」、産経新聞とFNNの恣意的な世論調査―改憲狙う安倍政権に利するミスリード

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
生前退位について声明を発表する天皇の動画。

天皇が今月8日、生前退位への思いをビデオメッセージとして公表した。これに前後して、天皇の激務ぶりが各メディアで報じられ、同情論が広がっている。確かに、現在82歳という高齢で、2度の外科手術も受けながら、昨年の平均で週休1日半程度、休日も夏休み、冬休みも無く働き続けている天皇の人権は配慮されるべきだろう。だが、そうした同情論にかこつけて、悪質な世論誘導も行われている。その際たるものが、産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)が今月6、7日に合同で行った世論調査を元にした報道だ。

〇「生前退位に改憲が必要」のミスリード

産経新聞とFNNは今月8日、天皇の生前退位に絡み“「必要なら憲法改正してもよい」84・7%”(産経新聞)、“「生前退位」可能となるよう改憲「よいと思う」8割超”(FNN)と報じた。これは、上記した産経新聞とFNNの世論調査での

Q14. 今後、天皇の「生前退位」が可能となるように、憲法を改正してもよいと思いますか、思いませんか。

出典:FNN世論調査

という設問への回答をもとにしたものだが、この設問自体が、非常に恣意的であり、事実をゆがめている。現在の日本国憲法において、天皇の生前退位を禁じる条文・文言はどこにもない。憲法第二条、第五条に書かれている通り、皇室に関する事項を規定する法律は、皇室典範である。この皇室典範の扱いは一般の法律と同じであり、国会で審議し、改正することができる。要するに、憲法を変えなくても皇室典範を改正したら、生前退位は可能なのだ。それにもかかわらず、産経新聞とFNNは、その世論調査や報道で、あたかも改憲しなくては、天皇の生前退位ができないかのような、印象操作、世論誘導を行っているのだ

〇悪質な天皇の政治利用

なぜ、このような事実関係と異なる、恣意的な世論調査を行ったのか。とりわけ、産経新聞は、露骨に安倍政権を支持し、改憲も行うべきだというスタンスである。日本社会全体としては、改憲への慎重論が根強い中で、改憲へのハードルを下げるための、「天皇の政治利用」だったのではないか。NNN(日本テレビ系列)の報道によれば、安倍政権関係者には「天皇の生前退位には、憲法上、無理」という意見もあるというが、産経新聞とFNNの世論調査は、こうした安倍政権の主張におもねるものではないのか。産経新聞とFNNの言い分も聞こうと、筆者は「皇室典範を改正するだけで生前退位は可能になるのに、なぜ、改憲を問う設問としたのか?」と、先日の世論調査について問い合わせたが、いずれもその回答は「お答えできません」というものだった。

〇読者や視聴者も騙されないよう、注意が必要

いずれにせよ、事実と異なる設問で、回答者や読者、視聴者をミスリードさせることは、報道機関として、絶対に許されない行為だ。産経新聞とFNNは恥を知るべきである。ただ、安倍政権が改憲に突き進む中で、こうしたメディアによる世論誘導も活発に行われると観るべきだろう。メディアの受け手である読者や視聴者も巧妙に仕込まれたウソや誘導に、十分注意すべきなのだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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